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181.司教達

■西方州都ムーア 西方大教会 

 〜第17次派遣二日目〜


「一緒にと言うと転移の魔法を使われるのでしょうな?」

「ええ、ご存知のように時間は掛かりません。一旦バーンの外に行くことになりますが、歩いて数分でフィリップさんのいる教会には着くはずですよ。今日はお時間がありませんか?」

「いえ・・・、判りました。ご一緒しましょう。ギレンも同行させます」


 オズボーンはいきなり連れて行くと言うタケルに懸念を抱いたが、新しい転移魔法に対する興味がそれを上回った。机の上の呼び鈴で教会士を呼んで、出て行ったギレンをもう一度呼び戻すように指示をしている。


「そのぉ・・・、その転移魔法は何処にでも行くことが出来るのでしょうか?」

「何処にでもというか・・・、一度行ったことのある所にはもう一度行くことが出来るようになります。ですからバーンまでは一度馬車で行く必要がありました」

「馬車で? ならば、やはり州境を通られたのですか? どうやって?」

「話し合いですね。枢機卿が発行してくれた証明書も持っていましたし、勇者と証明するために魔法の実演をしましたよ」

「魔法の実演? どのような魔法ですか?」


 オズボーンはタケルが自分の知らないところで、どれだけの魔法を使えるようになったのかも気になっていた。


「その時は雷の魔法を使いました。おそらく、皆さんがまだ見た事の無い魔法のはずです」

「か、雷!? それは一体どんな?それに・・・誰に教えてもらったのですか?」

「リーブス司教に考え方を教えてもらいました。後は自習ですね」

「皇都のリーブス司教ですか? いつのまに、リーブス司教と親しくなられたのですか?」

「親しく? 親しい訳ではありませんけど、どの司教も皆さん親切ですよ。北の司教にはロッドの使い方を、東の司教には魔法石の使い方を教えてもらいました。フィリップ司教には土魔法を教えてもらうために伺って、その時に色々とお話をしてきました」

「・・・なんと、そんな事になっていたとは・・・、ずっとスタートスで修練をされていたのだとばかり・・・」


 タケルは理解していなかったが、この国の司教と言うのはそんなに気安く会いに行ける存在では無かった。それをこの国に来て4カ月ほどの間にすべての司教と枢機卿にタケルが会っていると言うのだから、オズボーンが驚いたのも無理は無かった。


「司教にはサイオンさんと枢機卿が紹介状を書いてくれましたからね。皆さん、気軽に会ってくれましたし、色々なことを教えてくれましたよ」


 タケルは話していて、自分達が居るこの西方州のオズボーンと一番距離を置いていたことに気が付いた。オズボーンはタケル達を取り込もうとはしたが、何も教えてくれなかった。もっとも火の魔法を習う必要性をタケルが感じなかったからなのだが。


 ギレン副司教が部屋に戻って来たので、話は其処までにして一階にある転移の間に4人で移動した。薄暗い部屋に聖教石の光がぼんやりと満たしている。


「猊下、本当に転移の間以外の場所に転移をすることが出来るのでしょうか?」

「ギレンよ、やっていただけばすぐにわかる事だ」


 ギレンは今から南方州に行くと司教に言われて、何度も同じことをタケルとオズボーンに確認していた。自分の体がどこかへ消えてしまわないか心配しているのだろう。


「では、行きましょう。お二人とも私の傍に来てください」


 聖教石の柱が円形に並んでいる中心に立っていることを確認してから、タケルはポケットの中の光聖教石を手に持って、いつも通り神への祈りを捧げた。


「ジャンプ」


 シンプルな掛け声とともに周りの景色が一瞬で変わり、薄暗い転移の間からバーンの町はずれに作った転移ポイントの中に4人で立っている。


「こ、これは!? 本当に転移した!」

「うむ、あそこがバーンの町か・・・」


 オズボーンとギレンは驚きながらあたりの景色を見まわしている。


「じゃあ、教会に行きましょう。約束はしていませんが、教会に居ればフィリップさんも会ってくれるでしょう」


 タケルを先頭に町まで歩いて南方大教会の前にたどり着くと、既に顔なじみの武術士がタケル達を呼び止めた。


「今日も来たのか? 司教様に会いたいのだな・・・、だが、その後ろの二人は?」


 明らかに教会の高位の人間が着るローブを纏ったオズボーン達が気になったようだ。


「こちらのお二人もフィリップ司教のお知合いですよ。オズボーンさんとギレンさんです」

「オズボーン・・・、南方州の炎の大司教か!? どうやってここに!?」

「その話はフィリップ司教に説明しますから、まずは取次ぎをお願いします」

「わ、わかった。だが、そこを絶対に動くなよ。良いな!」


 武術士は他の仲間にタケル達を見張るように指示をして教会の中に消えて行った。


「猊下、失礼な奴らですね。猊下をこんなところで待たせるなどとは・・・」

「ギレンよ、今回の騒動を経て、斬りかかって来なかっただけでも良かったと思うのだ」

「き、斬りかかる!? まさか、私たちに向かってそのようなことは・・・」

「無いとはいえんだろう。既に大勢の教会武術士が命を失っているのだからな」


 タケルは横で聞いていて、オズボーンの言う通りだと思っていた。一種の戦争状態なわけだから、突然敵の大将が来たら・・・、争いがここで起こってもおかしくなかった。もっとも、そうならないようにタケルとアキラさんがついて来ているのだが・・・。


