討伐がえらいこっちゃで引きこもりたい③
「何とか、何とか耐えきった……」
思わず口をついて出てしまったこの言葉。
クロムとの馬のタンデムで、私の精神はかなりすり減っていた。
魔物の討伐依頼が出ている辺りに到着したので、なんとか密着からは脱出できたのだけど……。
生えている木にもたれかかり、ぜーはーと息を整える。そんな私を心配してハルがこっそり声をかけてくれた。
「クロエ様、大丈夫ですか? 緊張されましたよね? 実はボクもなんです。王子と馬に二人乗りなんて、経験したことないですから。馬に酔ったと言って横になられますか?」
「いえ、もう大丈夫です」
はあ、オアシス! ハルはとっても優しくて癒される! 気遣いの出来る男の娘、悪くない。
実際に会ってみなければわからない魅力というのはあるもので、気遣いの方向が女性的にもかかわらず、きちんと男性としての魅力も兼ね備えているハルは、実は最強なんじゃない?って思ってしまう。
湖のほとりに魔物が出る依頼は、レベルの低いモンスター「食人植物」を一掃するという依頼だ。
正直、今日のメンバーだったら一瞬で終わるレベルの討伐依頼。
この依頼の面倒なところは、数と敵を探し当てるところ。討伐数は二十体と決まっていて、二十体全部倒さないとクリアにならない。
「せっかくお昼を作ってきたのに、こんなところでヘコたれてたらゴハンにありつけませんものね! みなさん、気合い入れて討伐しちゃいましょう」
私の元気が回復したのを見て、全員が活気づく。
うん。活気づいたのは良かったんだけど……。
私の周りを四人が密集してガードしてたら、数の暴力をやっつけきれなくないですか?
「もう少しバラけて探した方が、効率が良いように思うのですけれど……?」
「いえ、クロエ様をお守りするのが私のお役目ですから」
「私もクロエが心配なのです」
「私も」
「ボクも」
みんなが私を心配してくれるのは嬉しいけど、これじゃ身動きが取れない。私自身が多少は倒さないと経験値も上がらないし!
「気持ちは大変嬉しいのですけど、私は自分の経験値を上げたいので、少々離れて見守っていただけると嬉しいです」
「「「「確かに」」」」
私の主張は割とあっさり受け入れてもらえた。
皆がばらけてくれたので、ゲームで覚えただいたい出てくるポイントを重点的に探してみることにする。
私の狙い通り、ゲームで出没するポイントにしっかり食人植物が居てくれた。
擬態をしているので、擬態を破るために火炎系魔法でまさに「あぶり出し」をする。
熱さで擬態を解いた食人植物をそのまま火炎で燃やし尽くす。そこまで行けば、あとはナイフでつるを根元から切り取り、根の部分を引っこ抜く。根の部分二十本があれば、討伐完了の証拠となる。
訓練していたおかげで魔法をスムーズに発動させることができた。
私の魔法の腕前を見て、四人のメンズたちは大丈夫と判断したみたいで、各々森に入り討伐を開始した。
おかげで、討伐二十体をあっさりクリアすることができた。
朝から緊張したり討伐で少々運動したりで、お腹が丁度いい感じに空いてきたところだし、そろそろご褒美、ご飯の時間!
「ガイウス!」
執事を呼ぶと、既にマジックアイテムから出したテーブルセットをセッティングしてくれていた。
ガイウスはしっかりお茶まで用意していて、私の場所だけパラソルで紫外線からガードできるように工夫までされていた。
うん、持つべきものは仕事の出来る執事よね!
ガイウスが引いた椅子に座って、ふう……とひと息つく。
テーブルに朝から使用人たちが頑張って作ってくれたサンドイッチと、私の手作りクッキーが並んでいるのを見てテンションが上がる。
「みなさま、お菓子は私の自信作ですわ! さあ、召し上がりましょう。あ、ガイウスあなたも一緒に囲みなさ……」
そう言ったか言わないか。
さっき討伐した森の中から男の怒号とモンスター独特の異様な鳴き声が聞こえてきた。
同時に森の中からこちらに突っ込んでくる塊。
ケルベロスだ。
かなり上位のモンスターがどうしてこんな村里近くに出没したのか分からない。
どうやら男を追っているようだけど……このままでは私の朝からの労力がぶち壊される可能性しかない!
テーブルセットを背に、私は仁王立ちになり目の前の危機を回避しようとした。
「ヒートブレス!」
ドラゴンの息といわれる炎系上級魔法のヒートブレスを、思いっきり力を込めてケルベロスに放つ。
「ぎゃうん!」
ケルベルスは炎に染まり、そのまま消し炭のようになって崩れ落ちた。
大魔法を使ったことで、若干周りのメンズが引いているような気がするけど、気のせいよね?
とりあえず何とかなったはずだったのよ。走ってきていた男が私の放った魔法の爆炎に吹き飛ばされて盛大にこける。
急すぎて対処できなかった私は突っ込んでくるのを避けられず……結果、男が私のことを押し倒す格好になった。
しかも、なにキッチリ「ラッキースケベ」を勝ち取ってるの?と文句を言いたくなるくらいがっつりと、私の胸に顔をうずめている。……うう、恥ずかしい……。
私は精一杯の虚勢をはって、男を自分から退けようとした。
「あなた、早く起き上がりなさい。失礼ですわ!」
「何だ? これすごくふかふか……いいにおい」
そう言いながら顔を上げた男が顔を上げた瞬間、私の時間が止まった。スチルの時間が止まるのとは感覚が全く違う。固まったのは私のほうだ。
起き上がると同時に、男が深くかぶったフードが外れる。
フードの下には、私より鮮やかな赤い髪にグレイッシュブルーの瞳。右目の上に古い大きなキズが一本。
【ジーン・カーマイン】私の……最推しキャラだ。
一瞬がとてつもなく長い時間に感じる。
このままもう少しだけこの顔を眺めていたいという私の願いもむなしく、クロムとガイウスがジーンを私から引きはがした。
ええ~! もう少し、このままでも良かったのに~!
『クロエ様、珍しく今日は恋愛イベントに肯定的ですね』
頭の中でウエンディがツッコミを入れてきたのは、言うまでもない。
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