エル・ブランコ 3
人鬼の再生能力は高い。腹をただ開かれたくらいなら物の数秒で治癒してします。これも呪詛の力だ。
人鬼はエルの違和感を察知し、一歩後ろに下がる。
「なんだ。お前。さっきの人間じゃない。」
班長とアインも目の前の状況に理解が間に合わず、空いた口が塞がらない。
「エル...エルなの?」アインが泣きっ面で聞いてくる。
「ん。うん。ちょっとアイツの腹の中で色々あって、出て来れたんだ。」
あの出来事を話すのは、この人鬼を倒してからだな。初回だし、いろいろ試させてもらおう。
「さぁ、人鬼。お前には、俺の腕試しに付き合ってもらう。すぐに死ねないが悪く思うなよ。」
エルが戦闘態勢になると、あたりの空気が少し重くなる感じがした。空気が薄く、呼吸がし辛い。
先ずは三割くらいの力で体内で呪詛が巡り廻る感じでイメージする。次第にエルの身体は熱くなり、血流が数倍の速度に跳ね上がった。
「熱い。熱いぞ。待たせたな。」エルの綺麗な白い肌はどこと無く赤みがかって見える。
エルは、人鬼に一直線に向かっていく。早過ぎて、見ていた二人からは一瞬で人鬼の前にエルが現れたように見えた。人鬼も身体の反射が間に合わず、後ろに一歩退き、エルに向かって、右腕で殴りかかる。
人鬼は自分の眼を疑った。エルには見事に避けられてしまった。しかし、人鬼が疑ったのは自分の振りかざした腕が目の前に落ちている事だった。
「何。俺の腕が...」
腕が斬られた事に動揺していた人鬼の背後にエルは回り込んでいた。
「ダメだ。呪詛の力をここで試そうと思っていたけど、お前。脆いからもう終わりだ。静かに地獄に落ちろ。」
「まっ」 人鬼の言葉を待たずしてエルは首を胴体から切り離した。
人鬼の巨体が積もった雪の上に赤い血を流して横たわった。
エルも戦闘前の様子に戻っていったがその場に急に倒れて意識を失った。
エル。起きろよ。お前。短期間でこっちに来すぎ。
頭上でケラケラと笑い声が聞こえた。まぶたが重たい中、目がゆっくりと開いた。
「おっ!やっと目を覚ましたか。どうた。呪詛の力を使った感想は?凄かったろ。」
そこにいたのは、もう一人の俺だった。どうやらまた自分の精神世界に入ってきてしまった様だ。
「あぁ、想像よりも凄かったよ。まだまだ制御には時間がかかるな。それよりどうして、俺はまたここに来ているんだ。」
「あぁ、それはお前。戦い終わりに気絶して、倒れたんだよ。今は、北海道本部の中だな。」
「そうか。じゃあ、そろそろ起きなきゃな。」
エルは立ち上がり、向こうの世界に戻ろうとした。
「ちょっと待て。何十年も一人だったんだ。ちょっとは話に付き合ってくれよ。」
まぁ、確かに聞きたいこともまだあるわけだし、別に急いでる訳ではないしな。「分かった。俺も聞きたいことがあるからな。少しここにいるよ。」
力は俺の姿から少しづつ変わり、綺麗な黒髪のメガネ女性に変わった。俺のどタイプ女性だ。
「どうだ。お前好みだろ?俺はお前の心が読めるからな。黒髪ロングでメガネかけた清楚系が好きなのは知ってるんだよ。」
は..恥ずかしい。力はその綺麗な顔でニヤニヤこっちを見てくる。
「あぁ!鬱陶しい!そんなことなら俺は向こうに戻るぞ。」無駄な時間だったな。
「ちょっと!俺が悪かったよ。俺に聞きたいことがあるんだろ。いいよ。答えてやるから行くなよ。」
ずるい。こんな可愛い女の人から行くなよ。なんて言われたらその場からずっと動けなくなってしまう。
「わ、分かったよ。でもとりあえず、お前の名前だな。力って呼ぶのも違和感あるし、せっかく女性の格好だからな。んー。。。ケーナ。ケーナなんてどうだ?」
「ケーナ。まぁ、昔の名前よりかマシか。いいよ。俺は今日からケーナだ。改めてよろしくな。エル。」
どことなく、ケーナは嬉しそうに見えた。俺も悪い気はしないな。
「あぁ、よろしく。ケーナ。」
二人は握手をした。