親密度上げがキツくて引きこもりたい①
親密度上げに明け暮れたおやすみDAYが明け、次の日がやってきた。
連休なので、今日もおやすみ。うえーい!
一日引きこもってイラストでも描いていたいのに、ウエンディがLUK上げと新キャラのハルとの親密度上げについてやたら提案してくる。
午前中だけはイラストを描かせて!と懇願し、おかげでスチルを眺めてニヤニヤしながら作業ができた。
鉛筆描きが出来たら、次は色付けもしたいところ。
デジタルで描けたら一番いいのに! でも、パソコンがない世界なので仕方がない。
午後からハルを訪ねる予定なので、途中で画材屋に立ち寄ってみるつもりだ。
せめて水彩絵の具でも、色鉛筆でもいいから色が付くものが欲しい。
スケッチを何枚か描くことができたので、満足した私は午後からまた街へ出かけることにした。
今日は出勤日のガイウスがやたら馬車を出そうかと言うのでお願いした。
親密度が500を超えたからなのか、ガイウスのアピールがちょっと……いえ、かなり多くなっている気がする。
「お嬢様、お口元が汚れております」
「お嬢様、お足元が危ないので失礼します」
などなど。何かにつけて私に触れようとしてくる。
イケメンに触れられることに慣れていない私は、その度にヒィ!って中身は三十路と思えない態度でアワアワしてしまう。
画面で見るのと違って、実際に触れられるのは破壊力抜群なんだって!
顔を真っ赤にする私を見てガイウスがクスクス笑うので、中身はあなたより年上なのに~って悔しい思いをする羽目に。
早く免疫をつけないと、このままでは心臓がえらいことになってしまいそう。
そんな自分の執事に翻弄されながら街までやってくると、商業エリアの入口で馬車を降りた。
「お嬢様、ここでよろしいのですか?」
名残惜しそうな、なんだか子犬みたいな顔でガイウスが私を見るので、この人本当に殺し屋なのかしら?と疑ってしまう。
今日はガイウスからしたらライバルに当たるハルとの好感度上げなので、見つからないように行動しなきゃいけないから、心を鬼にしてここでお別れする。
「ええ、大丈夫。また夕方になったら迎えに来てくれるかしら?」
「お嬢様、かしこまりました。大変名残惜しいですがお待ちしております」
「家の仕事もあるでしょうから、一度家に戻ってくださらないと私がお父様に怒られてしまいますわ」
「では、旦那様を黙らせに……」
「やめて、本当にやめて! もう、ガイウス。そういった冗談、私は嫌いです!」
「冗談ではないが?」
流石にちょっと腹が立った。たとえ中身が三十路を過ぎた女に変わったとしても、クロエの親を手にかけるなんて冗談にも程がある。
ギロっとガイウスを睨み、せいいっぱいドスを効かせた声で私はガイウスに詰め寄った。
「そんなことをしたら、もうあなたとは口を聞きません! 二度と言わないと約束しなさい」
「……はい。お嬢様、二度と申しません」
心なしかガイウスの表情が恍惚としているように見えるけど、気のせいよね?
とにかく、今は大人しくなってくれたのでヨシとしよう、うん。
ガイウスってひょっとしてドM属性なのかな? アメリアでプレイした時はそんな風じゃなかった気がするけど……。
引っかかるところは少々あるけれど、気にしない事にして私は商業エリアでハルのプレゼントを選ぶことにした。
ハルへのプレゼントは、レザーのキーホルダー。少しゴツ目のシルバーの金具と上品な茶色に焼き印がカッコカワイイ品だ。
これも公式印の攻略アイテムだ。
ハルは女の子みたいな見た目なので可愛いと言われることが多く、男性扱いするとすごく喜ぶ。
だからといって、自分の可愛い見た目が嫌いなわけじゃないという、少々面倒くさい設定のキャラクターだ。
昨日の結果で公式プレゼントを渡すとプラス100くらい親密度がアップすることが分かっているので、公式プレゼントで一気に親密度を上げる作戦を決行する。
親密度が250を超えないと討伐に誘っても50%の確率で断られてしまい、討伐に行くことができなくなる。
このゲームでは討伐に行くことで親密度がより深くなるし、討伐に行かないと登場しないキャラクターもいる。
クロエの誕生日がなかなか思い出せないし、出来る限り早く全攻略キャラクターを出してしまいたい私は、少しだけ焦っていた。
占い師のハルは、公園の片隅に占いの店を出している。
昨日の朝、アメリアが公園に居た理由が今なら理解が出来る。ハルの所に行っていたのだろう。
公園までは寄り道さえしなければ、そんなに時間をかけることなく行くことができる。昨日は公園までの間に人助けをしすぎたから、今日はそのまま公園へ直行した。
ハルの占いの店は公園の少し奥まった場所に建っていた。
実際に見ると、ゲーム画面よりとても立派な石造りでお洒落な外観。店舗兼住居なので、二階はハルの家となっている。
早速ハルの店のドアを開けると、アミュレットやストーンブレスなんかの、アクセサリーがずらっと並んでいて、とてもキラキラした店内が目に飛び込んできた。
「わあ、素敵」
思わず感嘆の声を挙げてしまうほど、見事な店内だった。
「いらっしゃいませー。あ、クロエ様」
私の声を聞いて、奥からハルが出てきてくれた。
「こんにちは、アプリコットさん。今日は占いをお願いしに来ましたの」
「本当ですか!? 昨日の今日で来てくださるなんて、嬉しいですね。どうか私のことはハルとお呼びください。堅苦しいのは、少し苦手なのです」
「奇遇ですね、私も堅苦しいのは実は苦手なんです。では、ハル。私のこともクロエとお呼びいただけますか?」
「え!? ですが、流石に侯爵令嬢を呼び捨てにはできません。クロエさんとお呼びしても?」
「私だけハルって呼び捨てなのも、なんか嫌です。では、敬語を辞めてくださるなら、譲歩してクロエさんでもいいけど……。どう?」
譲らない私を見て、ハルはふふふっと可愛らしく笑い、了承してくれた。
「見た時に思ったけど、頑固な人だなぁ。わかったよ、敬語はやめる。ただ、人前ではやっぱり不敬に当たるから、敬語プラス様にさせてもらうけどいいかな?」
「わかった。それがこの世界のルールなら、仕方ないもんね」
「この世界のルール……?」
私はしまった!と口元を抑えたけど、既にちょっとハルは察している様子なので、占いをされたらどうせこの世界の人間じゃないってバレそうだし、訂正はしないでおいた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次話は1時更新予定です。
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