エルフだと!? テメェの髪型はオカッパメガネじゃ!
「ふむふむ、あの強欲な帝国軍に不審な動きあり――ですか……」
わたくしは大森林に居を構えるエルフの女王――ステラスーン。
此度配下からもたらされた報によれば、暗黙の了解で不可侵となっている大平原に帝国軍が進軍したというのです。
ですがそうなると、わたくしを含め他の国々が黙ってはいません。
我も我もと挙って進軍を始めるでしょう。
しかし、驚くべきことに王国の勇者と獣王国のライオネルが既に動いていたというではないですか!
「ハッ……まさか!」
このゲス共は、わたくしの美貌を狙って結託したのでは!?
過去に遡れば、獣王が祖母に求婚したという例もあります。
恐らく連中は、帝国が中心となってわたくしを手込めにするつもりですね?
「なんてゲスな連中なのでしょう! わたくしの美貌が非常識に輝いているのは紛れもない事実ですが、それを理由に力ずくで落とそうなど許されるべき事ではありません!」
世界で一番美しいという事は世界で一番狙われると同義。
このステラスーンを捕らえて、あんな事やこんな事やそんな事までヤっちゃうつもりなのでしょう、考えただけでも鳥肌が立ちます。
聞けば大平原の中心には妙な建物ができたというじゃありませんか。
これが連中の活動拠点なのでしょう。
幸い帝国軍は撤退したらしいので、叩き潰すなら今しかありません。
「わたくし達も進軍します。皆の者――弓を手に取りなさい!」
このステラスーンを集団レ〇プしようと考えた愚か者共に鉄槌を!
★★★
「あれが報告に上がった建物ですね」
最初はもっと巨大な建造物を想像したのですが、意外と小さかったですね。
それとも少数精鋭が詰めているのでしょうか?
まぁ焦る必要はありません。
既にこの建物は我が軍が完全に包囲しています。
今は偵察を行っている配下からの報告を待ちましょう。
「ステラスーン様、周囲を調べましたが建物以外で不審なものは発見されませんでした」
「それは意外ですね……」
一応は罠の可能性も考慮していたのですが、建物周囲にはなにもない――となれば、この建物は完全に孤立していることになるのですが、もしかして連中はバカなのでしょうか?
「建物を外側から調べて参りました。入口らしき扉が1ヶ所のみで、他に何ヵ所か窓と思われるものも確認できましたが、中の様子は窺えませんでした」
入口は1ヶ所――ではその入口さえ封鎖してしまえば、中に居る連中は袋のネズミ。
連中がバカであるという信憑性が増してきました。
「ですがあのポールのようなものが妙な動きをしてまして、何らかのマジックアイテムの可能性も……」
配下が指したのは、白と赤と青の三色が交互に動いているポールでした。
ですがわたくしには分かります。
ソレからは魔力が感じられない――つまりマジックアイテムではないという事です。
そして連中のバカが確定した今、恐れるものは何もありません。
「弓隊構え! あの建物に向かって一斉射撃を――放てぇぇぇ!」
わたくしの合図で放たれた矢が、建物に降り注ぎます。
総数1000本の矢が建物を射抜くのです、これで建物は穴だらけに――
「ステラスーン様、すべて結界に弾かれてしまいました!」
「ホワッツ!?」
まさか結界を施しているとは!
これは少々甘く見すぎてたかもしれません。
が、何も難しくありません、弓がダメなら魔法で壊せばいいのです。
「全軍、魔法による破壊に切り替えなさい!」
わたくしの命令により一斉に詠唱を開始します。
詠唱が完了した時が、この建物の最後です!
「さぁ、放ちなさい!」
「「「ウィンドカッター!」」」
真空の刃が建物を切り刻み、跡形もなく崩れ落ち――
「ステラスーン様、すべて結界に弾かれてしまいました!」
「ホワッツ!?」
まさかのテイク2も失敗です。
こうなれば中に乗り込んで直接叩くとしましょう。
ひょっとすると、外側だけは頑丈で中は脆いかもしれませんし。
というか、そうでなくては困ります……。
★★★
ガチャ!
「へぃ、らっしゃい!」
このままじゃ女王としての示しがつかないと思い、わたくし自らが突入した結果、厳つい強面のオッサンと遭遇しました。
この拠点の責任者でしょうか?
「貴方がわたくしの美貌を力ずくで手に入れようと企む輩ですね?」
「かぁ~! そう言われるとその気持ちに応えたくなってくるが、そいつは遥か昔の話だ。俺も若い時にぁガタガタ言わずについて来いっつって、女を引っ張り回したもんよ」
杖を突きつけられてるにも関わらず、厳ついオッサンは昔話に花を咲かせます。
というか女性を引っ張り回すなど許せません!
やはりわたくしの推測は間違ってはいなかったようですね。
「覚悟なさい! わたくしは貴方を――」
「よう姉ちゃん、ちったぁ落ち着け。そろそろヤンチャは卒業しちまいな」
「――え、卒業?」
このオッサンは何を言っているのでしょう?
「いつまでもチャラチャラしてちゃあダメだってんだよ。まぁ俺に任せな!」
「ちょ、ちょっと――」
なぜか身体が勝手に椅子へと座ってしまいました。
抵抗しようにも自由が効きません。
「テメェのようなチャラチャラした女にゃこれだぁ!」
ジョキン!
「ハッ!?」
こ、ここ、このオッサン、わたくしの大事な髪の毛を!
「ああああ貴方、何てことしてくれるんですか! なんというダサいことを!」
「るっせい! ガタガタ言わずについて来いってんだ!」
ジョキン!
「ヒィィィィィィ!」
わ、わたくしの髪が!
わたくしの美しいブロンドロングヘアーがぁぁぁ!
「そぉら仕上げじゃあ!」
ジョキン!
「イヤァァァァァァッ!」
わたくしはハラリと落ちる髪の毛を見て後悔しました。
こんなところに来るんじゃなかったと……。
「ありがとやっしたぁ!」
バタン!
「ス、ステラスーン様、その頭は!?」
「見ての通りオカッパです……」
「そ、そのメガネは?」
「サービスだそうです……」
今のわたくしはオカッパに銀縁メガネという地味ぃな女エルフへと成り下がってしまいました。
とても恥ずかしくて出歩けません。
「全軍撤退! 一刻も早くここから離れるのです!」
撤退命令に首を傾げた配下達でしたが、わたくしの頭髪を見て納得したのか透かさず撤退を開始しました。
そうです、誰だってこんなダサい髪型は望みません。
「もう二度と森の外へは出ません!」
そう心に強く誓いました。