注目を浴びるのは嫌なので引きこもりたい②
「なぜあなたが一緒に乗っていらっしゃるの?」
「いや、受付の人が従者と間違えたみたいで、一緒に案内されちまったみたいだ」
「捕獲の話は大丈夫なんですの?」
「ああ、あれは気持ちいいくらいスパっと断られた! だから……」
嫌な予感が的中する。
エレベーターの中で壁ドンされる格好でジーンが懇願してくる。
「頼む! あんたの権力で何とか捕獲に参加できるよう、ねじ込んじゃくれないか?」
顔が近い! 逃げられない! あ、これはスチル?
一瞬時間が止まったようになり、お決まりのお花がぶわーっとジーンの背景に咲き乱れる。
壁ドン+懇願+スチル(最推し)
私の理性は限界を超えてしまって、断れるわけもなく……すぐに「はい」と答えてしまっていた。
お父様の執務室にまで一緒についてきたジーンを紹介しつつ、私の捕獲参加には彼がついてきて守ってくれるのでと説得して、二人とも参加承認をいただくことができた。参加許可を貰ったジーンはものすごく嬉しそうだったし、まあいいか。
そのあと、お父様に申請してもらった訓練場まで足を延ばす私にジーンもくっついてきた。
訓練場は明日の捕獲に向けてだと思うけど、沢山の兵士たちが訓練をしている。
「クロエ様、どうされました?」
私のことを見つけて走ってきたのは、以前私に魔法を叩きこんでくださった魔法局の上官のおじさま……名前は確か【サンド・フォーン】さん。
「フォーンさん、ごきげんよう!」
「クロエ様、私のことはサンドとお呼びくださいと以前もお伝えしましたのに!」
たった半日だったけど、辛い訓練を乗り越えて戦友みたいに仲良くなってしまったおじさま。
「これは、明日の捕獲訓練ですか? 私たちもご一緒出来ることになって、訓練に来たのですが……」
そこまで言うと、私の後ろでジーンがよろしくと挨拶をする。おじさまも軽く会釈をして私の腕を掴むと、少し離れた場所まで連れて行き、こそっと私に耳打ちをした。
「クロエ様、何ですかあの馬の骨は? 魔力をほとんど感じませんが捕獲など連れて行って大丈夫なのですか?」
「多分? 用心棒をしているというので、腕は確かだと思いますわ。それより、私も捕獲に適した魔法を練習したいのですけれど……」
そこまで言うと、後方でどよめきが起こる。
「うおおお!!! すげえ、アンタ何者だ!!?」
「ここまで鎖を上手く扱える奴はいないぞ!!?」
声の方を見ると、そこにはジーンが訓練兵から借りたであろう対モンスター用の拘束鎖を巧みに操っている姿が見えた。
道具があれば、という彼の言葉はどうやら軽口ではなかったみたい。あの様子なら、問題なく活躍できるよね。
私も魔法の訓練をしっかりしておかないと!
拘束系は二系統ある。魔法で実体化させた鎖を巻き付けるものと、精神的に混乱させてその場に縛り付けるものだ。
ワイバーンは空を飛ぶので混乱させて地上に落とす必要がある。ただ、上空高くに居る場合は魔法を当てるのが難しい。
的に当てるための訓練をするのが一番良さそうかなと思っていると伝えると、おじさまは的の大きさを小さくしたエリアに案内してくれた。
更にマンツーマンでの指導もしてくれるみたいで、細かく魔法のコツを教えてくれる。
「意識を絞って、細く……そう、矢のイメージで放つのです」
精神混乱系の黒魔法を矢のように細くして的に向かって撃ち抜く。一度で的の真ん中を射抜いた私の魔法を見て、周りがどよめく。
何度かやってみたけど、全部的中……そういえば私、高校の頃は毎日友達とゲーセンに行って、アーケードのシューティングゲームをワンコインクリアしてたっけ。
狙って撃つのは得意だっだから、動かない的なんて朝飯前みたいなもの。おじさまは拍手をして飛び上がり、やっぱり将来は魔法局へと再び勧誘が始まる。
「お前、スカーレット卿の娘だったな。これは撃てるか?」
また気配無く私の背後を取ったのは、ルカだ。もう、気配消して出てくるのは心臓に悪いので止めてほしい!