 そう長く待たないうちに、中に入った武術士は戻って来て2階の応接コーナーに連れて行ってくれた。中には既にフィリップ司教が待っていて、オズボーンとギレンを見て感心したような表情を浮かべている。


「本当に、オズボーン司教だったのですな・・・、この勇者の事ですから、何をしても驚かないつもりでしたが、まさか司教を連れてここに来るとは・・・」

「フィリップ司教、ご無沙汰ですな。色々と聞きたいことが会って、人を派遣していたのですが、州境を通ることが出来なかったので、タケル殿の勧めで直接来ることにしました」

「なるほど、タケル殿の勧め・・・ですか」


 二人の司教はタケルを見てから小さくうなずいて目を合わせた。


「こちらの転移の間は閉じていますが、まさか司教が馬車で来られたわけでもありませんでしょうから、タケル殿の新しい魔法なのですな」

「ええ、私も驚きました。転移の間以外で転移できるとは・・・、教皇やサイオン殿でも実現できなかったと言うのに」


 二人は苦笑しながらフィリップが案内したソファーに向かい合って座った。タケルは二人を横から見る場所にアキラさんと並んで座って、二人の会話がどうなるのかを黙って聞いていた。


「フィリップ司教、お伺いしたかったのはもちろん州境の件です。魔竜の復活が近いこの時期になぜ州境をいきなり閉ざされたのでしょうか?」

「それは・・・、タケル殿からは何も聞いていないのですな?」


「私からは何も説明していません。直接お話しを聞いてもらった方が誤解も無くて良いと思ったので」

「そうですか、ならば・・・、われらは教皇の神託による勇者を外の世界から招くと言うやり方では、魔竜を倒すことは出来ないと判断しました。何組かの勇者がこのバーンにも来ましたが、物見遊山に来て帰って行くだけの者たちです。オズボーン司教が言った通り、魔竜の復活が近いこの時期に、そのような勇者を頼りにするわけにはまいりません。ですから、われらはこの国の勇者をもう一度蘇らせようとしているのです」

「勇者を蘇らせる!? そのようなことが出来るのですか!? ですが・・・、その前にそれと州境の封鎖は何の関係があるのですか?」


「私達の考えは教皇の神託とは違う事になります。ですから、勇者復活の計画が外に漏れないようにするために、州境を封鎖して研究をつづけることにしたのです」

「なるほど・・・、それで事前に皇都や私達に連絡をしなかった・・・、そういう事ですか・・・。ですが、先ほども言った通り、勇者の復活? そのようなことが出来るのでしょうか?」

「ええ、私とビジョンは出来ると信じ、その準備を進めているのです」


 フィリップの言っていることはオズボーンの理解の埒外だったが、フィリップ達が真剣にそれに取り組もうとしていることは分った。


 -勇者復活が仮に実現できるとして、一体どうやって?


「具体的にはどうやって蘇らせるのでしょうか?」

「それは・・・、新しい神の力を貸していただきます」

「新しい神!? 一体何を言っておられるのですか? 正気を失っておられるのでは!?」

「ギレン、落ち着くのだ。新しい神・・・、神の始まりがあってもおかしくは無いのだ」


 興奮して突然割り込んできたギレンをたしなめて、オズボーンは考え込む仕草をしている。


 -新しい神か・・・、仮に居るとしてフィリップ達がその力を手に入れるのは・・・


「その新しい神による勇者の復活は間違いなくできるのですか? できるならばいつ?」

「それはまだ何とも言えません・・・、もう少し時間が掛かると思っていました」


 タケルはオズボーンにも死者を復活させるという考えについて聞いてみた。


「オズボーンさんは、どう思われるのですか? 死者を蘇らせると言うこと自体が神の教えに反するとは思われないのですか?」

「うむ・・・、確かにアシーネ様の教えではありませんな。ですが、新しい神? なのであれば、別の考えも・・・」

「異なる神であれば、異なる考えで良いと? そういう事でしょうか?」

「いえ、私はそれを是とするわけではありません。私はそのようなやり方は正しくないと思います。それに、教皇の神託にあったとおり、異なる世界から招いた勇者がここにいますからな」


 オズボーンはタケルとアキラさんに笑顔を向けた。どうも、今までとはオズボーンの態度も違って来ているような気がする。


「だったら、やはり死者を蘇らせるようなことはやめた方が良いのではないでしょうか?」

「ふむ、確かに私はそう思いますが、フィリップ司教には司教なりのご判断があるのでしょう・・・、むしろ、なぜタケル殿が州境を通れたのかが気になりますな」

「その件ですが・・・、州境の警備責任者もタケル殿を真の勇者と認めたからです」

「なるほど・・・、州境封鎖の目的自体が揺らいだと言う事ですか」


「その件で、司教のお二人には聞いておきたいことがあります。今回の州境での争いで多くの人の命が失われたことについて、お二人はどういう風にお考えなのでしょうか?」


 タケルはオズボーンをここに連れてきた核心となる質問をした。二人は色々なことを言っているが、人が死ぬと言う事についてどう考えているのか? はっきりとさせておく必要があると思っていた。

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