周りがうるさくて引きこもりたい①
『……エさ…………ロエ様………………クロエ様!!!』
ウエンディの声で目が覚めると、すでに外は陽が暮れかかっていた。
「ウエンディ、どうしたの?」
『クロエ様、すでに四十時間ほどお休みでございます。よく眠れましたか?』
「へ!!?」
驚いて飛び起きる。
どうやらワイバーン討伐から帰ってきてそのまま寝てしまい、一日半以上寝ていたみたい。
思わぬ引きこもりをやらかしてしまったけど、寝ていたら私の引きこもりライフポイントは回復しないから! もったいない! 四十時間あったらどれだけ絵が描けたのよー!
ゲームだったら一周プレイ出来てたじゃーん!!!
とにかくオタク脳なので、全部そっちに意識が行ってしまう。
『皆様心配されていました。特にお父上は血相を変えておいででした。
攻略対象のうち、アメリア様、ナイル様、ガイウス様、ハル様が様子を伺いにお屋敷まで、クロム様、ルカ様よりお手紙が届いております。お読みになりますか?』
「う、うん。手紙はあとで読む。ちょっと頭が混乱しているから整理させて」
『かしこまりました。あ、それからクロエ様。お休みになる前にお話したのですが聞いていただけなかったため、今お伝え致します。レベルアップおめでとうございます』
「へ!!? またレベルアップしちゃったの? 私??」
『ハイ、捕獲は討伐よりも難易度が高く、今回はかなりのご活躍でしたから多くの経験値が入りました。確認されますか?』
「うん。でもそれもあとでいい。すごくお腹が空いた」
一日半も寝ていたと思ったとたんに、お腹がグーグーと鳴りだす。トイレにも行きたいし、喉も乾いている。
身体そのものは元気だし、意識が覚醒して活動をはじめたものだから、身体は一気にあれこれ寝ていた間の不具合を訴えてくる。
枕元に置いてある水差しの水をコップ一杯流し込み、お手洗いへ。戻ってきて着替えをする。
落ちていると思った陽は昇っている方だったみたいで、窓から見える地平線がみるみる明るくなる。
お腹の虫が騒ぐので、そろそろ使用人たちが朝ごはんの準備をしているだろうからとキッチンへ移動する。
「クロエ様!!?」
「本当だ! クロエ様!!!」
「お休みになったまま起きないと伺っていましたが、もう大丈夫なのですか?」
口々に使用人たちは安否を確認してくるので、みんなにありがとうと伝えると、お腹がお空きでしょう?と野菜スープを出してくれた。
あたたかいスープがすきっ腹に染みわたる! ゆっくり飲みこむと優しいコンソメの味がじわ~~~っと胃に広がっていく。
「はあぁ~、美味しい~! 幸せ~♡」
沢山眠れて身体も心もスッキリしたし、美味しいスープで食欲も満たされていく。
こんなに幸せなことがあるかな? やっぱり持つべきものは料理を作ってもらえる環境よね!
私が幸せそうにスープをすする姿を、使用人たちは朝食の準備をしながらチラチラ確認してるみたい。
本当に心配かけちゃってゴメンね。きっと寝る間も惜しんでBL漫画を描いていたせいで、普段からの寝不足と捕獲の気疲れで起きられなかったんだろうな。心配してもらったのに、そんなことは口が裂けても言えない。
BL漫画は墓場まで持って行かないと! ちなみに今はナイル×クロムを描いてるんだよね。禁断の兄弟愛、萌えるでしょ? あは。誰かと語り合いたい!!! アメリアが同好の志になってくれたらいいのにな。親密度が上がったら少しずつ探りを入れてみようかな。
美少女をBLに染めていくのもありだよねぇ。てへ。
スープを飲んだおかげでお腹が少し満ちたので、台所を少し借りてゼリーを作ることにした。
心配してくれたみんなへ何かお返しをしたいと思ったら、目の前に柑橘系の果物があるじゃないですか。それを見ていたらゼリーを作りたくなってしまった。
寒天やゼラチンの代わりになるものが何かないか聞いたら、ゼラチンに似た性質のものがあると渡されたので、それを使ってレッツクッキング!
