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人生縛りゲーム  作者: 海馬千尋
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第一の縛り ~女体化~ パート1

深夜にならないと机に向かえない。こりゃいかんとは思いつつも、現代病患者である私は画面をスクロールする手を止める事は至難なのである。

 目覚めは良い方ではない。しかし今日は割に、早い段階で目が冴えた。

 

 ベッド脇のラックにある目覚まし時計を見ると、セットしてある時間より5分早かった。なんと優秀、得した気分。


 そして不思議な事に、目覚ましで起きたときよりも、対布団への抵抗力は格段と強いのである。これは近年稀なこと。


 難なく布団の魔力を撥ね付けると、だらしない欠伸をしつつベッドの縁から足を出す。まだ怠さの残る上体を持ち上げ、ぐっと伸びをすると、なまった身体は活動を受け容れた。


「ここは、マダガスカルか・・・・・・」


 太陽が出たら活動をする。それは人間が古来より受け継いだ習性である。


「さてと・・・・・・」


 まだ視界はぼやけるが、顔を洗えば明けるだろう。


 洗顔、歯磨き、着替え、飯、登校。そう頭の中で唱えながら、部屋を出て廊下を進み、一階への階段を下る。上りの、寝癖の付いた姉に何故かギョッとした目で見られたが、いつもの嫌みだと受け流し進んで、洗面所に向かった。


 洗面台の前に立つ。若干足場が濡れているのが不快だ。タオルをとって脇に置き、顔を数回に分けて洗う。水気をタオルで拭き取ると、先程までの靄のかかったような視界は鮮明さを取り戻した。


 鏡に映る、自分の姿。少し髪が伸びただろうか。最後に切ったのはいつだったろう。まつげも長い。視界が澄んだからか、瞳が大きく見える。身体に曲線が多いように思う。成長期だからか? 何だか今日は・・・・・・見える世界がいつもと違う気がする。


「・・・・・・・・・」


 ・・・・・・・・・・・・いや、可愛い。こいつ可愛いぞ。


 顔に触れてみる。鏡の美少女もまた、俺と同じように顔に触れている。


 これは・・・・・・俺か? 舞台装置を考えてみれば、鏡に映るこの美少女が、俺でないはずは決して無い。のだが・・・・・・、


「いや、え、でも、は、は、はあ?」


 こんな面妖な事態、信じる方が難しい。


 俺は夢でも見ているのか? 通りで可笑しいと思った。俺が目覚ましより早く起きるだなんて!


 その時、二階からドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきた。その足音は次第に大きくなり、すぐそこにいるなと気配を感じさせた矢先、俺の前へとやってきた。


「敦也! やっぱりなんか変! 私より可愛いもの!」


「・・・・・・そりゃどうも」


 今気付いた。声も高くなっていやがる。


 自覚以外の場所で、俺はある朝女になっていたことを理解した。

  ・

  ・

  ・

「ちょっと敦也! 朝食いらないの!?」


「いらないってさー! 今日私達二人で出るから~!」


 母がリビングから叫んでくるのに対し、姉――凪が返す。今俺が返答すると、どこぞの嬢ちゃんかと思われてしまうため、気を利かせてくれたのだ。


 母にバレないように、俺と凪は家の外に出ることに成功した。それにしても、


「よく俺だって信じてくれたな。いや助かるけどさ、ちょっと安易じゃないか?」


「ま、たしかにそうね。アンタが本物の敦也かどうかの事実確認なしに、こうして幇助してるんだから。でもまあ、姿や声が変わっても、アンタのその鼻につく性格は変わってないみたいだから、違和感なんて無くなったわ。むしろ前よりずっと良いくらい」


「鼻につく性格なのはお互い様だな。・・・・・・でも礼は言っておくよ」


「ありがとう、でしょう?」


「んぐ・・・・・・んぁああ・・・・・・ありがと。これでいいだろ?」


「及第点ね。ありがとうの言えない性格。そういうとこよ」


 ぐうの音も出ない。いつからこういった社交の言辞を恥ずかしいと感じるようになったのだろうか。


「ともあれ、あんたこれからどうすんの? 一応制服には着替えたけれど、学校行く気?」


「ああ。実の所、どうしようか迷ってる。部屋に閉じこもっていても母さんに引っ張り出されるだろうから出てきたけど、行く当ても特にない」


 この際頼れるのは、融通の利く友人か・・・・・・。しかしその友人も、当然ながら学校がある。女子になっちまったから今後どうするかを一緒に考えてくれだなんて意味不明な説明で、休ませるわけにはいかない。


「んん・・・・・・まあ、なんとかするよ。とにかく姉貴は行ってくれ。慣習に倣わなきゃ置いてかれるぞ」


「また意味分かんない事言って・・・・・・。良いの? こんな奇っ怪な出来事、一人で何とか出来る問題じゃないでしょう」


「そうかも知れない。だからまあ、二人でなんとかしてみる。どうにもならないなら、潔く諦めるっていう奥の手もあるしな」


 言いながら、俺はポケットからスマホを取り出す。慣れた手順で液晶を操作していき、一人の男にダイアルを合わせた。


「・・・・・・それで良いなら、良いけどね」


 姉貴は柄にもなく、案ずるように言ってきた。それだけ言うと、姉貴は白い石畳を踏んで通学路を歩み出していった。


 隣の生け垣で姉貴の頭が見えなくなった頃、呼び出し音が途切れて向こうと繋がった。


 今頼れる友人がいなくとも、であれば友人に頼る必要は無い。俺は声への言及を恐れずに言った。


達巳たつみ、今日学校サボれるか? 急を要する」


 言ってからしばらく待つが、どうしてか何も返って来ない。ほとんど何も考えず、第一声は基本口を衝いてくるようなやつだ。こんなに、何を考えることがある。


「おい、聞いてるのか? この声のことなら会って講釈したい。別に強制じゃないけど」


「・・・・・・れ・・・・・・・・・た・・・・・・・・・だ」


「は?」


 断片的にしか聞こえなかった。字間を補って察することも出来ない。


「なんて言った、よく聞こえない。もう少し声量を上げてくれ」


 また、暫時待つ。こうも応酬に滞りがあると、そろそろ苛立ってくるぞ。


 やっとの事で返答が返ってきた。半ば不機嫌に耳をそば立てる。


「俺・・・・・・どうなっちまったんだよ・・・・・・」


 ・・・・・・驚いた。人は何の気なしに、何らかの暗黙の了解で繋がっている物だ。その互いの理解が一致してこそ、互いは互いとして認めることが出来る。


 こう来るだろうなという予想が裏切られると同時に、一瞬にして思い描いた台本が散り散りになってしまった。


 束の間の唖然。俺は柔和な口調で問いかけた。


「お嬢ちゃん、今いくつ?」


「え、じゅう・・・・・・ろく?」



 





すでに迷走気味であるが、まあ誰が読むんじゃと自分を納得させてみる。そうするとあら不思議、次から次へと文字が浮かび上がってくるではないか。自分でも意味不明な説明パートは、一度書いて後は読み返さず、誰かが言及してくれるのを待つばかり。

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