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171.土の研究所

 ■南方州都 バーンの東 荒れ地

 ~第16次派遣3日目〜


 リーシャの凄腕を確認してからも荒れ地には大きな虎魔獣が何頭も現れた。だが、あまり戦ってばかりだと本来の目的が達成できないので、全て無視して上空を通過していった。虎系の魔獣は黒虎以外にもライオンのような毛色をしたものや、もう少しスリムな体形でいかにも足が速そうなものも見つけた。


 -足の速いタイプか・・・、一発目をかわされるとまずいな・・・


 これまでのタケル達の戦いは洞窟や森の中ばかりだったから、見晴らしの良いところに居る足の速い魔獣の討伐経験が少なかった。狭い場所や動きが遅い相手なら炎で足止めして、とどめを刺せたので安全に倒すことができたが、さっきのコーヘイのように初撃をかわされると非常に危険な状態になってしまう。


 -土の魔法や風の魔法で魔獣を誘導できる方法は無いだろうか?


 下から見上げている虎魔獣たちを眺めながら、タケルは次の戦い方を考え続けていた。エアカーゴは何の操作をしなくても、タケルの思った通りに飛んでくれている。途中でトイレ休憩を4回入れて、朝から8時間ほど飛び続けて日が傾き始めたころに、ようやく目当ての研究所が見えたようだ。


「あそこに何か変なものがあるな」


 今回も第一発見者はリーシャだった。タケルには遠く見える山とその手前に続く荒野しか見えなかったが、リーシャの指し示す方向にエアカーゴを向けると、地面に馬車の轍があるのが判った。


 そこから更に10分ほど飛んで、ようやくタケルにもリーシャが見つけてくれたものが判った。一言で言うと、ドーム球場のような薄いお椀をひっくり返したような構造物がある。色は土色で荒れ地の地面と同じだから、遠くからでは見分けがつきにくかった。


「かなり大きいですね」

「そうだな・・・、あんなに大きいとは俺も思わなかった。だけど、あれも土魔法で作ったんじゃないかな?」


 タケルは形がドーム球場のようだと思っていたが、近づくと大きさもそれに近いものがある。


「あんなに大きい物が作れるんですか!?」

「うーん、俺はまだやっていないけど、時間を掛ければできるような気がするな・・・、なんていうのかな、イメージは砂場でお城を作るみたいな感じだと思う」

「いやいや! あんなデカい砂場は無いでしょう!?」


 ダイスケが呆れているが、タケルが魔法を使った手応えとしては、大きさはあまり関係ないような気がしていた。要するに出来上がりのイメージがしっかり出来ていれば、その通りに完成するような気がするのだ。


「こっち側には入り口が無いみたいですね」


 100メートルぐらいまで近寄って、エアカーゴの速度を落としたが、コーヘイが言うように入り口がどこにあるか判らなかった。タケルは建物の周りをゆっくりと飛んで一周したが、何処にも入り口はおろか窓のような開口部も無かった。


「本当にこれですか?」

「どうかな・・・、だけどこんなものが自然にできるとは思えないしね。それと、あそこを見てくれよ」


 タケルは馬車の轍が土ドームの壁で途切れているのを指さした。


「あ! ほんまや。あそこから入れるんですかね? でも、扉みたいなんはみえませんけどね・・・、呪文でひらくんやろか? 開けゴマ! とか!? そんな訳ないか・・」


 マユミは冗談で言っていたが、タケルはまさにその通りだと思っていた。


「いや、その通りだよ。呪文じゃないけど、魔法で開くんだろう。このドームを作ったのが魔法なら出入り口も魔法で作れるんだろうな。逆に言うと、土魔法が使えない人間はこの中に勝手に入ることは出来ないってことだな」

「どうするんですか? タケルさんの魔法で勝手に開けますか?」

「そうだな・・・」


 魔法で開けることはできる気がしたが、勝手に入ると歓迎されない可能性が高い。揉めるようなことになると・・・。


「今日はスタートスにいったん帰ろうか。近くに転移ポイントを作って、明日の朝にもう一度来ることにしよう」

「短時間では終わらないってことですね」


 それはタケルにも判らなかったが、日が暮れてからトラブルよりは明るい時間帯の方が何となく良いような気がしていた、それに万一捕らえられても、明日は最終日だから強制的に転移で現世に戻れるはずだった。


 -ここに入る前に、みんなと話し合っておく必要もあるしな・・・


 ■スタートス聖教会食堂


 食事の前に女性陣、男性陣に分かれて入浴した。リーシャはマユミによれば、温かい水浴びだと言って気持ちよさそうに湯船に浮かんでいたそうだ。美人エルフにも気に入ってもらえたなら、ダイスケ達の努力も報われたと言うものだ。


