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182.生きる目的

■南方州都バーン 南方大教会

 〜第17次派遣二日目〜


 タケルは今回の州境封鎖に伴い多くの命が失われたことについて二人の司教に問いただした。二人の司教はこの国を動かす教会の約半分の教区を任されている重要な人物だ。この二人の考え方次第では今まで以上に犠牲者が増える可能性もあるのだ。


「それはどういう意味なのでしょうか?」


 オズボーンは怪訝そうにタケルに問い返した。タケルは責任感が全く感じられないオズボーンの態度に苛立ちを感じた。


「はっきり言うと、お二人がこうやって話さえすれば死なずに済んだ人間が二人の責任で死んだと言う事ですよ。あなた達は教会の責任者の一人として、そのことについて反省や後悔が無いのですか?」

「反省? 後悔? ・・・ふむ。なぜ、そのようなものが必要なのでしょうか?あの局面では私にはそれが最善の案だと思い、南へ教会の人間を向かわせました。また、向かった人間もそれが教会士としての使命として赴いています。結果的に死者が出ましたが、それは使命を果たしたうえでのこと。私達は何一つ後悔することはありません」


 オズボーンは落ち着き払って答え、それを聞いたタケルは言葉を失ったが、すぐに怒りが込み上げてきた。


 -教会の使命のためなら、死ぬのは当然だと考えているのだろうか?


「ですが、死なずに済むやり方があるのに、死ぬやり方を選ぶのは間違っていると思いませんか? 何故、もっと穏便なやり方で済ませないのですか? フィリップさんも同じです。いきなり、州境を封鎖すれば混乱することは分ったはずです。他にやり方が無いかを真剣に考えたのでしょうか? お二人とも、考えが短絡的すぎます。あなた達が死ななくて良い人たちを殺したようなものですよ!」


「いくら勇者でもそれは失礼であろうが!お前達に猊下の考えや教会の何が判ると言うのか!?」

「良いのだギレンよ。タケル殿たちは我らとは違う世界から来られている。故に重きを置くところが違うのであろう。・・・タケル殿の世界では“死”というものは絶対に避けねばならぬもの・・・、そういう風に考えておられるのか?」


 オズボーンはギレンをなだめつつ、タケルを見つめて問いかけた。


「絶対に・・・、そうとは言いませんが、避けうる死は避けるべきです。死んでしまえばそれで終わりです。死者は生き返ることは出来ません」

「ふむ、では重ねて問いますが、何のために生き続ける必要があるのでしょうか?」

「何のため!? それは・・・、生きる目的は人によって違うでしょう。家族のためや、自らの喜びのため・・・」


 何のために生き続けるのか? いきなり哲学的な質問が飛んできて、すぐに答えられるようなものでは無かった。


「なるほど、われら教会の人間は同じ目的で生きています。すなわち“神の教えを信じて教会に尽くす”そのことを目的に生きておりますから、長生きすること・・・死なないことには意味を見出しておりません。むしろ、死を恐れてなすべきことをなさないことこそ後悔することになるでしょう」

「しかし!・・・」


 タケルは根本的に考え方が違うのだと、徐々に理解してきていた。


 -長生きすることに意味が無い・・・


「ですが、生きていればこそ教会に尽くすことが出来るのでしょう? 死んでしまえば、もはや教会に尽くすことは出来ない・・・、あなた達の考え方でも長生きした方が良いのではないでしょうか?」

「ふむ、勿論。敢えて早死にする必要はありません。ですが、だからと言って長生きすること自体を目的にするのも違うと思います。むしろ、タケル殿の世界の方が間違っておられるのでは? 生きる目的も無く長く生きること自体が目的に変わってしまっているのではないでしょうか?」

「!」


 -生きること自体が目的? 俺自身は何のために生きているのか?


 タケルはオズボーンと話していて、自分自身は何を目的に生きているのかを考えさせられた。


「それは違う。生きること自体が目的では無いよ。生きていると楽しいことがあるんだよ」

「アキラさん!?」


 横に座って黙って聞いていたアキラさんが突然口を開いた。


「そんなに高尚な考えで多くの人間は生きているわけでは無いからね。長生きすることが目的じゃないけど、生きていれば楽しいこともあるし・・・、それに死ねば周りの人が悲しむから。だから、出来るだけ長く生きる。それが人間の本質じゃないかな?」


 アキラさんは自分なりの考えを判りやすく司教に説明してくれた。聞いていたタケルは少し感心してしまった。


 -周りの人が悲しむ・・・、俺が死んだら誰が悲しむのだろう? 


「なるほど。お二人の世界ではそのように考えるのですな。確かに、ドリーミアでも教会に居る物以外はお二人に近い考えなのかもしれませんな・・・。ですが、教会に居る物はそうではありません。その身も心も教会に捧げております」

「ですが、その“教会”の中で争いがあるのはおかしくないですか? それは司教の責任じゃないんでしょうか? 神の教えが教会内で争えなんて、そんな馬鹿な話はないですよ。結局は二人が・・・、いや教皇や司教達が話をしないから、死者が出た。そして、みんなそのことに反省をしない。教会の人達が尽くすのは神の教えであって、司教に尽くすものでないでしょう?」

「・・・」


 オズボーンは怒るでもなく、眉間にしわを寄せて考え込んだ。代わりにフィリップがタケルとアキラさんを見て話し始めた。


「確かに、今回の件は私達の話し合いが無かったから起こったのかもしれません。ですが、皇都を除き4州に分けて司教を置いているのはそれぞれが独立して、切磋琢磨することを教会として望んでおるのです。それに・・・、今回の我らの件は教皇様や他の司教と相談できる内容では無かった・・・、仮に事前に相談していれば我らの取り組みは中止させられていたかもしれません。いずれにせよ、相談できる内容や状況では無かったと思っています」

「うむ、私もフィリップ司教が相談しなかったのは理解できる。逆の立場なら私もそうしたであろう。だが、タケル殿やアキラ殿が言う事も・・・、アシーネ様の教えを伝えるべき教会がその中で争いを起こすのはおかしい・・・、果たしてどうするべきであったのか・・・」


 オズボーンは反省や後悔ではないが、客観的に今回の件を振り返っているようだ。


「皆さんは普段からもっと話し合いをするべきなのです」

「話し合い? 何を話せと言うのですかな?」


「それは・・・」


 タケルはコミュニケーション能力の低い司教達に対話の重要性を説明することにした。


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