獣王だと!? テメェの髪型はモヒカンじゃ!
俺の名はライオネル。
獣人の中には獣王と呼ぶやつもいるが、獣人達を束ね頂点に立つ存在よ。
そんな俺の元へ慌ただしく配下の一人がやって来た。
「た、大変ですライオネル閣下!」
「なんだなんだ、騒々しい」
城の中庭で筋トレをやっていたのを中断し、汗を拭ってエールをゴクリだ。
「カァーーーッ、やっぱ運動後のエールは最高だぜ! お前も飲むか?」
「閣下、呑気にエールを飲んでる場合ではありませんぞ! どこかの国が大平原のど真ん中に建造物を建てたのでございます!」
「ぬぁんだとぉーーーぅ!?」
どこのどいつだ、暗黙の了解を破ろうとしてるバカな野郎は!?
あの大平原に何かを建てようもんなら間違いなく火種になる。
当然俺もマジにならなきゃならねぇ。
こいつぁ久々に俺の拳を唸らせるかぁ?
「それから、他にも気になる情報も御座います」
「ほぅ? 言ってみろ」
「はい。実は王国の勇者メルゼックが件の建物から出てきたという報告が上がっておりまして……」
「あの若造がかぁ?」
確か剣の腕前はそれなりだったと記憶してるが。
いや、それよりも勇者が出てきたってことは王国が絡んでるってことだな。
「で、あの若造はどんな様子だった?」
「はい。なんでも号泣しながら走り去ったようで御座いまして、件の建物には勇者泣かせの罠が仕込まれてるのではないかと思われます」
「はぁ?」
あの若造が号泣だぁ!?
以前直接闘ったことがあるが、あの野郎は簡単に涙を見せるほど軟弱じゃねぇぞ?
それにあれか、勇者が敗走したってことは、王国以外の別の国が関わってるってことか。
「フッ、面白ぇ。勇者を泣かせるほどの罠が有るってんならそれなりに楽しめそうだ」
「では閣下」
「ああ。挑んでみようじゃねぇか、その未知の建物ってやつによぉ!」
★★★
「ほぅ、ここがその建物か」
「左様で御座います。周囲を偵察しましたが、特におかしな点は見受けられません。強いて言えば所々にヒビが入っており、昨日今日建ったものではないのかもしれません」
建物にヒビだと?
ちぃとばかし妙だとは思うが、何らかの魔法で素早く建てたって考えりゃモロい箇所は出てくるってもんだ。
「まぁいい。中に入りゃ分かるかもしれねぇし、さっさと行くぞ」
「……わたくしもですか?」
「ったりめぇだろ! 言い出しっぺなんだから腹括れ!」
「ひぃぃぃ!」
嫌がる配下を無理矢理引きずり扉を開けた。
ガチャ!
「へぃ、らっしゃい!」
「おぅ、来てやったぜ!」
――って、ヤベ! いつもの酒場の流れで条件反射に答えちまった。
……つ~かこの厳ついオッサンは誰だ?
「さっさと空いてる椅子に座んな」
「お、おぅ……」
よく分からんが、言われるまま近くの椅子に腰を下ろすと、配下は隣の椅子に座った。
「なぁ、いったい何を始めようってんだ?」
「わ、わたくしに言われても……」
困惑する俺たちをよそに、さっきのオッサンが妙な物を片手に持ち戻ってくる。
……まさか武器? いや、武器にしては小さすぎるし、マジックアイテムか?
どっちにしろ、俺の肉体はチャチな刃物は通さねぇ、不意討ちかまそうとしても無駄ってもんだぜ。
「よし、まずはテメェからだ――いくぜ!」
ジョキン!
「え?」
「は?」
刹那、オッサンが振るったアイテムで、フッサフサだった配下の髪が宙を舞った。
「もう一丁!」
ジョキン!
「え? え? ええええ!?」
更に追撃とばかりに反対側の髪も飛んでいく。
このオッサン、いったい何を考えて……
「仕上げじゃあ!」
ジョリジョリジョリ!
「ひぃぃぃぃぃぃ! や、やめてくれぇぇぇぇぇぇ!」
配下のやつ、頭上で何が行われてるのかをようやく理解したらしく、頭を触って悲鳴を上げやがった。
丸メガネをかけた真面目な狼獣人が鶏の鶏冠みたいな髪型になり、端から見りゃふざけてるようにしか見えねぇ。
だが――
プッククク! 配下の髪型と丸メガネがミスマッチすぎる!
こりゃ帰ったら爆笑の渦だぜ!
「ガーーーッハッハッハッ! 中々面白い頭になってんぞ!」
「わ、笑い事じゃないですよぉぉぉ!」
まぁその通りなんだがな。
オッサンの目的がよく分からねぇ。
「お、おい、オッサン。こいつぁいったい何の真似だ?」
「はぁ? 見りゃ分かんだろ、モヒカンだよモヒカン。まさか知らねぇのか?」
「し、知ってるに決まってんだろ! モ、モヒカンだろモヒカン」
「おうよ」
挑発されてつい知ったかぶりしちまったが、この妙な儀式はモヒカンって言うらしい。
問題は何の儀式か分かんねぇところだが……
「っしゃあ、次はテメェだぜ!」
「――んだと!?」
じょ、冗談じゃねぇ、俺まで笑い者ってこったろ!? 訳も分からず鳥頭にされてたまるか! 俺の毛並みは獣王の象徴なんだ!
「俺はこのままが気に入ってんだ、勝手に切らせるわけにゃいかねぇ! ――んお!? 身体が動かねぇ!」
そう言って立ち上がろうしたが、なぜか身体はピクリとも動かない。
慌てて力を込めてみるが、結果は同じ。
そうこうしてるうちにオッサンの手が――
ジョキン!
「ちょ、やめ――「ええぃ、やりずれぇ。動くんじやねぇ!」
ジョキン!
「ぐわぁぁぁ、やめろぉぉぉ――「るっせい! 黙って散髪されやがれ!」
ジョキン!
「っしゃあ、上出来だぜぇ!」
「お、俺の凛々しい毛並みがぁぁぁぁぁぁ!」
★★★
ガチャ……
「毎度ありぃぃぃ!」
ハァ……終わった。
何もかも終わっちまった。
こんな鳥頭にされて、いったいこの先どうしろってんだ……。
「グスッ……閣下……」
「泣くな、バカ野郎。その涙は他の連中にバカにされた時までとっておけ」
「……それ、フォローになってないですよ」
こんな中途半端な頭じゃ獣王なんざ名乗れねぇ。
これからは鶏王とでも名乗ろう……。