周りがうるさくて引きこもりたい②
朝食を頂いた後、自室に戻る前にゼリーが出来上がっているか確認しにキッチンへ。
程よく冷えたゼリーをお皿に出すと、ぷるぷると揺れるゼリーが私を食べてって絶対言ってる。
味見用のゼリーを切り分けて、使用人たちとひと口食べてみる。
「「「「「おいひぃ~!」」」」」
口の中に広がる柑橘系の香り。ほろ苦さと酸っぱさとシロップの甘さが複雑に絡み合って、つるんと胃に吸い込まれていく。
これはきっと使った果物も良かったのだと思う。名前は良く分からないけど、ゆずっぽい香りがするのにグレープフルーツのような味の不思議なフルーツ。
いつものようにいくつかに仕分けして、心配してくれた人の分、お世話になった人の分で箱に詰める。
二つをお父様とお母様のデザートに運ぶように伝え、残ったゼリーは使用人たちに好きに食べてと渡して部屋に戻った。
もちろん、自分用もしっかりキープしちゃった♪ ルンルン気分でウエンディに声をかける。
「ウエンディ、ただいま~! ふう、これから心配かけた人たちにあいさつ回りをしに行ってくるね。その前にステータスを見せてくれる?」
『ハイ、クロエ様。ステータスです』
やっとですか、と言いたげなウエンディの声のトーンが痛い。
早く見せたかったよね、ごめん。
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クロエ・スカーレット(17歳)
Lv.22
属性:火・地・風・闇・光
HP(体力)…………… 120
MP(魔力)…………… 6000
ATK(物理攻撃力) … 60
MAT(魔法攻撃力) … 2500
DEF(物理防御力) … 35
MDF(魔法防御力) … 2500
LUK(運の強さ) …… 486
親密度
アメリア(幼馴染)…… 449/500
クロム(婚約者)……… 620/999
ナイル(婚約者の弟)… 500/999
ガイウス(執事|暗殺者) 635/999
ハル(占い師)………… 380/500
ルカ(魔法局長)……… 452/500
ジーン(用心棒)……… 412/500
シモン(近衛師団長)… 390/500
特別スキル
スチル耐性……………… 528
虫の知らせ……………… 684
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「うへぇ、随分上がったなぁ。もう魔法については驚かないけど、特に虫の知らせがすごいアップしてる!!! LUKももうすぐ500超えそう!!! 捕獲スゴイ!!!」
『ハイ、申し上げた通り、捕獲イベントは経験値がとても貯まります』
「なんだかルカとの親密度も上がってる? クロムとガイウスは親密度下がっちゃってるけど、捕獲に一緒に行かなかったからかな?」
『ハイ、お答えします。クロム様とガイウス様は心配しすぎて親密度が落ちています。999まで解放されている方は、少しの不安でも親密度が下がりますのでお気をつけください』
「その割にはナイルはあまり減ってない?」
『ハイ、ナイル様は999まで解放されております。500以下に下げるのは少し難しくなります』
「そうよね、ゲームでも一度上限解放したら500以下には余程の事が無い限り落ちない仕様だった気がする。ありがとう、ウエンディ」
『どういたしまして。アメリア様ともなかなか進展しませんので、早めに友情を高めてください。間もなくお誕生日イベントもありますので、親密度上げに取り組んでいただきたいです』
「ああ! そうだった、誕生日! とほほ、あんまり休んでもいられないなぁ」
親密度上げの事を考えると、少し足取りが重くなった。
けど、不義理は良くない。友情エンドを目指すにしても全員のステータス上げが必要で、このゲーム一番の難関エンディングが友情エンドなんだよね。
誰とのエンディングを見るか決められるまでは、友情エンドを目指して行こうと少し前に決めてはみたものの、やっぱり誰か限定した対象のEDを見る方が絶対苦労しないんだろうとは思う。
とりあえず今日は私のエンドについて考えるよりも、心配をかけた人のところへきちんと挨拶に行かなくては。
社会人として最低限のマナーだもんね! ……今は社会人じゃないし、ただの十代の女の子だけど!
まずは執事のガイウス……って、あれ? そういえば今日は見ていない。お休みを取っているのかな?
訪問は効率よく進めたいし、ウエンディに「誰がどこにいるか分かるMAP」を出してもらって、まずは全員の場所を把握することにした。
クロムは執務室。ナイルとアメリアは学問所。ハルは飲食エリアに。ルカとジーンとシモンは魔法局に居るみたい。
まとまった場所に居てくれると移動がラクでいいよね。そういえば、ガイウスが居ないなあ。やっぱりお休みで家に居るのかな?
どうしてるか事務係に聞いてから出かけようかな。
予定としてはまずクロムの執務室へ、それから学問所へ行き、ナイル・アメリアと一緒に授業。
今日は学問所が午前中だけだからその足で魔法局に行く。ハルとガイウスの動き次第では、魔法局を後回しにしてそちらに行くことにしよう。
ゼリーは氷を作ってもらって保冷バッグに入れたので、しばらくは大丈夫!
保冷バッグはなぜか調理場にあったのを借りた。このゲーム、運営のそういう庶民的な、ちょっとした遊び心が私を助けてくれるから最高!
まずは事務係の部屋に寄ってからね!
コンコン!
「お疲れ様です、クロエですわ。少し訊ねたいことがありますの。よろしいでしょうか?」
「! お、お嬢様!!? お待ちください!」
慌てた声が扉の奥から聞こえると、ドドドドドという派手な音がして扉が開いた。
中から出てきた男は、少し小太りで丸眼鏡をかけている。昔からある漫画の「いかにも係長」みたいな風貌だ。
「クロエお嬢様、このような場所へどうされましたか? お呼び下されば、私どもから伺いましたものを……」
もみ手してる。本当に典型的な(以下略)。前世の会社に居た万年係長がダブる。
「私が用があるのだから、あなたが仕事の手を休めてわざわざ私のところまで来る必要などありませんわ。
今日、私の執事が居ないのだけれど、休みでしたかしら?」
「あ、はい! ゼドですね。今日は急病で休みたいとのことでございまして。本当にお嬢様のお世話係が何をやっているのか。学問所までは別の者をお付けするように手配させていただいております」
「そう、ありがとう。それからあなた。身体を壊せばだれだって休んでいいのです。体調管理をきちんとしていても病気にかかるときはかかりますわ。そんな風に非難するような言い方は慎んでくださらないかしら?」
「へ……? は、はいっ! かしこまりました!」
「それでも、あなたの丁寧な仕事ぶりにはいつも感心していますのよ。いつもありがとうございます」
「はい! こちらこそありがとうございます!!!」
ガイウスの偽名って「ゼド」だったのね。だからガイウスって言った時に「なんでその名前を知っている?」って聞かれたのか……。
今更ながらに、自分の執事の偽名を知って少しショックを受ける。
まったくそんな感じはしないけど、やっぱりガイウスは殺し屋という裏稼業をしてきた人なんだなと実感する。
念のためガイウスの自宅の住所が書かれたメモを受け取り(個人情報大丈夫?)、この後も「誰がどこにいるか分かるMAP」に出現しないようなら家を訪ねてみることにした。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次話は12時更新予定です。
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