魔王だと!? テメェの髪型はチョンマゲじゃ!
突然だが、我輩は魔王ジャスパー。
魔王としてこのパルテニアに君臨する国主の一人である。
魔王といっても、世界征服などという愚を企てるほどバカではない。
過去の魔王にはそのような輩もいたようだが、それはかれこれ数千年も前の事だ。
当時は分からなかったが、今となってはハッキリと病気だと言い切れる。
ちなみに病名は中二病というらしい。
「魔王様、こちらをご覧下さい」
玉座で寛いでいると、側近から1枚の報告書が差し出された。
「むん? 大平原を中心に各国が争っているだと?」
報告書に書かれた内容を見て、我輩は眉を潜めた。
暗黙の了解で不可侵となっている大平原に、周辺国が進軍してるというのだ。
「どういうことだ? 再び乱世が訪れたとでもいうのか?」
近年そのような兆しは無かったはずだがな。
それか密かに水面下で計画していた国があったのかもしれんが。
「どうも最初に動いたのが王国のようですな。次に獣王国、帝国と続き、最後にエルフという流れでございます」
それらを聞くと事の発端は王国のように見える。
しかし側近は気になる事を告げてきた。
「彼らの共通点は大平原の真ん中にある奇妙な建物にありまして、それを巡って争ってるのでは――と、推測されます」
「奇妙な建物とな?」
古代の遺跡か、はたまた何者かが裏で暗躍してるのか、いずれにせよ放置はできん。
大平原が我が国とも隣接している以上、降りかかる火の粉は振り払わねばなるまい。
「直ちに出陣する!」
★★★
自らが指揮をとり魔人兵1000名を引き連れ大平原へと赴く。
ほぼ中心まで来たところで、側近が前方の一点を指した。
「あちらで御座います」
「ふむ。確かに奇妙な建物だな」
どの国にも無さそうな建物が大平原の真ん中に建っていた。
それは一見ただの民家のようであり、古代遺跡と言うにはほど遠い。
「中の様子はどうなのだ?」
「残念ながら外からは窺えません。入口は1ヶ所のみで、周囲には別の建物は存在しません」
「ふむ……」
拠点としては少々規模が小さい。
かといって、それ以外に何があるのかと言われれば返答に困る。
――いや、ひょっとすると地下に広がってるのか?
だとすれば拠点としても利用できるか。
いずれにしろ、直接確認しないことには判断できんな。
「どれ、一つ我輩が見てきてやろう」
「ま、魔王様が……ですか? しかし……」
心配性な側近が言葉を濁す。
しかし仮に罠だとしても、魔王である我輩が命を落とすなど有り得ん。
「ま、もしもの時は鬼気迫る表情で退却を命じてやる。それがない限りは心配はいらん」
「……分かりました。どうかお気をつけて」
渋々納得した側近に見送られ、扉を開けて足を踏み入れた。
★★★
ガチャ……
「へぃらっしゃい!」
中に入ると、厳ついオッサンが奥から出てきた。
というか今らっしゃいと言ったか?
だとすると、ここは何らかの店ということになるのだが……。
「いつまで突っ立ってるんでぃ? さっさと座んな」
「お、おい……」
なんだかよく分からんが、近くの椅子に座らされた。
いったい何を始めようというのだ?
「さぁて、今日はチョンマゲっていう難易度の高いやつに挑戦してやらぁ」
「チョンマゲだと? なんだそれは?」
「おぅおぅ、チョンマゲを知らねぇだと? 上等だゴルァ! 今から見本を見せてやるから泣くんじゃねぇぞ!?」
チョンマゲとは見て涙するものらしい。
しかし魔王である我輩が、チャチなもので動揺したりはせぬ。
その挑戦――受けてたとう!
「ほらよ、これがチョンマゲに近いやつだ。ちょいと匂うが気にすんな」
厳ついオッサンの手に乗っていたのは海草を丸めたものであった。
当然そのようなものを見せられても涙を流すなど頼まれても無理だというもの。
チョンマゲとやらも恐れるに足らずのようだな。
「コイツぁ仕上げに使うだけだ。なんせチョンマゲの結い方をしらねぇからよ、ちょうどオカズに食ってた昆布巻きを使わせてもらおうってやつよ!」
「食うだと?」
このチョンマゲとやらは食べられると言うのか!?
「そんじゃあいくぜ!」
ヴィ~~~~~~ン!
ズガガガガガガガガ!
「ほぁっ!?」
コ、コヤツ、我輩の髪の毛を――内から外にかけて華麗なるカールを決めている我輩の髪の毛を消し去ってゆく!
しかもどういうことか身体を動かすことができんときた!
くぅぅ……まさか魔王である我輩があっさりと罠に掛かってしまうとは……
「そぉ~らスッキリしたぜぃ! 後はコイツを――」
カポ!
「ぬぉ?」
コイツ、先程の昆布巻きとやらを頭に!?
「キチンと瞬間接着剤で固定してやったぜ。感謝しな!」
「なんと!」
接着――というからにはくっついて離れないという事だろう。
まさか魔王たる我輩が、昆布巻きというヘンテコな物を頭に乗せる事になろうとは……。
なんという恐ろしくも厳ついオッサンよ。
★★★
「ありがとやっしたぁ!」
バタン!
厳ついオッサンによる罠が終わった瞬間椅子から立ち上がれるようになり、財布を巻き上げられ出口へと誘導される。
「ま、魔王様~! ご無事でし――」
駆けつけた側近が、我輩の頭を見て固まってしまった。
無理もない、あの建物に入る前と今とではまるで別人に見えるだろうからな。
「……魔王様、中で何があったか存じませんが、微妙に頭が臭いですぞ?」
「ウグッ!」
「しかもその頭髪、後ろ指を指される事間違いなしで御座います」
「ヌグッ!」
そ、側近め……我輩が気にしてた事をズバズバと……。
「もし他の国の者に目撃されては末代までの恥。――ささ、早く帰還致しましょう!」
側近の容赦のない言葉により、我輩は泣く泣く帰還することになった。
厳ついオッサンめ……なんと恐ろしい存在よ……。