旅の行末
日本。魔族対策課。通称魔策の北海道支部。
「どうだ。エル。身体の具合は。」
声をかけたのはレノ班長だった。あの戦闘の後、やけにエルの心配をしてくる。
「はい。もうすっかり。逆に前よりも体が軽いと言うか。」
捕食者については他言無用。これがケーナとの約束だ。何故かはエル自身もよくは分かっていなかった。
「そうか、それは何よりだ。それより、エル。これからの事なんだが。この班は、北海道支部に派遣される為に出来た即席の班だ。任務は終わったし、本部に帰れば、解散となる訳だが、エルはそれからはどうするんだ。」
エルは、あくまで魔策の単独部隊所属の基本は単独で行動し、魔族の探索を主にする隊だった。本部に帰れば、また、その隊に戻ることになる。
エルには、前々から考えていたことがあった。
「班長。俺は、魔策を脱隊しようと思います。地元に帰ろうかと。」
エルの考えとは、魔策から抜けて、世界を回り、自分と同じ境遇の捕食者たちと出会い、自分は何者で捕食者とは何者なのかを調べるものだった。そのためには、魔策にこのまま居ると、何かしらと動き辛いのだ。
「そうか。それはエル。お前自身で決めたことなのなら、俺は止めたりもしないよ。困ったことがあればいつでも連絡しろ。俺もアインだって力になるからな。」
班長とは、一月程度の関係だったが、身内の居なかったエルにとっては、父親の様な存在になっていたのかも知れない。エルの目にはほんの少し、涙が溜まっていた。
その夜。本部に戻る前の日。北海道支部の人たちと軽く食事をした後、自分の部屋に戻り、明日の準備をしていたエル。本部に戻ったら、すぐにでも脱隊の手続きを済ませよう。最初はどこから行けばいいかな。そのような事を考えていたエル。不安も大きいが、それとは比較にならないくらいに楽しさや好奇心が大いにあった。
「なぁ、ケーナ。今って大丈夫か?」
普段からエルのそばに居るケーナだったがこの時だけは、返答がなかった。
「んん。おかしいな。ケーナ。。。ケーナ。」
エルは、三度ほど部屋の中でケーナと叫んだ。
「んーー。どうしたんだい。エル。騒がしいな。敵襲かい。」
良かった。やっと返答が返ってきた。
「いや、ごめん。何度呼んでも返答がなかったからケーナの方の世界で何かあったのかと。」
ケーナはこちらの世界とは背面にある異世界だ。ケーナ以外の人を見たことはないが、他にも一応、ケーナのような人間はいるのだとか。
「うん。大丈夫だよ。エルは心配症だね。私がいないとダメなのかい。ただ、少し寝ていただけだよ。」
なんだ。寝ていただけか。考えてみれば、ケーナも人間。睡眠くらいとるよな。
「ケーナ。寝起きのところ申し訳ないんだけど、少しだけ話しをいいか?」
ケーナは昼の会話は聞いていたようだ。察しもいい。
「あぁ、いいよ。どうせ、昼のレノ班長との話のことだろ。」
わかっていることなら話が早い。しかし、昼間はあんな事を言ったが、計画などは全く立てていなかったエル。
「ケーナ。俺は、これからどうすればいいんだ。魔策を脱隊して旅に出るって豪語したけど、ほとんど何も考えていなかったんだ。」
ケーナは、エルの話を聞くと、深くため息をついた。
「そうだね。まず、君の考えには賛成だ。今のまま、魔策に居ても君の捕食者としても力も開花は難しい。ところで君は、魔族との対戦が終えた後の世界を見たことがあるのかい。」
エルは、今のケーナの話に一つ不思議に思うことがあった。
「なぁ、ケーナ。あのさ、捕食者の力の開花ってなんだ。あの、強靭な身体能力じゃないのか?」
「あれは、あくまでもただ、身体能力が上がっただけ。捕食者としても能力はまだ出ていない。とりあえず、他の捕食者を探してみれば良いんじゃないか。」
自分以外の捕食者か。確かに。何も目的がないのも困るな。確か、捕食者は全部で十人。エルを除けば九人か。
「そういえば、ケーナ。初めて、会ったときに言ってたよな。旅に出ろって。」
ケーナは、その事を全く覚えていなかった。最初に出会ったときのケーナは、エルと同じ顔、体型をしていた。そして、色々あって、今のケーナの容姿になった。記憶も一緒に変わったのか?エルは、そんな事を考えていた。話せば話すほどにケーナへの謎が深くなっていった。しかし、ケーナは自分に関してはほとんど話さない。それが契約だからって。
エルは、入院中に一度だけ、その契約についてケーナに聞いたことがあった。しかし、ケーナにその話をすると身体が芯から凍りつくような冷たい殺意をした眼にエルは、何一つ聞けなくなった。




