スチルラッシュで引きこもりたい④
公園を後にする前に「誰がどこにいるか分かるMAP」を開いて、変なイベントに遭遇しないよう帰宅ルートを確認する。
スチルを伴うイベントは、キラキラオーラに充てられてドキドキして疲れるので、今日はもうおなかいっぱい。
アメリアにプレゼントを渡していないけど、あとで学問所で渡しても問題ないよね。
出来れば、見て回れていないエリアを通って帰れるのがベストなんだけど。
夕方に差し掛かっているとはいえ、クロムとナイルは政務中のようで王宮に居るようだ。
ガイウスは街はずれに、アメリアは今から私が行きたい飲食エリアにそれぞれ表示されていた。
うーん、アメリアにはぶつかっちゃうかもしれないけど、渡していないプレゼントが渡せるならそれもアリか。
アメリアなら、女の子だしそこまで緊張しないしね!
少し気合いを入れて、飲食エリアに向かって歩き出した。
公園を出るとすぐの住宅街を大きな川沿いに歩く。心地よい風が吹き抜けて最高に気持ちがいい。たまには引きこもらないで外に出るのもいいなと思う。
もしかしたら休みの日だったからかもしれないし、誰にも縛られずに好きに過ごせたのもあるかもしれない。
解放されていることが、私の気持ちを高揚させていた。
飲食エリアに入ると、商業エリアとはまた違った活気があり、そこら中からいい匂いがしている。
屋台もあって、色々な食べ物が並んでいた。
もう若くないからと前世では諦めていたタピオカドリンクを買って、飲みながら街ブラ。
ん~! 最高! 若い子だけが許されるやつ!!! タピオカドリンク、前世でも飲んでおけばよかった!
こうなったらチーズハットグも試してみたいと思って探してみたら、あったー!!!
ゲーム開発が丁度ブーム真っ最中の時だったから、この世界の屋台にも存在していた。
いつもSNSで見て食べたいと思っていたけど、年齢の壁が邪魔して食べられなかった二大ブームをこんなところで味わえるなんて最高!
運営様、ありがとうございます!!!
さすがに侯爵令嬢が食べながら歩くのは、少しはしたないかな?と思って、ベンチに座ってかぶりつく。
とろ~っと伸びるチーズと、カリカリの生地がたまりませんなぁ。
幸せをかみしめながら食べていると、目の前の店からアメリアが出てきた。
「!!!!!」
こんなはしたない姿をアメリアに見られたくない!と、必死で顔を逸らしたのに……簡単に見つかってしまった。
「あ、やっぱりクロエ! どうしたの? 一人でおでかけ??」
「え、ええ。ちょっと街を見たいと思って。アメリアも? あら?」
口元をハンカチでささっと拭い、アメリアの方を見ると誰かと一緒のようだ。
人見知りスキル発動、笑顔が張り付き緊張で背筋が伸びる。
「アメリアは、お連れがいらっしゃるのね。デートでしょうか?」
アメリアの連れは男性なのか女性なのか分からない、中性的な顔立ちにピンクの長い髪。
色とりどりのアクセサリーをつけた不思議な衣装を身にまとった人物だ。
私はその人物を知っていた。
【ハル・アプリコット】見た目は男の娘の占い師。実は芯が強く、ピーカラの中では一番男らしいんじゃないかと言われているキャラクターだ。
可愛らしい声と物腰の柔らかさとは対照的に、戦闘時の精神攻撃がエグくてちょっとヤバイところが人気の高さに繋がっている。
たまにドスの聞いた声が出るところがギャップ萌えって感じ?
そう、私もこのキャラクターは声優さんが好きなこともあって、好きランキング上位キャラだ。
思わぬ新キャラ登場に、チーズハットグかじってる場合じゃなかったと軽く後悔する。
「そんな、デートだなんて。この方はハル・アプリコットさん。占い師の方です。少し占っていただいて、お礼にお食事をしていただけよ」
「それをデートと言うのではないの? アメリアも隅に置けないわね。
はじめまして、アプリコットさん。私はクロエ・スカーレットですわ。よろしくお願い致します」
両手は美味しい物で塞がれていて握手することができない代わりに、私はとびっきりの余所行きの笑顔を浮かべた。
「はじめまして。クロエ・スカーレット様。ボクのような身分では、本来はお目通りできない侯爵令嬢にお逢いでき、光栄です」
とても丁寧なお辞儀をしたハルは、私のことをじっと眺めて更にこう言った。
「クロエ様、あなたは何か混じっていますね? また今度、ゆっくり占いたいのですがよろしいでしょうか?」
どきっ!!! 私が転生者ってバレテル??? 一気にだらだらと冷や汗が流れる。いや、バレたところで私にはどうしようもないのだけれど。
「ま、まあ! 素敵ですわ。ではまた後日にでも是非占ってくださいませ。ほほほ」
「ええ、ぜひ。よろしくお願いしますね。では、アメリア様。ボクはここで失礼します。本日はごちそうさまでした」
「はい、こちらこそ。今日はありがとうございました」
去っていくハルを見送り、アメリアはなぜか私が両手に持った美味しい物を食べきるまで待っていてくれた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次話は20時更新予定です。
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