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ラシアータ。

またも思い付きですみません。

あまり長くない予定です。

「もう! ビルってば! そんな揶揄う事ばかり言っていると嫌いになるからね⁉︎ ねぇシータ?」


「そうね……揶揄ってばかりは嫌よね」


「ほらぁ。シータの言う通りじゃない」


「ごめんって。でもいつもの事だろ? 全くミリィはそんな事で目くじら立てないで。嫌いになんかならないで」


「うーん。仕方ないなぁ。ビルが謝るなら許してあげる」


ウフフ。と笑うミリィ。そろそろ帰る時間だと言って彼女は帰って行く。

そんなミリィを見送る旦那様の目は愛しそうだ。……彼、ビルテートは私、ラシアータの夫である。ビルテートの家が没落寸前の子爵家で我が家は裕福な商人。彼女ミリアさんはビルテートの幼馴染みで男爵令嬢。領地も無い2人の家は王都の貴族街の片隅で隣同士だったから生まれた時からの幼馴染み。それはもう恋人同士ではないのか? って疑いたくなるほど仲が良い。

私とビルテートは政略結婚で愛は無かったけれどやはり没落寸前とはいえ貴族だからかビルテートは見目麗しい方で。まぁ私は初顔合わせで一目惚れしたからこの結婚を了承したのだけど。初顔合わせから結婚式まで半年。会ったのは初顔合わせと合わせて3回。全てこの方の家で。そしてその3回とも何故かミリィと旦那様に愛称を呼ばれるミリアさんが()()()()()()当たり前のように居た。ちなみに旦那様は一人息子なので当然跡継ぎ。他に兄弟姉妹が居ないのでミリアさんを妹のように可愛がっているから、私も彼女を妹のように可愛がってくれ、と言われた。……愛人ではないのか? と尋ねたら「ミリィはそんなんじゃない!」と怒られた。只の幼馴染みが婚約者の隣に居る事の不自然さはまるで無視らしい。

私の両親は偶々知人だった子爵家に頼まれただけのこの結婚に反対だったので断って良いよ、とは言われていた。でも私は愚かだった。一目惚れしたビルテートが結婚したらさすがにミリアさんと距離を置くと思ったのだ。だが結婚して1ヶ月。彼女は毎日のようにこの子爵家を訪れる。ちなみに初夜を私達は済ませていない。何故なら結婚式の夜、急に具合が悪くなったミリアさんがビルテートに泣きついてずっと側に居てくれと言うから……と本当に一晩中彼女の側にいた。それから1週間。何故か夜になると彼女は具合が悪くなり、結婚式当日から我が家に泊まりっぱなしだった。……ここで私も目が覚め始めた。それから1週間の結婚休暇が終わったビルテートは今度は半月程仕事で帰って来るのが遅かった。最初は起きて待っていようかと思ったが寝ていて構わないという事なので寝ていた。

で。翌朝早く起きて仕事へ見送りに行こうとすると何故かミリアさんがやって来て一緒に見送る。そうして結婚して22日が終わり23日目からも毎日彼女は仕事が終わったビルテートを見計らって現れて私が作った夕飯を食べてビルテートの隣で仲良く2人にしか分からない思い出を話して帰って行く。隣とはいえ夜だからビルテートが家まで送り届けるのだ。その間に私は寝ていて良いと言われて寝てしまう。これを30日。つまり本日1ヶ月目である。ちなみに夫婦が共に眠る主寝室を結婚当日から私は1度も使用していない。

考えてもみてほしい。恋人でも愛人でもないと言いつつ具合が悪い幼馴染みが可哀想だからって主寝室で過ごす旦那様と幼馴染みとやら。……何もなくても何かあったと思っておかしくないはずだ。残念ながら没落寸前の子爵家には使用人も執事と家政婦1人しか居ないし、2人とも通いだ。更にはビルテートの両親は我が家のお金で新婚旅行に行く費用を使って旅行中。まだ帰って来ない。もちろん私とビルテートは新婚旅行に行ってない。


……ここまで蔑ろにされて思った。

これって私の方がお邪魔じゃない?

