スチルラッシュで引きこもりたい③
「お嬢様、どうぞ」
ガイウスが私にサンドイッチを食べさせようとしてくる。
これは、恋愛イベントとセットのスチル……私が食べさせてもらわないと終わらない時間。
恥ずかしすぎる。こんなに人がたくさんの場所であーんとか無理~!
でも、やらないとこの切り取られた時間が動くことはない……と思う。
そういえば、ガイウスは一番親密度が高かった。
もしかしてこのイベントで恋愛対象となる親密度500超えてしまったかも?
スチルが解除されないので、仕方なく差し出されたサンドイッチをひとくち食べると、周りが色付き動き出した。
満足そうなガイウスが、私のけん制を今頃になって返してくる。
「そのサンドイッチに毒が入っていたら、どうするんだ? お嬢様」
ガイウスの言葉遣いが暗殺者のそれになっている。
さっきのは恋愛イベントだし、それで毒殺エンドってありえなくない?
親密度から考えても私を暗殺するとは考えにくい。
「え? まあ、その時はそれまでですわよね。ガイウス(との親密度)を信じて食べたの。悪いかしら?」
「ふふ、流石お嬢様。そういう肝が据わったところが最高だ」
ガイウスはニヤっと笑って、私が口を付けたサンドイッチをそれはワイルドに平らげた。
それを見て真っ赤になる私をからかうように、今度は自分に食べさせろという風に口を開けてくる。
「もう! ご自分で召し上がってください! 暗殺者以前に、あなたは私の執事でしょう!」
サンドイッチをガイウスの口にねじ込んで、私はこのやり取りが転生前に働いていた会社の後輩とのやり取りに似ている気がした。目の前にいる仕事の出来るイケメンとは全然違うけれど、面倒をみてあげないと危なっかしい子だった。
転生前のことを思い出してクスクス笑う私を見て、ガイウスは自分が笑われたと勘違いしたみたい。
「お嬢様、サンドイッチをねじ込むのは流石に色気が無さ過ぎます」
拗ねる横顔が少し可愛くみえて、また笑う私にガイウスが本気の色気を出して迫ってくる。
「私はお嬢様の執事です。ですが今は時間外、仕事を離れれば私も一人の男なのですよ?」
そんなガイウスを真っ直ぐ見て、私は自分の考え……というより、基本設定の「真面目」という性格を知っていたのでそれを伝えた。
「いいえ、ガイウスは意外と真面目だと思っています。ですから、何も心配はありませんわ。そうそう、あなたにプレゼントがありますの」
「お嬢様が私に?」
「ええ、先ほど朝市で手に入れましたの。気に入っていただけると嬉しいのですけれど」
プレゼントの包みをガイウスに渡すと、ガイウスは信じられないと言う顔で包みを開ける。
フォーマル用の白手袋を見て、目を丸くするガイウス。
「この前、私の口元を拭いたせいで手袋を汚してしまったでしょう? お詫びと言ってはなんですけれど、使ってくださるかしら」
この前というのは、この前のあれだ。男子生徒が言い寄った時にされたクッキーペロリ事件。
ガイウスは執事の白手袋をしていたのだけど、あのとき手袋に口紅がちょっとついてしまったのを私は見逃していなかった。自分が意図したわけではないけど、汚してしまったことには変わりがないのでお詫びに手袋を買ってみた。
ちなみにこの手袋も、ガイウス攻略対象アイテムとして公式サイトにも掲載されている。
攻略対象の好きなものは、すべて私の脳内データに記憶されているのよ! おーっほっほっほ! チョロいわ!
悪役令嬢っぽく脳内で高笑いをする私の心を知ってか知らずか、ガイウスは手袋をはめて満面の笑みを浮かべる。
「お嬢様、ありがとうございます。大切に……ええ、それはもう。大切にします!」
キラキラと花や光が舞い、切り取られた空間が目の前に現れる。
またスチル!? さっきのはイベント用だったけど、こっちは普通のスチルみたい。
そういえば、ガイウスのスチルはまだ一枚しか見ていない。親密度が高かったことを考えれば、二枚目まではそこそこ簡単に見れても不思議ではないのかも。
スチルに見とれていると、ガイウスが急に立ち上がり失礼しますと帰って行った。
イベント発生後の淡泊な感じが、やっぱり非常にゲームっぽい。(何度目よ)
迫られるようなイベントが起きなかったことに内心安堵して、目的の眼鏡橋のスケッチを済ませ公園を後にした。
本当に今日はスチルラッシュだ。
こんなはずじゃなかったのに。私の心は乱されてしまって、せっかくの休日なのに心臓がゆっくりする暇がない。
おかげでだいぶ慣れたけど、つっ……疲れた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次話は19時更新予定です。
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