型に入れて冷蔵室で冷やしておく。冷蔵室は氷室みたいなもので、簡易的に作られた箱に雪や氷を入れて使う。入れる雪や氷は魔法で出したものだから、溶けにくい。
クロエの家では使用人の中に氷魔法を使える者がいるので、その人が氷を作っているらしい。
ありがたいなぁ。
ちゃんとしたゼリーが作れるのか不安。でも中に入れた柑橘類のシロップ煮は、味見をしたらいい感じだったし、上手く固まれば大丈夫だと思う。
使用人たちにスープのお礼を言って、食卓に行く前にお父様とお母様に元気な姿をみせなくてはね!
この時間なら、きっともう執務室で支度をしている頃だから、執務室の扉を叩く。
「入れ」
「お父様!」
私の姿を見るなりお父様は顔をくちゃくちゃにして駆け寄り、私を抱きしめてくれる。
「クロエ~! 大丈夫か? 儂は……もう駄目かと……うおーん!」
あーあ、泣いちゃった。
「お父様、大げさですわ。少し疲れが出ただけですわ。私、沢山ワイバーンを倒しましたのよ?」
「ああ、聞いているぞ。大活躍だったそうじゃないか。もう身体は大丈夫なのか?」
「皆さんに心配をおかけしてしまって、本当に申し訳ありませんでした。この通り、元気いっぱいですわ!」
ガッツポーズをして見せると、またお父様は泣き始める。騒ぎを聞きつけてお母様も私を見て一緒に泣き始める。
幸せ家族なのは良いけど、ちょっと大げさかも?
「この前階段から落ちた時からクロエちゃんの様子が変だったから、もう目を覚まさないんじゃないかって、お父様はそれはもう大変でしたよ。クロエちゃん、元気で良かったです。本当に」
「本当にごめんなさい」
階段から落ちて、私の意識が覚醒したから様子が変になったなんて言えない。確かに、親からしたら性格が豹変してしまった娘なんて心配の種でしかないよね。
私を抱きしめて泣く両親に、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
身体はあなたがたの娘のものだけど、意識は別人なんて知ったら……しかも魂レベルで混じってしまっているから、本人でないとも言い切れないし。
ギュッと手を握り、すうはあと深呼吸をひとつ。気合を入れる。
「もう、ただ寝ていただけですから心配ご無用ですわ! おかげですこぶる調子はいいんですのよ? また捕獲に出かけたいくらいですわ!」
私が元気そうに肩を回す姿を見て、お父様も少し落ち着いたみたい。
「もう捕獲には行きたくないと言うと思っていたんだが……違うのかい? クロエ」
「むしろレベルアップした力を試したくて、ウズウズしていますわ!」
「そうか。それならよかった。実は魔法局長からお前に呼び出しがあってだな。どうすればよいか考えあぐねていたのだ。クロエが嫌ならつっぱねようと思っていたのだが……」
「いいえ、問題ありません。私、魔法局の職員にならないかと勧誘を受けておりましたの。ひょっとしたらそのお話かもしれませんわね」
「どうだろうな? 正式な謝罪と褒賞だと思うが……」
「ワイバーンをほぼ無傷で八体落としたのですから、きっと素晴らしい物がいただけますわね?」
その場は一気に和んだ。お父様付きのメイドが朝食の用意が整ったと呼びに来たので、親子三人で食卓まで足を運ぶ。
クロエのお父様とお母様は、本当に娘思いの素晴らしい人だと思う。この環境にいて、ゲームでのあの性格の歪み方はなぜ?って思うけど、クロエの魂が混じった今なら理由が良く分かる。
どうも【魔法局幹部の魔法以外の出来だけはいい娘】という圧力がクロエにはかかっていたみたい。魔法へのコンプレックスが酷かったせいで、人の顔色を窺ってばかりの毎日。全属性魔法が使える身分の低い貴族出身のアメリアには、幼馴染ということもあって相当な劣等感を感じていたみたい。
そんなクロエの劣等感を、いつか私が払しょくできればいいなあ。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次話は7時更新予定です。
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