薄々は気付いていたけれど認めたくなかった。でもさ。愛人でも恋人でもない幼馴染みの距離だとしても……私だって幼馴染み居るし多分これくらい仲良いとは思うから……それでも夫婦の語らいもなく初夜も済ませていない夫婦って何? 毎日毎日やって来る彼女を大切にする旦那様って何?

私要らないよね?

私が邪魔だよね?

認めたくなかったけれど認めるしかないよね?

私はもう溜め息しか出ない。


翌朝は結婚して初めてビルテートを見送らなかった。ミリアさんの声が聞こえて来たからやっぱり今朝も彼女が来て見送っているのだろう。私が居なくても良さそうだし。そっと私に与えられた客間……そう夫人の部屋じゃなくて客間なのだ、私は。これだけでも私は妻として認められていないと思う……その窓の影からビルテートを見た。彼は振り返って玄関に手を振っている。多分まだミリアさんが居るのだろう。私はそれを見ると窓から離れた。別に私が居なくてもやっぱり平気そうね。これから執事と家政婦さんが来るけれどその前にミリアさんが居なくなるし。


彼女はビルテートが居る時しかやって来ないからある意味楽だ。つまり私には何の興味も無いのだろう。ビルテートが帰って来るまでに実家から持って来た物で持ち帰れそうな物を鞄に詰める。持ち帰れなさそうな物は執事にお願いして処分してもらおう。

彼も家政婦さんも気付いているらしい。

私が妻なのにミリアさんが妻らしく振る舞っている事を。

初夜も済ませていない事すら気付かれているはず。まぁ通いの2人が居る所でも私ではなくミリアさんといつも一緒に居るのだもの。私が妻らしくないのは解るわよね。

そんなわけで旦那様宛に手紙を書いてやってきた執事に手紙を託す。


「私がこの家に居る意味は無さそうだし、今日限りで出て行きます。1ヶ月という短い間でしたがお世話になりました」


執事と家政婦さんにお礼を述べた。はっきり言おう。ビルテートなんかよりよっぽどこの2人の方が私の事を大切にしてくれていた。私の話を聞いてくれるのはこの2人だった。ビルテート? だってお互いを知るために話そうにもミリアさんがベッタリだもの。何を話すの? 夫婦での会話なんて何一つ無いわ。


「若奥様!」


家政婦さんが私を呼ぶ。何か言いたいことがあるのだろうか?


「あの、若旦那様はご存知でございますか?」


「いいえ。だから手紙を書いたのですもの」


「で、では話し合ってからでもっ!」


こちらは執事の方だけど……えっ? それを言う?


「いや、無理でしょ。ミリアさんがずっと旦那様にべったりしていてどうやって話し合いをするの?」


私の尤もな質問に2人は黙る。


「あまり恥ずかしくて言いたくないけれどあなた達も気付いていらっしゃるでしょう? 私と旦那様は閨を共にしていないの」


「それは……はい。失礼ながら気付いてました」


家政婦さんが項垂れるように肯定する。


「ねぇ2人共。閨だけじゃなくて私達は夫婦の語らいさえ出来ないのよ。それもこれもミリアさんが居るから。ミリアさんが帰る頃には私は旦那様に寝ていて良いと言われてしまい私は起きている事すら許されない。朝からミリアさんが来るわ。私は旦那様と朝食も夕食も2人きりで食べられないのよ? 朝食を一緒に摂ろうと旦那様に最初に尋ねたらなんて言ったかご存知?」


