表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

エル・ブランコ

夕陽の向こう側から烏が此方へ飛んで来るのが見える。まだ、十六時くらいだと思うが今からここに夜がやって来る。不気味で寒気がして、月もなく、街灯もない。

 辺りは心臓の鼓動が聞こえて来るほどに静かだった。

 遥か彼方から全ての光を飲み込みながら夜がやって来た。夜というものは、そのままの意味の夜ではない。ある者たちがこちらの世界に降りて来るときに起こる現象の事だ。一体何が来るのかというと。


 大小様々な黒い翼を持ち、頭部の一部から角が生えており、恐怖と憎悪を与えてくるほどの力と魔力を持ち合わせていて、そして、人を喰う。。。悪魔だ。


「キャャァァア。助、け...て...」


一人。また一人と村の人達は、悪魔の餌食になって行く。明かりが届かないこの闇の中で只々、人間の悲鳴と悪魔の気持ちの悪い咀嚼音だけが聞こえてくる。

 俺は、今でもあの夜のことを毎日のように夢に見てしまう。その度に悪魔に対して、太陽のように大きな憎しみと熱い殺意が大きくなっていく。


 。。。あの、魔族の大侵攻から十年。。。


 

 魔族は度々こちらの世界に干渉しては街を破壊し、人を拐っていくようになった。そこで、世界の国々は自国の騎士団や傭兵部隊に魔族に対抗するべく、五年前に今まで人類の負の遺産として遺されていた“魔導„を許可し、世界に広めていった。昔は戦争や戦いの道具として使われ、共和同盟が出来たこの世界では不必要となっていた。それを世界共通の災悪に対抗するべく、解放した。

 そして、現在。日本。北海道。

「アァー。寒い!!寒すぎる。なに氷点下八度って。死んじゃうよ。」俺たちはいま、極寒の北海道の山奥に来ている。先週の事。この付近で魔族を見たという報告が上がったため、調査に来ていた。幸いな事に被害は無かったそうだ。

 しかし、身体の芯まで凍るような寒さに索敵魔法も集中して使えない。

「どうだ?アイン。索敵魔法に反応はあったか?」

 班長を含めて三人で調査に来ている。

「無茶言わないでくださいよ。レノ班長。寒すぎて魔法に集中してられませんて。」

彼女はアイン・トラべーン。索敵や干渉魔法を得意としているが集中力が無いのが難点。

「そこをどうにかするんだろう。アイン。お前以外にこの班で索敵の魔法を使える者はいないのだぞ。」

 この人が我らが班長。レノ・リーリルさんだ。火属性の超攻撃魔法を使う我らの部隊のエースだ。

 そして、最後に俺。エル・ブランコだ。基本的に人は魔法適性があり、得意とする魔法種があるのだが、俺にはそれが無い。魔法適性がなく、基本的な無属性の攻撃魔法くらいしか使えない。いわゆる落ちこぼれというやつだ。訓練所でもよくいじめられていた。まぁ、特出した才能があるわけじゃ無いとかよりもまず、才能が無かったのだから魔導士になれただけ良かったのかもしれない。

「エル。警戒しろ。何かいるぞ。」

レノ班長の目付きが一瞬にして変わった。

「は、はい!」俺は腰に添えていた短剣を抜き、戦闘態勢に入った。が現れたモノを見た瞬間に胸の鼓動は早くなり戦意は一瞬で吹っ飛んだ。

 魔族にはそれぞれ下級、中級、上級、超級、最級とある。上級からの魔族はその下の下級、中級とは比べものにならない位の魔力と強さがある。更に超級からになると個体別で特殊な魔術を使う者もいると言われている。

「な..なんで...なんでこんなところに上級魔族の人鬼が居るんだ!」人を大量に喰った鬼の果てが人鬼だ。鬼の岩をも砕くパワーと人の知恵が備わった鬼で言語が使える。喰った人の分だけ人間のような姿になっていく。

「魔力の高い人間見つけた。俺に喰われろ。また、強くなれる。」

そう言った途端に人鬼はレノ班長とアインを一瞬にして捉えた。早過ぎて全く見えなかった。

「やだ。やだ。やだー!!離して。助けて。助けて!!エル!死にたくない!!」アインは顔がグチャグチャになるくらいに泣き叫ぶ。が、この時の俺の頭には絶望と恐怖しかなかった。雪が降る音。風が過ぎる音さえ一切聞こえていなかった。

「エル。逃げなさい。俺たちはここまでだ。支部に戻って増援を連れてこの人鬼を祓え。」レノ班長。自分たちはもうダメだと悟り、エルに支部まで撤退を命じた。

「無理です。班長!俺は二人を見捨てられません!!今、助けますから!」無理なことは分かってる。自分で言っていることと心で思ってることが違うことくらい分かってる。でも、ここで逃げるのは絶対違う。もう、目の前で大事な人が殺されるのは見たくない。

俺の心は決まった。負けると分かっていても殺されると分かっていてもせめて、あの二人は助ける。剣を抜き、人鬼に向けた。

「お前は魔力が全くと言っていいほどないから喰わず見逃そうと思ってたのに、そんなに喰われたいならお前。最初に喰う。」

 人鬼はレノ班長とアインを離して、俺に向かってきた。

 さっきは見えなかった人鬼の動きがよく見えるようになった。攻撃が避けれる。動揺が解けたからか。覚悟が決まったからか。よく分からないがいつもの数倍良く身体が動く。

これならイケる。そう思っていたのに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