将来が不安で引きこもりたい
一生懸命魔法の発動訓練をしていると、背後に人の気配を感じ恐る恐る後ろを振り向いてみる。
そこには、クロエの赤い髪にも負けないくらい鮮やかな赤紫色の髪をした少年が立っていた。
身長は私よりも少し高いくらい。眼鏡の奥の少し気だるげな瞳が私を見ている。
出た! 新キャラ!!! そろそろ出ると思ってた!
【ルカ・クリムソン】十六歳の若さでその天才的な魔法の技術と知識を買われて、魔法局長まで上り詰めた男の子だ。
魔法技術や知識だけでなく、優れた戦術と統率力を持った本物の天才だ。
俺様なんだけど、親密度が増すにつれてデレてくるので、お姉さま女子から圧倒的に支持されているキャラだ。
「あの、何か?」
「お前、魔力は凄いのになんだその魔力操作の悪さは。その歳まで魔法を使って来なかったのか?」
「え、ええ。一度暴走させたことがありまして、それ以来怖くて使っておりません」
「ふうん。だからか」
ルカは私の額にいきなり自分の手のひらを当てる。
身体の中から力が湧いてくるような感覚が全身を包み込み、魔力と魔素の感覚が何となくわかるようになった。
「すごい、何これ?? 身体中からパワーが溢れてくる……!?」
「これでさっきと同じ魔法を出してみろ」
「はい」
目をつぶって魔力を感じる。魔素と自分の魔力を融合させて、目の前の的に炎の魔法をぶつけるイメージで放った。
すると、想像していた以上の轟炎が掌から放たれ、その爆発で的を消失させてしまった。
「ひ……ひぃ!」
あまりの炎にびっくりしてただ立ちつくす私……と周りの訓練兵の方々。
「ほう、無詠唱でしかもまだ訓練もせずそれか。お前、名は? 所属はどこだ? 記憶にないが」
「私はクロエ・スカーレットですわ。父がこちらの魔法局でお世話になっております。
本日は魔法の勉強のためにこちらをお借りして、訓練していますのよ」
「ふぅん、スカーレット卿の娘か。見込みがあるな、お前魔法局に入れ」
「えええええええ!!!?」
何を言っているの!? ルカ、私はあなたの事を知っているけれど……まだ自己紹介もしてくれてないじゃない~!
どれだけ俺様なの!!?
たじたじの私をちらっと見て、やたら偉そうな態度のルカはその場を去ろうとした……のだけど、何かを思い出したように踵をかえして戻ってきた。
「俺はこの魔法局の局長をしている、ルカ・クリムソンという。必ず魔法局に入れ、いいな」
「えぇ……!?」
「誰か、アイツに魔力の操作方法を教えてやれ」
「はいっ!」
いい返事をしたのは、たぶん偉い人なんだろうな?という恰好をした、少し年配の髭を生やした魔法局の方だった。私のことを期待に満ち溢れた目で見ている。
う、なんか嫌な予感がする。
嫌な予感は的中し、申請を出していた時間をとうに過ぎたのに、特訓に次ぐ特訓をさせられてしまった。
「あの、もう私帰らないと……」
「大事ない。私がこの場所を抑えているのだから、気にするな。さあ、次だ!」
「お父様に言伝を……」
「スカーレット卿には既に連絡済みだから、早くしなさい!!!」
「ひぇぇ!!! はいぃぃぃ!」
こんな調子で魔力操作の特訓は夜まで続いた。
私を見てくれていた上官っぽいおじさまは、夜になっても尽きない私の魔力に大変満足そうな笑みを浮かべていらっしゃる。
おかげで今日一日で、試しておきたい「火・地・風・闇」すべての属性を一度は発動させることに成功した。
中でも適正度の高い火魔法は、難易度関係なく自分の知っている呪文のほとんどを操ることができるようになった。他にも適正なのか、精神系の闇魔法もかなりスムーズに操作できるようになった。
これには上官のおじさまも、少年のように目をキラキラさせて喜んでいた。
ぜひ将来は魔法局に!と、また勧誘されてしまった。
私の将来を勝手に決めないで!と心の中で毒づいたけど、お父様にご迷惑になるといけないので、笑顔でごまかした。
夜も更けてきて、そろそろ帰ろうかと思った頃、ルカが私の様子を見に来た。
「お前、まだやっていたのか」
「えぇ!? ルカ様が特訓と言われたので、この方に帰してもらえなかっただけですわ」
「ルカ様。この者、ほとんど休みを取っておらぬのに魔力が切れません。逸材です! ぜひ、我が魔法局に入ってもらいたいのですが、首を縦に振ってはくれません。
ですので、ついつい熱が入ってしまいました」
ついつい熱が入った!? そんなレベルじゃなかったんですけど~!?
「ふん、どれくらい使えるようになったんだ。見せてみろ」
ルカというキャラクターは、俺様属性なだけあって序盤は凄く性格が悪く見える。
イケメンで天才で仕事が出来るから許されるのよね、この横柄な態度。はあ、仕方ないなあ。ルカ様の為にやりますか。
魔法操作が出来るようになって、正直魔法を使うのが楽しかった私は調子に乗った。
得意の炎の魔法をほぼ無詠唱で超上級まで順番に放って見せた。
それを見たルカの顔が一気にきらめいたのを見て、しまった!と思う。
おかげで、教えてもらった使える属性の魔法を全て披露する羽目になってしまった。
本当に夜も更けたので、流石に帰りたいと思って恐る恐る聞いてみる。
「ああ、もう夜遅いしお前を送って行こうと思っていたところだった。帰るぞ」
「やったー! ようやく帰れる! ……あっ! 失礼致しましたわ。つい、本音が口から……」
恥ずかしい、思ったことがそのまま口から出るなんて。
上官のおじさまは笑いをこらえるのに必死で、耳が赤くなっている。
顔を真っ赤にして座り込んだ私に手を差し出したルカは、表情をほとんど変えることなく暗くなった道を家まで送ってくれた。
別れ際、ルカは私をまた勧誘してきた。背中に花を背負って。
「流石の俺も今日は本当に驚いた。いい物を見せてもらった。魔法局で俺の下で働け、クロエ。いいな、絶対にだ」
とびっきりのいい顔をスチルに刻んだルカは、転移魔法を使い帰って行った。
転移魔法使えるならそれで送ってくれても良かったのでは?と思いつつ、私は部屋に戻る。
『クロエ様、お疲れさまでした。魔法局はいかがでしたか?』
私の帰りを待ち構えていたウエンディに、魔法局でのことを根掘り葉掘り聞かれるまま答える。
やたらステータスを見るか聞いてくるのはなんで? 今は疲れてへとへとなので明日の朝に見ると伝えてそのままベッドに倒れ込む。
魔法の特訓や、新キャラが出てきたことよりも何よりも。
周りが私の将来を決めようとしてくる事が疲れの一番の原因だった。
まだ十七歳だよ? 若いんだから、まだ仕事を始めるって感じじゃないんだよね!
学校卒業したら、しばらくはのんびり絵を描いて過ごしたい!
私の将来は、しばらく引きこもりって決めてるんだから!!!
『クロエ様……』
何となくウエンディのツッコミが聞こえた気がするけど、知らない! もう寝る!
寝るったら寝る! 明日は絶対に引きこもる!!!
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次話は21時更新予定です。
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