「……あなたはあなたでゆっくりと食事をすれば良い。でしたか」


執事が悄気たように応える。そう。ビルテートは一緒に朝食を摂ろうとした私の気持ちを蔑ろにした。夕食は必ずミリアさんが一緒。意味が分からない。


「幼馴染みだから仲良くって言われても夫婦の語らいも食事を共にする事も無いのにそれでも幼馴染みを優先される。主寝室を私は使用した事が無いのよ。結婚式直後でさえミリアさんと旦那様が2人で主寝室に居る。ねぇこれって私は惨めではないかしら? 私がお邪魔じゃない? たとえ2人が本当に只の幼馴染みで主寝室に2人で篭って何も無かったとしてもそれを私が信じられると思う? 愛人か恋人ではないの? と疑いたくもなるわ。それなのに旦那様は疑った私をミリアさんが居る前で叱りつけてミリアさんには何も言わないの。あの方は誰と結婚したのかしら。こういう文句さえミリアさんが居るから言えないのよ? ミリアさんが居るところで文句を言えばまた私が叱られるだけだわ。解るでしょう?」


私は何か悪いことを言っているだろうか? と2人に首を傾げる。2人は何も言えないのだろう。黙り込んだまま。


「1ヶ月我慢したけれどそれともたった1ヶ月くらい、とあなた達は止める?」


「いいえ。いいえ、若奥様。すみませんでした」


家政婦さんが泣き出した。彼女は本当に私の話を親身になって聞いてくれていたから彼女を裏切る事になってしまって申し訳ない。


「この家にかかるお金に関しては離婚が成立するまでは支払うわ。もしあなた達がこの子爵家を出たいなら我が商会にいらして? 雇いますから。恩があると仰るなら別に構わないけれど。でも私はもう無理よ。旦那様には一目惚れしたけれどミリアさんを最優先で私に手紙すら書いてくれない人だもの。私は政略結婚でお金だけ出せば良かったのよね、きっと。私は考えてみたら旦那様の事を何も知らないわ。ミリアさんと旦那様の2人だけが解る思い出話でいつも盛り上がって。どんな食べ物が好きなのか。ご趣味は何なのか。お仕事すら何をされているのか。何も知らない。こんな妻なんて居なくても良いと思うの。ミリアさんと再婚されれば2人共幸せなんじゃないかしら?」


「若旦那様は手紙さえ出していない、と?」


執事の問いに私は頷く。婚約していた時に私から手紙を出しても返信なんて無かった。


「そんなまさか」


執事が顔色を真っ青にしている。


「本当よ。婚約している時に私から手紙を出しても返信は一度も無かったわ。それでも結婚したら夫婦ですもの。語らう機会が来ると思ってた。でもこれではね。この家の跡継ぎはミリアさんが産んでくれる事でしょう。離婚の手続きは旦那様がしなくてもこちらでするから直ぐに出来るわ。……旦那様宛の手紙には離婚する事も旦那様への不満も他の女性を妻にしようとすればその女性がまた不満を抱くからミリアさんと再婚して下さいって事も全て書いてあるから。必ず渡して下さいね。それと2度と会いたくないとも書いておきましたから。1ヶ月たっても二人だけで話をすることも出来なかった夫婦とも言えない私達だから会わなくても構いませんよね、とも書いておいたの。ちょっと意地悪だったかしら?」


私がフフッと声を上げて笑えば執事が黙って首を横に振り家政婦さんは涙ながらに「決して意地悪なんかじゃないです!」と言ってくれた。短い結婚生活。この2人に会えた事だけが良かった事だった。


「私はもう実家に帰るわ。本当に2人にはお世話になりました。旦那様とミリアさんを支えてあげてね? それでもダメな時はいつでも訪ねていらして? 2人を雇うことくらい大丈夫ですから。私はあなた達みたいな穏やかだけど真面目な優しい夫婦になりたかったわ」


そう。この執事と家政婦さんは夫婦で近所で暮らしていた。夫婦の形はきっと様々だろうけれど、旦那様とこんな優しい夫婦関係を築きたかった。夢でしかなかったけれど。2人はもう私を引き留めなかった。ただ見送ってくれた。……さぁ。ラシアータ。前を向いていきましょう! 先ずは離婚からだわ!

明日は幼馴染み視点。

明後日は旦那視点。の予定です。

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