1話 究極の問いとループ
6月27日
目の前にスイッチが2つある。
ひとつのスイッチを押せば約3歳の子供の命を救える。
もう1つのスイッチを押せば100歳の老人の命を救える。
選ばれなかった方は死ぬ。
自分が変わりに死んだり選ばないという選択肢はないとする。
こんな時あなたならどうするか。
一般的には3歳の子供を救うと答える人の方が多いのではないだろうか…
人間というのは死ぬことを前提として生きていない。
弱肉強食の自然の世界では死ぬことを前提と考え生きるのが普通だ。
だが人間はそんな世界では生きていない。
ほぼ必ずと言っていいほど大人に成長していく。
そのため人は死を恐れ生きていると言っても過言ではないだろう。
ではこれを踏まえた上でもう一度先程の質問について考えてみよう。
3歳か100歳。
言い方を変えるなら
これからたくさんの事を経験していくであろう人か既にたくさんの事を経験した人。
となるだろう。
この考えにたどり着いた人の9割は3歳を救うと答えるはずだ。
僕もその1人だ。
僕こと川並阿良汰は今友達と共に昼食の後そのまま学校の屋上でこの問題に答えている。
僕は3歳を助けるという考えに至った。
将来があるかないかで考えるという何ともシンプルな考えだがこれがこの問題の代表的な考え方なのだろう。
だが友達は違った。
友達の名前は赤西修也
彼は100歳の老人という答えを出した。
僕は彼に理由を問う。
「なんで100歳の老人を助けるんだ?」
そして彼は真剣な顔で話し始める。
「100歳も生きてることで人間は死ぬことを前提として生きていないという考えを老人は持ってる。だけど3歳の子はまだ3年しか生きていないから人間は死ぬことを前提として生きていないという考えをもっていないだろ?ならその人間に対する固定観念を持っていない3歳の方が楽に死ねるのかなと思ってさ」
彼の言っていることは少し難しい。
だが別に間違っている訳ではない。
勉強したり働いたりという色々これから人生で経験することを経験していない状態で
人はすぐ死ぬんだ。と3歳の子を悪くいえば騙した状態で死なせる。そうすれば3歳の子は苦しまないで死ぬ事ができるのではないか。
という彼の考えに僕は関心した。
僕は生きていく中で人が成長し、思い出を作って、たくさんの経験をするのは当たり前の事と思うようになっていた。
決してこれも悪いことではない。だがその当たり前というのが問題なのかもしれない。
次はもっと柔らかい考え方をできるようになろう。
僕は今日、そう決意をし、屋上から飛び降りた。
6月1日
目を覚ますとそこは病院ではなく、自室のベッドだった。
今のは決して夢ではない。現実だ。
僕はある日なんらかの理由で死ぬと必ず同じ日、同じ時間、同じ場所で起きるようになっていた。
こういう風になった原因はわからない。そして記憶もない。
だが既に僕は15回死んでいる。普通なら精神が崩壊しているだろうが
何故か僕は死ぬ時、痛みを感じない。
なので死のうと思えばすぐに死ぬ事ができる。
僕がここまで死んでまでループをするのには理由がある。
それはこの机に残された書き置きだ。
その書き置きには
6月25日
この日付だけが書いてある。僕は幸いにもループをし始めたあとの記憶は残っているので
これが何を意味するのか、それを調べるために僕は何度も何度もループを繰り返している。
今までのループで得られた情報は少ない。
得られたのは、
僕には家族が居ないこと。友達も赤西修也1人のみ。市内の高校に通う高校生。
ということだけだった。
勉強などは出来るし、知識もあるのでどうやら失ったのは思い出だけのようだった。
この世界には魔王もいなければ超能力を使ったりする人はいないのでファンタジーの世界では無いようだった。
なら誰がどう記憶を消し、ループさせているのか…
そんな疑問を毎回抱くが、答えは導きだされなかった。
そして今日からまた憂鬱な日々が始まる。