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アルバイトを始めて思ったことは、「お金を稼ぐのは、楽ではない」 大人では働き手が集まらないから、高校生を雇うのだろうか、という卑屈な思いがむくむくと湧くくらい仕事がきつい…体力的に。
作業倉庫内に冷房はない。扇風機や冷風機のようなものはあるが、倉庫全体の温度を下げることはできず、首筋を流れる汗は止まらない。
過酷な仕事だったが、とりあえず一か月だけだったし、他に見ていたアルバイトで、飲食や販売よりは時給がよかった。が、しかし、きつい。
一日目でそれを悟った私は、ペットボトルにお茶を入れて凍らせたものと、首に巻く保冷剤付スカーフ(百円均一)と、マイボトルに氷とスポーツドリンク、フェイスタオル二枚を用意し、着替えもバックに押し込み、それらを毎日持参していた。
とにかく、一か月持ちこたえるのだ。
倉庫内での作業は、そでもまだましな方だった。直射日光に当たらず、伝票貼りや、台車を使った荷物運びになるので、暑さはあるが紫外線はない。これが屋外作業や配送の積み下ろし作業になると、灼熱の太陽と対峙しなければならない。
ペットボトルもう一本もってくればよかった…。
ここ数日より、気温の上がった外気は容赦なく肌を焼く。日焼け止めは汗で流れてしまい、お昼に再度塗りなおしたが、どれほどの効果があるだろうか。
お金を貯めるためにアルバイトをしているので、なるべく自販機で飲み物を買いたくない。がまんするか、と天を仰いだとき。
「がんばるねー」
楽しい声が聞こえて振り返ると、茶色の髪をした男の子が笑ってスポーツ飲料を差し出した。私より以前からここでアルバイトをしている、と話していた同年代の人の一人だ。
ええっと、名前は確か。
「広永さん? えっと、これは」
無理やり渡された青いラベルのペットボトルは、よく冷えていて周りにすでに水滴がついている。
がまんしようと思ったはずなのに、手に持たされた瞬間、のどがからからと乾く。
これ、飲んでいいんだろうか。
「名前がいいな。太輝って呼んで」
「……太輝君?」
「呼び捨てでもいいよ。敬語の女の子に呼び捨てにされるとぐっとくる」
言っていることがよくわからない。体力ゲージが赤になりかけている私は、「太輝君で」と返事するのがやっとだった。バイト先の人を呼び捨てにするほど、心臓強くない。
「夏希ちゃんって呼んでいい? 陰でみんなそう呼んでるし」
「? ええ、どうぞ。これ、いただいていいのですか?」
陰でみんなそう呼んでいる、という言い方が少々気になったが、別段問題もないので、置いておく。
「ええ、どうぞ。水分補給して適当に休憩入れないと倒れるよ?」
私の口調をまねた後、笑顔で言われる。
「ありがとうございます。いただきます」
渡りに船。砂漠にオアシス。
私は迷うことなくふたを開け、ごくごくと飲んだ。生き返る。暑さでだるだるだった気分が晴れる。
「いい飲みっぷりで」
茶化す様に言われたが、感謝しかない。本当に助かった。
「おいしいです。今まで飲んだ中で一番」
心の底から言った。
茶髪の彼は、肩を震わせて笑っていた。
「それはすごい殺し文句。いいね、夏希ちゃん。付き合う?」
????
目が点になった。
もらったペットボトルを落としかけた。
この人なんていった?つきあうってなに?顔見知りにになってから二週間もたっていないよね?なんでこんなこと言えるの?意味がわからないけどつきあうってああどこか行きたいとかなにかにつきあってとかそういういみでべつにふかいなにかがあるわけじゃないってことなのかそれとも……
「駅前にアジアスイーツの店できたでしょ? カキ氷、付き合ってくれない?」
……お店に一緒に行ってくれってこと?
勘違いにかっと顔に一瞬血が上った。
駅前にできた、アジアスイーツの店は私も気になっていた。ココナッツミルクのかかったフルーツやプリン、杏仁豆腐などが売られていて、夏は期間限定で、果物を凍らせて砕いたカキ氷が人気だった。お金を貯めたら行こうと思っていた店の一つだった。
過酷なアルバイト労働への、ちょっとしたご褒美に、いいかもしれない。
私は笑って、うなずいた。
「はい。私もそういうの、好きです」
「いいお返事。いつならいい? 明日? 明後日?」
うわ、と私は一瞬目を見開いた。
行動が早い。そういえば、幼馴染もおっとりしているように見えて、予定を立てたり、行動なんかは早かった。男の人はみんなそういう感じなのだろうか。
明日は、と一瞬考える。
幼馴染の家でケーキ食べる約束していたっけ。
「明日は用事があって。明後日はバイトで…」
「じゃあ明後日。仕事終わったらデートね」
デート?
私は再度目を剥いた。
生まれてこの方、男の子とデートなどしたことがない。彼氏もいないし、告白されたこともない。
太輝君はにっこり笑って、私の頭をぽんとたたくと、「あとで連絡先教えて?」と言って、手を振った。
じりじりと体温が上がる。
私は初めてのことに浮かれていた。
だから、彼がどこの学校で、どんな人なのかなんて、考えもしなかった。
すみません、あらすじ回収までもう少し。




