いきなりリア充に囲まれるのは厳しいので引きこもりたい
オープニング明け。
ナビゲートシステムが自分に名前をつけろと言い始めた。
無機質な機械に名前なんてつけたことないんだけど、なんていう名前にしようかな?
しばらく悩んだ結果、私の大好きな水曜日を文字って「ウエンディ」と名付けてみた。
何で水曜が好きかって?
「水曜日はスイスイ帰ろう水曜日」という形ばかりのノー残業デーが行われていた曜日で、遅くても十九時までに上がれる特別日だった。なので平日では一番好きだった曜日。
そう考えると、私も大概社畜かも。それを精神的な面で支えてくれていたのがピーカラなんだよね。
「ウエンディ、改めてよろしくお願いします」
『ハイ、クロエ様。よろしくお願いします。LUKステータスを上げるための行動ですが、どうされますか? お屋敷にはまだアメリア様がいらっしゃるようです』
ウエンディがそう言うと、空中に屋敷のMAPが表示された。
これは、ピーカラに標準で搭載されていた「誰がどこにいるか分かるMAP」じゃないですか!
ウエンディが居れば、ゲームシステムが活用できるの!? これは最高!
MAPは各キャラに対応した色の光でどこにいるか表示される仕組みで、見えない時は討伐に行っているか、ライバルキャラと遊んでいるか、家で休んでいる時になる。
ちなみに光が点滅しているとそのキャラのピンチの時で、かけつけて問題を解決すると好感度をいつもの二倍以上(相性と好感度により変化)に爆上げできるという仕組みだ。
確かに今は屋敷内に、アメリアの色である青紫色の光が点灯している。
「アメリアの好感度を上げられれば、LUKが回復するの?」
『ハイ、先ほどの件で少し落ち込んでいらっしゃるようです。クロエ様の身体の傷を癒したのはアメリア様の光魔法です。そのことを感謝されていると言えば、5LUKは上がるかと推測します』
「5LUK!? 私、そんなに落ち込ませてしまったのか。ごめんなさい、アメリア」
流石に心が痛む。謝るためにアメリアに逢いに行こう。
ゲームプレイで何度も見た屋敷……とはいえ、ゲームでは屋敷の中に入ると即クロエの部屋に入るので屋敷内の構造が良く分からない。
ウエンディに聞いても『マニュアルに無いことは……』と繰り返すばかりなので、とりあえず部屋から出てみることにした。
思い切ってエイっと部屋の扉を開けると、ものすごい数の扉がある廊下に出る。
侯爵令嬢って、ピンとこなかったけど本気でお金持ちなんだと改めて思う。
適当に歩いていると廊下でメイドとすれ違う。
呼び止めてアメリアの場所を聞くと、メイドが案内してくれた。
何故だろう、リア充ウエーイ勢じゃない大人キャラには、人見知りスキルが発動しない。
コンコン。
扉をノックして部屋に入ると、ソファーセットにアメリアが扉を背にして座っているのが見えた。
勇気を出して話しかけてみる。リア充……相手はリア充……うう、緊張で吐きそう。
「あの、アメリア。聞きました。あなたが私の傷を癒してくれたって。
それなのに、私最低なことをしてしまって。本当にごめんなさい」
声は震えたけど、何とか噛まずに謝ることができた。
アメリアは私の声を聞いて振り向くと、嬉しい!という感情をはちきれさせた笑顔で私に飛びついてきた。
「クロエ、良かった~! 本当に! 私のせいでまさか階段から転落しちゃうなんて思わなくて。私の光魔法も完全じゃないから、完治までできなくてごめんなさい!」
「えっ? アメリア、あなた言葉遣いが……? それに、私が階段から落ちたのは自業自得だから気にしないで」
「言葉遣いなら、クロエも! 子どもの頃に戻ったみたいで凄く嬉しい! ずっとクロエとは、昔みたいにお話したかったの!!!」
アメリアの好感度がやたら上がってるみたいだけど、ナニコレ、何かのイベント? 私はまだ見てないってことは、二周目以降のキャラ独自イベントかな?
そんなことを考えながら、このあとどうしていいのか分からない。
ウエンディを部屋に置いてきてしまったので、とりあえずLUKポイントが回復したかどうかを知りたいと思う。
「あの、アメリア。私まだ本調子が出ていなくて。そろそろ部屋で休んでもいいかな?」
「えっ!? 大丈夫? やっぱりまだ痛む? 私もっと魔法を勉強するね! もっとクロエやみんなの役に、少しでも立てるように!」
アメリアの浮かべた満面の笑みは、背景が山のような花々で彩られている。
これ、まさかスチル?
リアルでスチル見てる私って、結構すごいかも? ピーカラ民に自慢出来ちゃう~!って、もう出来ないんだった……
良い物が見れて私の満足度も高まったところで、また明日とアメリアと別れ、自室に戻ろうと廊下に出た。
階段を上がって二階の廊下までは来れたものの、部屋数が多すぎてどれがクロエの部屋の扉なのかが分からない。
「これ、私詰んだ」
またメイドが通ってくれたらいいんだけどなあ。
がっくり肩を落として、ぼーっと廊下を眺めていると後ろからアメリアと誰かが争う声が聞こえた。
「ナイル様! 今はあまり刺激なさらないほうが良いですわ」
「しかし、クロエが怪我をしたと聞いています。念のため逢って状態を確認しなければ。これは兄、クロムからの命でもあります」
「ナイル様! 本当に今のクロエは……!」
声がした方を見ると、後光が差しているんじゃないかと思うくらいのキラキラオーラを纏った青年が階段を昇ってくるのが見えた。
鮮やかな黄に近い金色の髪、整った顔立ち、そして深い青緑の瞳。
少年ぽさを残しつつどこか影のあるその人物は、ピーカラでも人気の高いキャラクターだ。
ピーク王国第三王子【ナイル・ジョンブリアン】十七歳。
クロエと同じ年齢のため、学問所では同じクラスになることも多く、それなりに仲も良かった。
兄である第二王子の【クロム・ジョンブリアン】は、クロエの婚約者だ。
目が合った瞬間、ナイルのスチルが発動する。
「クロエ、体調は大丈夫かい?」
とろけそうな甘い声が私の体中を駆け抜けていった。
ナイルは言わずもがな、キラキラのスチル専用背景を背負っている。
一瞬、時が止まったかのようにスチルが発動して消えると、後ろからアメリアがナイルを追ってきたので、私の視界には美形キャラ二名が揃っている格好だ。
もう、このキラキラを凝視するなんて無理。
というか、実際見ると本当にあなた方お似合いよ。美しすぎて……ぐはり。
あまりのリア充オーラに、私は意識を失ってしまった。
住む世界が違い過ぎる! リア充恐るべし!
いきなりリア充に囲まれるなんて、今の私にはかなり厳しい。
あー、やっぱり今すぐ引きこもりたい!!!
そんなわけで。
せっかく上がったLUK+5から、ネガティブ発言で1がマイナスされてしまったのを私が知ったのは、気絶から覚めたあとだった。
神様、厳しすぎませんかぁぁ~!!?
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次話は22時更新予定です。
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