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序章 派遣○○は時給2,000円

■札幌市内某所 1Rマンション 


金が無い。入ってくる見込みも無い。

テーブルの上に広げた財布の中身は1,861円、スマホのマネーペイで2,480円。

目の前に、電気代、ガス代、携帯の請求書と怖くて開封していないクレジットカードの利用請求書がある。

合計していないが、手元の金でまったく足りないことだけは山田武ヤマダタケル33歳にもわかった。


(働くしかないよな・・・)


スマホでバイトサイトをさっきから検索しているが、中々気に入ったものは無い。

実績は無いが反比例して理想が高い武は、バイト探しも選り好みだ。

体力作業はやりたくない。

事務作業はやったことが無い。

清掃関係はプライドが許さない。

時給は1200円ぐらい欲しい。


「飲食か夜間のコンビニぐらいだよなぁ」


スマホ画面をスクロールする。


『高時給 最大1500円!! コンビニバイトリーダー急募!!コツコツレベル上げできる方募集!』


1500円のヘッダーが気になった。


(この、『最大』ってのが食わせもんなんだよねぇ)


少し悩んだが、今まで続いたバイトはコンビニぐらいしかなかった武はリンクから電話をしてみた。


■YUHA商会本部事務所 応接室


「山田武さんですね。私担当の西條といいます。いままでも3年ぐらいはコンビニのご経験ありますね。それと、コンサルタント会社での勤務経験もあるか・・」


「ハイ、こちらと同じファミリーセブンでも1年ぐらい働いています」


「そうですか、では、良ければ、明日からでも来て欲しいのですが、希望の勤務時間帯あります?」


「その前に、時給の件を確認したいんですが」


「失礼、人手不足なんでね。スタートは昼900円、夜間1000円が基本になります。1ヶ月後にバイトリーダーになれば、それぞれ200円上乗せです。」


(1500円は?)


「広告には最大1500円って書いていましたが?」


「あぁ、あれねぇ。1年ごとにも昇給を検討する場合もあったりしますから、4年ぐらいで理論上は1500円になる人もいます。」


西條は、メガネの奥の目線をそらした。


(絶対、ならないパターンだ。だが、基本条件でもまぁ許容範囲だ)


「もうひとつ、確認と言うかお願いなんですが、日払いで賃金は貰えますか?」


武の懐具合は追い詰められており、翌月払いの月給制では胃袋も請求書も我慢できそうに無い。


「日払いですかぁ、うちはコンビニ5店舗やってる会社組織なんですよね。だから、個別に支払いするとかはやってないんですよねぇ」


(そんなに、時給も良くないし、他をあたるかな)


「ぶっちゃけ、山田さん今はお金に厳しい状況かな?」


「厳しいといえば厳しいです」

(というか、厳しいを超えた状態)


「だったら、限られた方にしかご案内しないポストがあるけど、興味ある?」


(なんか、胡散臭いな)


「ヤバイ仕事とか思ったでしょ? そういうんじゃないから、どっちかと言うとファンタジーだからね」


「ところで山田さんはロープレ系のゲームとか好きかな? 『ファイナルドラゴン』とか『ファンタジークエスト』とか?」


「どっちも、やったことはあります」というか、どっぷりはまってる方だと武は思った。


「それと、コンタクトはしてる?」


「いえ、裸眼です。視力は良い方なんで。」


「じゃあ、もし興味があればシークレットポストを紹介するので、この『守秘義務契約書』にサインしてもらえる?」


黄ばんだ用紙が武の前に差し出された。


「内容はしっかり読んでね。ざっくりまとめると、今から聞いた話はうちの会社の人以外には話さないってことと、話した場合にはそれに伴った損害の対価を山田さんが責任を持って支払うって内容です」


西條は条項を指差しながら説明する。


誰にも言わなければ問題ないと思い、武は手渡された万年筆でサインして返した。


西條も万年筆でサインした瞬間、契約書が青白い炎とともに消えた!!


(手品か?ファンタジー?このおっさんは手品を見せたかったってことか?)


「これで、契約成立ね。じゃぁ、仕事の話に戻るけど、簡潔に言うと『派遣で勇者リーダーをやってもらいたい』ってことです」


西條は真顔で言う。


「・・・」


返事のしようもなく西條を見返す。


「えーと、『このおっさん何言ってんの?』って思ってるよね。それが普通だから全然OK。みんなそうだから。頭の中の「?」マークのままでとりあえず最後まで聞いてね」


「私は、この世界のパラレルワールドから時空移転で派遣されている魔法士の一人です。私たちの世界『ドリーミア』ではこの世界と違い、神の教えと魔法が全てを動かしています」


(はいはい、そういう設定ね。しかし、オチはなんだろう?)


「ドリーミアでは約300年に一回魔竜が復活し、復活にあわせて魔の勢力が力を取り戻し、人間を襲うようになります。聖教典によれば魔竜を打ち倒せるのは異能の力を持つ勇者と伝えられています」


(なるほど、あるあるのストーリーねぇ。)


「そこで、山田さんを勇者としてドリーミアに派遣すると言うのが、ご案内するお仕事です。時給は2000円で、目標の達成に応じて臨時で昇給します。それと、日払いの件もOKです」


メガネの奥でニコリともせずに西條が説明した。


(えーっと、突っ込みどころ満載だけど)


「そもそも、勇者が何で派遣なんです?」


「実はドリーミアの中で誕生した勇者が3歳のときに死んでしまったのです。そこで、教皇様が祈祷を行い『ドリーミア以外の世界から勇者を招け、さすればそのものに神の力を与える。』とのご神託を得ました」


「教皇様の命を受け私たち魔法士は総力で異世界への時空転移を行い、この世界とドリーミアをつなげて、何組かの勇者達をお招きすることに成功したのです」


(魔法士? その前に・・・)


「勇者は既に派遣したってこと? それと『達』って何です?」


「ドリーミアの中で生まれた勇者は聖教典にもとづき魔竜と同じ300年にお一人ですが、召喚により送った勇者候補は現在4組派遣中です」


「4組って勇者って何人もいてもいいんですか!?」


「ええ、我々も2組目を送るときはダメモトだったんですが、意外とうまく行ったものですから3組目4組目と送り込んでいます」


「それと勇者は魔竜を倒した人への称号です。今はまだその候補に過ぎませんので、何人いても問題ありません」


(ずいぶんご都合主義だが、もうちょっと乗っかるか)


「しかし、勇者の派遣が2000円って安くないですか?命がけなんでしょ?」


「魔法士協会の倫理規定で、こちらの世界のことわりに大きく影響する干渉は出来ない契約になっています。そこで、我々は異世界の仕事を調べ、検討した結果2000円なら規定に違反しないと結論付けました」


「それと、ご心配の「命がけ』の件ですが、ドリーミアで死んだ場合は転移魔法が同時に解けるだけなので、こちらの山田さんが死ぬことはありません。ただし、山田さんは2度とドリーミアに行くことが出来ませんので、ドリーミアでは死んだことになります」


説明を一通り聞き、武はそろそろ面倒くさくなっていた。

まあ、新手の詐欺だとしても今のところ失うものはなさそうだ。


戯言だとしても、日払いで時給もらえなければ辞めるし、マグロ船やタコ部屋行きなら、運ばれる前に全力で逃げるまでだ。


「わかりました、勇者候補やらせていただきます。」


こうして、武は異世界の勇者候補リーダーになった。

お読みいただきありがとうございます。



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