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私には美少女幼馴染(男)がいる。同じマンションの隣部屋に住んでおり、別々の高校に行っているが、普通に仲がいい。いや、少々スキンシップは多い気がするけれど。夏休みにアルバイトを始めて、交友関係が広がった。バイト先で仲のいい男の子ができて、遊びに行こうと約束をした。初デート!と浮かれていたのもつかの間だった。
恋人がほしい女子高生と、それを邪魔する美少女(男)の話。
高校一年の夏休み。お盆も終り、半分以上が過ぎたころ。
「一人で買い物に行けない。夏希ちゃん、お願い一緒に行って?」とメッセージアプリで連絡をしてきたのは、隣に住む幼馴染だった。
一人で買い物くらいいけるでしょーに、と思ったが、ちょうど用事がなかったので、「いいよ」と返信すると、すぐさま歓喜ハートマーク満載の返事が来た。
駅前のショッピングモールに行くために、二人連れだって歩いている。
灼熱の太陽と、アスファルトの照り返しは、まだまだ夏は続いているよ、と叫んでいるようだった。
私には超絶美少女(男)の幼馴染がいる。
現在同じマンションの同じ階、私の家のすぐ隣に住んでいる。戸籍上、生物学上、性別は男だが、とにかく美少女なのだ。
高校は別だが、親同士が仲がいいせいもあって、何かと一緒にいることが多い。
二人で出かけて、隣を歩くときは、右腕に腕をからませて、満面の笑みを浮かべて、一ミリの隙間もないほど密着して歩く。
夏場はかなりきついので、ちょっと離れて? と言うと、しぶしぶ手に指をからませて、いわゆる恋人つなぎで微笑み浮かべてとことこと歩く。別に手をつながなくてもはぐれないよ、と言うと、目を潤ませて袖の一部をそっとつまんでとぼとぼ歩く。
毎回出かけるたびに、おなじことを繰り返すのに、ことあるごとに私に触ろうとする。
髪可愛い似合ってる、と言いながら頭に触る。
この服どこで買ったの? と肩から二の腕を撫でる。
目が赤いけど寝不足? と言いながら頬に触れる。
リップの色変えた? と言っては、ちょん、と唇にまで触ろうとする。
リップ落ちちゃう、と避けると、「だって可愛いんだもの」と唇を尖らせる。
いやいやいや。あなたの方が、何倍も可愛いから。
ゆるく巻いたふわりとした髪に、しろくてきめ細やかな肌、マツエク100本追加したようなバサバサなまつ毛、大きな目はぱっちりと、一度色を消してグラデーション塗りしたような桜色の唇。
髪以外は全部自前という装備品ほぼなしで最強という美のチートスキル。
どれか一つでいい。わけてくれ、切実に。
そして、趣味まで完全に美少女のそれだった。
「今日はね、夏希ちゃんが好きなチーズケーキを焼いたんだ」
うるんだ目をほんのり笑顔に変えて、桜色の唇が動く。
幼馴染のチーズケーキ。私は自然にごくりと唾を飲んだ。
黄金色の表面に、卵の黄色がほんのり効いた生地、濃厚なのにチーズの酸味は爽やかで、体系を気にしなければ、ワンホールまるまる食べられると思ってしまうほど、中毒性のあるチーズケーキ。
以前聞いた材料は、それほど珍しい食材はなく、クリームチーズと生クリームと卵、砂糖と小麦粉、そして少しのラム酒。なんどか食べたことがあったが、いつなんどき食べてもおいしくて、市販のものが味気なく感じるほどだった。詳しいレシピは教えてもらえなかったが、「言ってくれたらいつでも作るから」と微笑みが帰ってきた。
そして性格も可愛いときた。
「きのう作ったバニラアイスとよく合うと思うの。明日はうちに来ない?」
行きたい。幼馴染の作るバニラアイスも絶品だった。あのチーズケーキとひんやり甘いアイスはベストマッチにちがいない。
二つ返事でうなずきかけたが、いやいや、と首を振る。
明日はバイトだ。
夏休み限定で、倉庫内作業という単純で体力だけをものすごく消費する仕事をゲットしたのだ。大学受験費用の足しにするために、今からお金を貯めるつもりで、もう二週間ほど行っている。高校生にしては時給が高く、飲食や販売業のようにうっかり知り合いにばれることもない。うれしいお仕事だった。
もちろん、幼馴染にも内緒である。
知られたら、きっと反対される。
「ごめん、明日はちょっと、その用事があって。明後日なら!」
こちらの言い分を、幼馴染はじっと見つめて聞いていた。
用事は何、とか聞かれるかな、と目を泳がせていると、幼馴染はにっこり笑った。
「じゃあ、明後日で。お昼ご飯も一緒に食べる?」
「いいよ!」
用事を聞かれなかったことに安堵して、思わず返事をしてしまった。幼馴染は笑みをさらに深くして笑っている。
「うれしい。明日だれもいないから、ひとりでごはん、さびしかったの。夏希ちゃんと一緒にいられて幸せ」
言っていることがとても可愛い。
私が男だったら、瞬殺で惚れてしまうに違いない。
ただ、私は女で、幼馴染は美少女にみえるが、美少年だ。
ご丁寧にもウィッグ(耐熱性)でゆるふわヘアで、ドルマンスリーブの腰まである長いTシャツ。もともと華奢な上に、男性体系を隠すにはもってこいのアイテムをわざわざ選んで着ているところが、確信犯なのだろうか。
ウィッグやめたら、女子に付きまとわれるから、と言っていたっけ。
女子に見える恰好をして、私と一緒にいるのが、一番安全ってか。
何とも複雑である。
「ちなみに今日は何を買うの?」
袖をつかんで歩く幼馴染に視線を向けると、相手は笑ってお店を指さした。製菓用品を売っている店舗だった。
「コアントローとグランマルニエ」
「お酒? 未成年じゃ買えないでしょ」
「お菓子作り用に使う小瓶だったら、年齢きかれたことないよ。他にも材料買うつもりだし」
50CCくらいの瓶か、と私は納得した。
「以前にも行ったことがある?」
「…そう。1回目は見知らぬ女の子に付きまとわれた。男がそういう店に入るって目立つみたい。だから、次はその、髪型変えて行ったら、男に声かけられて。……夏希ちゃんと一緒だとそういうこと少ないから」
目を伏せて話す幼馴染はとても可愛い。
「いいよ。いつもおいしいお菓子をいただいて、私の方こそありがとう?」
笑って言うと、幼馴染は微笑んだ。




