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178.勇者の役割

■皇都セントレア 

 〜第17次派遣一日目〜


 教皇との会談が終わって精神的にかなり疲れたタケルは仲間たちと教会前で合流して、獣人の村に行く前に昼食を取りながら今後の事を話し合うことにした。


「それで、教皇は何て言ってたんですか?」

「うん、それが・・・」


 タケルは教皇の立場では西方州と南方州の諍いや、南方州での死者を蘇らせる研究を辞めさせるつもりが無いと言われたことをコーヘイ達に話した。


「じゃあ、放置プレーって感じなんですね? 不思議ですね、内乱なんでしょ?この状態って?普通の国だったら、政府が動いて鎮圧するんじゃないんですか?」

「うん、俺もそう言ったんだけど・・・。どうやらその普通の国は俺達が居る世界の普通の国であって、このドリーミアでは通じないみたいなんだよね。マリンダは話を聞いてどう思ったの?」


 マリンダはタケルに聞かれて美しい顔を曇らせた。


「私にはわかりません。私たちは神の教えに従う・・・、すなわち教皇様の指示に従う事しか考えていませんから」

「じゃあ、司教と教皇の考えが違う西方州や南方州の教会の人たちは、どう考えているんだろう?」

「それは・・・、教皇様と直接お話しが出来るのは司教様達だけですから、司教様と教皇様の考えが違うと言う事は無いと思っているはずです」


「悪い言い方をすると司教に騙されているってことになるのかな? でも、南方州の副司教は教皇と司教の考えが違う事を理解していたからな・・・、全員って訳でもないんだよな・・・」

「教皇様は神の代弁者です。その教皇様の考えを否定すると言う事は神を否定すると言う事・・・、そんな恐ろしいことを!?」


 マリンダは驚いて目を見開いた。


「いや、どうもそうじゃ無いようだ。教皇が神の言葉を正しく聞けていないと思っているんじゃないかな?だから、自分で神の声を聞こうとして、新しい神と話が出来た・・・、そういう事のようだよ」

「新しい神? ですか? そのような・・・恐ろしい・・・」


 マリンダの反応が普通のような気がした。この世界ではアシーネ様の存在は絶対だ。教会を信じていない人達がいるとしても、神を信じない人は居ないのだから。その世界で新しい神と話をすると言うのは恐ろしいのだろう。


「ほんで、タケルはどうするつもりなんですか?」

「うん、みんなの意見を聞こうと思ってね。この国の内乱や死んだ勇者を蘇らせる話は魔竜討伐とは直接的には関係が無いから放っておくことも出来る。俺達の仕事じゃないってね・・・、だけど俺は今回の騒動も魔竜復活に関係しているような気がするんだよ。だから、どっちも止めさせたいんだけど、その方法をどうするかが判らないし、止めようとすると西方州や南方州と俺達も対立することになる・・・、マリンダ、既にその争いで死者が沢山出たらしいよ」

「死んだ人が居るのですか!? どうして、どうしてそんなことに!?」


 マリンダは驚き目に涙をためている。タケルにもそれが不思議だった。なぜ、州境を閉じたぐらいで殺し合いになる必要があるのか?


「うん、残念だけどね・・・、だから、俺はまずはオズボーンさんの所に話に行こうと思うんだ。今日は獣人の村に行くから、明日の午前中に行って無謀な争いを止めてもらうように頼んでみるつもり」

「しかし、命がけで戦ってる人達に何て言うんですか? 俺たちの言う事なんか聞かないでしょう?」

「コーヘイの言う通りかもしれないけどね、教皇と話してて思ったんだけど、教会の人ってコミュニケーションが足りないんじゃないかな? もっと普段からいろんな話をして、国のあり方を相談する仕組みがあれば良いと思うんだけどね。どうも、そういう話し合いがなくって、『これは神の神託です』って教皇から一方通行で指示が言ってるみたいなんだよ。だから、俺が両方の話をいったん聞いて、何とかいい方向に解決できないかなぁ・・・ってね」


 タケルはそんなに簡単な話で無いことは理解していたが、自分がやれることはやっておくつもりだった。


■西方州都 ムーア 大教会司教執務室


 前回よりも酷い結果に終わった南方州への遠征について、副司教のギレンは脂汗を流しながら司教のオズボーンに報告をしていた。司教はギレンの方を見ずに窓の外の景色を見ながら報告を聞いていた。


「やはり、ブラックモア達の技量では南方州の武術士を抜くことは出来ませんでした。伏兵を倒したところまでは良かったのでしょうが、相手に凄腕の剣士が一人おりまして、結局はブラックモアを含めて14名の者が命を落としました。それ以外でも腕が使えなくなった者が2名おります」

「・・・」


 オズボーンは14名もの教会武術士の命が失われたことに衝撃を受けていたが、一方でそこまでして相手が守ろうとする秘密について、更に興味を深めることになった。


「猊下? いかがされましたか? 南方州の件はあきらめると言う事でよろしいでしょうか?」

「あきらめる・・・か? それは無い。むしろ、なんとしても奴らがやっていることを突き止めねばならん」

「ですが、もはや動かせる武術士はほとんど残っておりません」


「金で雇える者を探せ、それとスタートスにいる勇者を使うのだ」

「金で雇えるものでは、州境を抜くのは難しいと存じます。それに勇者は我らの頼み事をことごとくはねつけております」


 ギレンは酒や食料、そして若い女教会士を送り込んだにもかかわらず、結局ムーアに移って来なかったタケル達を苦々しく思っていた。


「雇うのは戦えるものでなくて良いのだ。情報を集めて来ることができるものを街道以外から送り込め、そして奴らの企みを必ず突き止めるのだ。そうだな・・・、情報を持ち帰った者には金貨5枚(約5000万円)を払ってやれ」

「金貨5枚ですか!? そのような大金をよろしいのですか!?」

「構わぬ。金で買えるなら安いものだ。それと勇者の方だが、南方州に魔竜の情報があると言いくるめてしまえ。あの者たちは魔竜討伐の準備は熱心にやっておると言う事だから、情報があると聞けば動き出すだろう。必要なら勇者たちにも資金を渡してやれ。それでも動かぬようなら可愛がっていると言う教会士を呼び戻して、教会から追放すると脅すのだ」

「なるほど・・・、かしこまりました。さっそく手配いたします」


 オズボーンはギレンが出て行った後も外の景色を眺めながら考えていた。


 -教皇にも今回の件は耳に入っているはずだが、何も言ってこない。

 -宗教の封鎖も放置したままだが、あの女は神託以外で動くことは無いからか・・・

 -ならばいっそ、この西方州をわしのものに・・・

 -まずは、南方州の情報を集めてからか・・・


 オズボーンは南方州と同じように西方州も中央から切り離して、自分の統治下に置くことを考え始めていた。

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