的を見ると、ルカの操作魔法で的が縦横無尽に動いている。
凝り性の私にこういったことを挑んではいけない。集中力を発揮して動く的を次々と射抜く。
おかげさまで全弾命中することができ、周りからは歓声とどよめきが上がる。
「途中で腕を横に逸らすと効率が悪い。その癖は直せ」
シューティングゲームで球を充填するのに画面の外に一旦出す動作を、無意識でやっていたみたい。
ルカの顔を見ると、注意した割には何だか嬉しそうに見える。
「やはり、お前には才能がある。今すぐにでも魔法局に来てほしいものだな」
ふっと力の抜けた少年の微笑みは、普段笑わないキャラクターだけにかなりズキューンと来ちゃうよね!! そんな私の態度を見抜いたのか、スッとジーンが隣にやってきて私の肩に手を置くと、ルカを挑発する。
「へえ、あんたもお嬢さんを狙ってるってわけですか。俺はジーンって言います。しがない用心棒稼業をしてます。最年少の魔法局長ってお噂はかねがね。その若さで昇り詰めただけあって、流石に魔法は凄い腕ですねぇ!」
「えっ、狙ってる!? 違いますわ、ジーン!! 彼は私の魔法の腕を買ってくださっているんですわ」
まあまあ、とジーンが私の肩をギュッと自分に寄せる。近い! 近い! 近いいいいい!!!
「ワイバーンの捕獲数が多い方が、このお嬢さんを口説けるっていうのはどうです?」
「口説く? 俺は魔法局に来てほしいだけだが? それに、その方には決まった婚約者がいらっしゃるだろう」
「婚約者なんて関係ないでしょうに。情熱があれば気持ちを奪うことは可能ですよ、少年?」
「安い挑発だな。では、明日の活躍を楽しみにしている」
顔をしかめたルカは、話すのが面倒だというようにその場を去って行った。
挑発に失敗したジーンは、私と顔を見合わせて「ありゃ」と肩をすくませた。
「ジーン、私の肩から手を放していただける? そして、私を賭けの商品みたいに扱わないでくださらないかしら?」
「あれ、怒ってらっしゃいます? クロエ様???」
怒るに決まってるでしょーが!と思いつつも、顔を見ると好みのタイプすぎて怒りきれない。
消化不良の気持ちを全て訓練に吐き出すと、またまた周りの訓練兵からどよめきが起きた。興奮したおじさまにまたしごかれたけど、明日があるのでとこの日の訓練は時間通りに終了することができた。
訓練所をあとにして、仕事終わりのお父様と一緒に帰宅するため、魔法局の受付でジーンと別れる。
「もう二度と、あんなことしないでください」
「あんなことって?」
「もう! 挑発ですわ。狙ってるとか、冗談にしても程があります!」
ジーンはニヤっと笑うと私に近づき、私のことを上から下までじろじろ観察したかと思うと、顔が爆発するようなセリフをさらっと言ってのけた。
「いや、俺はあんたのこと狙ってるけどな! 恋でもすれば、もっといい女の顔になると思うぜ」
ヒィ!!! 甘い、甘い~~~!!!!
ゲームキャラだからって、こんな甘いセリフを言わないで貰いたい! 推しキャラの顔でそんなこと言われたら、顔から火が出ちゃう!
もう無理無理!って気絶しそうになったところで、お父様が受付まで下りてきたので何とか助かった。
「クロエ、待たせたな。迎えも来ているし帰ろうか」
「あ、はい! ではジーン、明日はよろしくお願いします。くれぐれも、もう二度としないでくださいね」
再度ジーンに釘を刺してお父様と一緒に馬車に乗った。ジーンはひらひらと軽薄そうに手を振って見送ってくれる。
もし、明日も魔法以外のことで注目を浴びてしまったらと思うと、たっ、耐えられない。
全然そんなことないのに、痴情のもつれみたいに注目されるのは本当に嫌なので、やっぱり私引きこもっていていいですか!!?
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次話は23時更新予定です。
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