174.派遣勇者とは?
■ファミリーセブン 札幌駅前店倉庫
〜第16時派遣帰還〜
帰還した後にダイスケは西條と10分ぐらい話をしてから先に帰った。タケルはダイスケを見送っていつもの打ち合わせスペースで待っている西條の所に戻った。
「西條さんと話してもダイスケの考えは変わりませんでしたか?」
「うん、もう少し一緒にやって欲しいと言ってみたけどね・・・」
「そうですか・・・、仕方ないと言えば仕方ないんですけどね。コーヘイを合流させたことが影響したんでしょうね」
「それもそうだけど、タケル君を見ていると自分がふがいないって言っていたけどね」
「ふがいない? どういう意味でしょうか?」
「私が言うのも変だけど、みんなにはアルバイトの時給の範囲で頑張ってもらっているでしょ。でもダイスケ君はタケル君がドリーミアの人のために色々と考えてやっていることは、バイトの範疇を完全に超えていると言っていたよ。尊敬するけど、自分は同じようにやるのは無理だってさ」
「ついて行けないってことでしょうかね?」
「悪い意味では無くて、そうなんじゃないかな・・・、バイトでそこまで取り組むのは難しいっていう事だろうね。彼はこの世界では学生が本分だからねぇ。タケル君ほどこの派遣勇者に真剣に取り組むのは難しいんだろう」
西條にそう言われると返す言葉も無かった。バイト、フリーター、時給・・・、世界を滅ぼすと言う魔竜を倒すのに、そもそもがおかしな話だったのだ。だが、タケル自身は向こうの世界に行ってからは、バイトと言う感覚がどんどん無くなっていた。
-自分達が魔竜を倒して、この世界を救う。
そんな風に考えて真剣に魔竜討伐に取り組んできたし、ドリーミアの人々の幸せを考えて行動してきたつもりだった。もちろん、マリンダを含めて向こうの人との温かい交流があったからなのだが・・・。
-だが、アルバイトとして考えれば?
やはり、難しいのかもしれない。こっちの時間で行けば時給は悪くないが、精神的には8倍の時間を拘束されているわけだから、コスパが良い訳でもない。時給以外の意義を見出せなければ、派遣勇者は成立しないのだろう。
-ダイスケ以外はどうなのだろう?
アキラさんとは二人で飲みながら何度も話をした。二人の中では、お金では無く自分の存在意義が認められているドリーミアで、みんなの役に立ちたいという答えが出ている。だが、コーヘイやマユミ、ナカジーは・・・。
「最初から判っていたことですけどね・・・、勇者を派遣って無理がありますよね」
「うん、だけど、強制的に連れて行っても頑張らないでしょう?」
「ええ、無理矢理連れて行かれて、頑張る人は居ないでしょうね」
「それに高額の報酬を積んだとしても、お金で動く人は信用できないからね。教皇と私がこの仕組みにしたのは、お金で動くのではなくドリーミアの事を考えてくれる勇者が必要だったからなんだ」
-お金でなく・・・か、確かに、いつの間にかお金の事なんか忘れていた。
「ええ、私もお金の事なんか、今となっては意識していないですね。魔竜の事もそうですけど、ドリーミアが良くなることが今の私の望みですし、神が力を貸してくれるのも私がそう考えているからだと信じています」
「うん、それは判っている。何組も送り込んだけど、ドリーミアの事を真剣に考えてくれたのは結局タケル君たちだけだったんだよ。そして、ダイスケ君もタケル君と同じようにやりたいんだけど、使える時間に差があるってことじゃないかな?」
-フリーターと学生の違いという事なのかもしれないな・・・
「そうですね、それぞれこっちの生活があるわけですから、無理強いはできないですね。一応、1週間考えて欲しいと伝えたので、それまでは待ってもらって良いですか?」
「うん、追加の募集も並行してかけるけど、人が見つかればコーヘイ君のチームに入ってもらうことにしようか」
「わかりました。それで、南方大教会のビジョン副司教の件ですが・・・」
タケルはビジョンが新たな神を見つけて、死んだ勇者を再生(?)しようとしていることを西條に説明した。
「新しい神か・・・、以前にも話したけど、何事にも始まりがあるからね。我々が知らない神が居てもおかしくないけど・・・、死者を再生する? 魂を活かす? いずれにせよ、僕の知っているドリーミアでは存在しない考え方だな。むしろ、こっちの世界のオカルトとかであるんじゃないの?」
「俺もそう思って、フィリップ司教には伝えました。それは神では無く悪魔に近いんじゃないですか? って・・・、でも、向こうには神と対立する悪魔っていない・・・そうか!魔竜か!?」
タケルは自分で話していて気が付いた、魔竜が神やドリーミアに敵対する存在であれば、あの世界の悪魔は魔竜と言う事になる。そして、人外の手法で死者を蘇らせるのは・・・。
「ひょっとして、その新しい神こそが魔竜なんじゃないんですか?あるいは、その神の使いが魔竜とか!?」
「うん・・・、そればっかりは何とも言えないね。その時が来れば判るとしか聖教典には記されていないし、300年おきに復活する魔竜と言うものは同じ形で復活しているわけでは無いらしいからね」
「聖教典に魔竜の事が詳しく記されていないのには何か理由があるのでしょうか?」
「それは僕も聞かされていない。教皇ならあるいは・・・」
やはり、ビジョンの事と魔竜の事を教皇に相談するべきだろう。ダイスケとナカジーの事も気がかりだが、タケルにとってはそれよりもはるかに大きな問題だった。