引きこもれないので引きこもりたい
どうせなら、アメリアに生まれ変わりたかったなぁ。
ぼやいてみても仕方がないけど、よく考えたら私はあんなキラキラ陽キャに生まれ変わっても、絶対最後まできちんとキャラとしてやりきれない自信がある。
クロエだって意地悪だけど名家の令嬢で、一応婚約者もいるリア充だもんな。
もし画面に選択肢が出れば、ネット検索してキャラごとの正解を選べるから何とかなりそうだけど。
流石に選択肢は出るわけないもんね。
「はあ」
深いため息をひとつだけ出して、これからのことを整理してみる。
以前のクロエの記憶が少し曖昧だけれど、多少は残っているのでそれも踏まえて。
私はゲーム「Peak of Colorful Love」の悪役令嬢「クロエ・スカーレット」に転生。
年齢は17歳。ゲーム内のクロエは18歳だったので、どうやら物語はゲームが始まる前の様子。
クロエは自分の性格の悪さを自覚してたみたいで、なんだか主人公に上から目線で接する自分が嫌だと思ってる感情がある。
主人公のアメリアにド定番の意地悪をしようとして、階段から転落……どうやらこれが私の意識にスイッチする条件だったみたい。
全身がやけに痛むのと、アメリアの心配そうな態度が今の状況にピッタリ当てはまる。
身体は良く見ると痣だらけ。骨が折れている感覚はないけど、打撲が沢山あるみたい。
記憶にある階段は、学び舎の中央階段で結構な高さがあった。よくあの階段を落ちて無事だったなあと身震いする。
あ、ゲームだからかな?
「そうだ、ゲームと言えば定番の! ステータス!」
一度これ、やってみたかったんだよね♪
だけど、どこにも何も現れない。思わず顔を手で覆って照れる。
恥ずかしい。
三十路のいい大人が誰もいないとはいえ「ステータス!」とか言っちゃった。
そういうのは見れない世界なのかな?って思っていたら、天井から何かが落ちてきて、私の膝の上にぽとっと落ちた。
その感触に驚いて顔を覆った手を外すと、膝の上にはまあまあ分厚い封筒があった。
きょろきょろ見回しても誰もいない。
恐る恐る封筒に手を伸ばすと、触れたと思ったとたんに勝手に封筒が開封され、中から何かが飛び出してきた。
「─────☆〇△!?」
声にならない悲鳴を上げて、私は身をかがめる。
『驚かないでください、クロエ様。ワタクシはナビゲートシステムです。この世界の神からアナタの為に遣わされました。以後よろしくお願い致します』
固い挨拶をしたそれは、小さな電子辞書みたいな機械だった。ふわふわと宙に浮いている。
固まっている私に、その物体はもう一度話しかけてくる。
『ワタクシはナビゲートシステムです。この世界の疑問にお答えできます。ですが、マニュアルに無いことはお答えできないこともございます。ご了承くださいませ』
疑問に答えてくれる? 何て好都合なシステム!
マニュアルがあるっていうのが気になるけど、聞いてみよう!
「えーと、ナビゲートシステム……さん? はじめまして。
私は本当にクロエなんでしょうか?」
『はい、あなた様はクロエ・スカーレット様。17歳でピーク王国の侯爵であるスカーレット卿の長女で容姿端麗、成績優秀、性格以外は非の打ち所のない女性です』
「性格以外は……ってどういう意味?」
『申し訳ありませんが、マニュアルに無いことはお答えできません』
「う、そうか。仕方ない。私は今後どうやって生活していけばいいのかな?」
『お答えします。アナタはピーク王国内で様々な異性と出逢います。どの異性と結ばれるかはアナタ次第です。ここで画面をご覧ください』
------------------------------------
クロエ・スカーレット(17歳)
Lv.20
HP(体力)…………… 31
MP(魔力)…………… 5000
ATK(物理攻撃力) … 17
MAT(魔法攻撃力) … 1500
DEF(物理防御力) … 11
MDF(魔法防御力) … 2000
LUK(運の強さ) …… 3
親密度
アメリア(幼馴染)…… 239/500
クロム(婚約者)……… 180/500
ナイル(婚約者の弟)… 280/500
???…………………… 000/500
???…………………… 000/500
???…………………… 000/500
???…………………… 000/500
???…………………… 000/500
------------------------------------
『こちらが、クロエ様の現在のステータスです。レベルと魔力はかなり高めに設定されております。普通、クロエ様のご年齢となりますと、Lv.12程度、MPは100あればいいところでございます』
「なるほど、チート能力ってやつね。魔法属性はゲームの通り火属性?」
『ハイ、それについてはマニュアル通りではありますが、他の属性も付与されております。確認しますか?』
「うん、ステータスで毎回見れるようにしてもらえる?」
『承知しました。属性をステータスに表示します。現在は 火・地・風・闇の属性を使うことができます』
「へえ、そこもそれなりにチートなんだ。それで、なんでLUK(運の強さ)だけがやたら低いの?」
『ハイ、運の強さは0になるとゲームオーバーとなります。アナタはこの世界から消滅します。
アナタのLUKが低いのには理由があります。LUKはネガティブな発言や行動をする毎にポイントが減ります。元々10ほどのLUKがありましたが、階段からの落下と先ほどのやり取りでかなり減りました』
「ええっ! でもそんなにネガティブなこと言ってなくない?」
『イイエ、これは数ではなく内容により、ポイントが変わります。ですから、これだけ減る程の内容だったということです。人助けなど何かしらの感謝の気持ちを貰うと回復します』
「残り3しかないじゃない!!」
『ハイ、残りは3なので今のアナタのメンタルではすぐにゲームオーバーとなります。なお、LUK500以上のステータスがあれば、良いことが沢山起きます』
「えぇ……!?」
『どうされますか?回復のために感謝の気持ちを貰いに今から出かけますか?』
▶はい|▷いいえ
いきなり選択肢を迫られた私は、流石に死んだ矢先にまた死ぬのは嫌なので「はい」を選択した。
すると、周りから切り離されたように世界が暗転して曲が流れ始める。
ゲームのオープニング曲「Colorful Passion」。
まさか、これでゲームが始まってしまったということ?
『モウ、後戻りは出来ません。楽しみまショウ?』
ナビゲートシステムの声が真っ暗な中でなぜか不気味に響くんだけど……。
これって、私が積極的にこの世界の人たちに絡まなきゃいけないってこと?
しかも悪役令嬢なのに感謝されないといけないの?
そんな~!
人見知りなのに、あんなキラキラな人たちと一緒に生活なんて荷が重い!
何よりも、引きこもれないなんてそんなの辛すぎる!!!
『また、LUKステータスが1減りました』
ひいい!!!
こうして、私の乙女ゲーム人生が幕を開けてしまった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次話は16時更新予定です。
↓↓↓の方に評価ボタンがあります。
作者のモチベーションにもなりますので、面白いと思われましたら☆やいいねで応援をお願いします。