 食堂ではミレーヌが用意してくれたご馳走を堪能しながら、明日の話をタケルが切り出した。


「明日だけど、場合によっては向こうから俺達を襲ってくる可能性もあると思う」

「いきなり襲ってきますかね?」


 コーへイはある程度予想をしていたようだった。


「いや、それはさすがに無いと思うけど、勝手に扉と言うか壁を開けると喜ばないだろうからね」

「どうしますか? やられたらやり返して良いんですよね?」

「ああ、構わない。西條さんはやられる前にやれって言っていたよ。この世界は法治国家みたいな考えは無いからね、やられてからでは遅いってさ」

「先制攻撃ってことですか?」

「それも違うと思うけど・・・、身の危険を感じたら躊躇しなくて良いと思う。相手が襲い掛かるそぶりを見せれば、動いていいんじゃないかな?」

「わかりました。俺も別に人を斬りたいとかって訳じゃないんで。できれば、戦いは避けたいと思っています」

 タケルは頷いてコーヘイの考えに同意していることをみんなにも伝えた。


「それで・・・、そうは言ってもこの世界の人と戦うのは俺も嫌だし、怖いと思う。だから、もし明日一緒に行くのがいやだったら、ここに残ってもらっても良いよ。さっきの調子ならコーヘイは一緒に来てくれそうだけど、ダイスケとマユミは残るか?」


 あえてアキラさんの意向は聞かなかったが、一緒に来てもらえるとタケルは思っていたし、アキラさんも笑顔で焼酎を飲んでいるから認識は合っているようだ。


「あたしは行きますよ! リーダーが行くところについて行くのが仕事で、そのために此処に来てるんやからね」


 前向きなマユミはやる気満々だったが、ダイスケは考え込んでいた。


「どうした、ダイスケ? 無理はしなくていいよ、魔竜討伐とこれは別だからね」

「はい・・・、俺はパスします。人と戦うっていうのは無理です」

「そうか、良いよ。ここで剣の修練をしておいてくれるか?」

「はい・・・」


 ダイスケの不参加で何となく空気が重くなり、その日の夕食は盛り上がらないまま早めに終わった。


 ■南方州 土の研究所

 ~第16次派遣4日目〜


 翌日は朝食をとった後にダイスケを除く5人で土の研究所近くに転移して来た。エアカーゴはスタートスに置いたままにしてある。万一の事を考えて、装備品も最小限にした。この場所で強制的に現世に戻ると装備品が抜け殻のように放置されてしまうから、貴重なものが無くなってしまうかもしれない。それでも、戦いに備えて刀や槍の武器は持って来ざるを得なかった。


 土ドームの研究所は昨日と少し変わっていた。上の方に開口部があるのか、白い煙が立ち上っている。だが、見える範囲に入れる入り口は見つからなかったので、馬車の轍の跡があると所まで行って、タケルが魔法を使ってみることにした。


 聖教石を使わずに右手の平を土壁に押し当てて祈りを捧げる。


 -ガイン様、力をお貸しください。


 目の前の壁が地面に吸い込まれるように消えて行き、タケルがイメージした四角いドアのような穴が壁に開いた。


「おー、こんな感じなんですか!」

「すごぉー! なんでそんな風になるんやろ!?」


 近くで見るのが初めてのコーヘイとマユミが驚いて声を上げた。


「うん、今は目の前に四角い通路を作るイメージで神様にお願いしただけ、土を動かそうと言うよりは結果だけを伝える感じかな」

「へーぇ、でもそれって、タケルさんだけですよ。たぶん」

「どうかな? コーヘイも時間があるときに練習してみればいいよ。それよりも…、中に入ってみようか」


 通り抜けた土壁は厚さが1メートル近くあった。建物というか、このドーム全体では凄い量の土を動かさないとこれだけの物は出来なかっただろう。


 中に入ると昨日は天井があったはずの部分には何もなく空が見えている。


「開閉式のドーム球場みたいですね」

「そうだな、今日は上から見てないから気が付かなったな。昨日はたまたま、屋根を閉じていたのかもしれないね」


 壁に囲まれた広い空間には大きな砂山がいくつかあるのと、大小の四角い岩が転がっている。中央付近にこれも土でできている大きな建物があり、外から見た煙は其処から立ち上っていた。


 建物に向かって歩き出すと、扉の無い出入り口から男が出てきてタケルと目が合った。


「おい! お前達は何者だ! どうやって入って来た!?」

「私たちはスタートスから来た勇者です。フイリップ司教の紹介状をいただいて、副司教のビジョンさんに会いに来ました」


「勇者? 司教の紹介状だと? そんなはずがあるわけない! さては、セントレアからの回し者だな・・・、今すぐ出て行け! さもなくば・・・」


 男はタケルの話を聞こうともせずに、一方的に言い放つといきなり地面に手をついた。


 -何か魔法を使うつもりだ!


 タケルがそう思った瞬間に足の裏から地面が揺れる振動が伝わって来た。

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