勇者だと!? テメェの髪型は丸坊主じゃ!
「これが報告にあった建物か」
ノーザンランド王国に所属する勇者である僕に、謎の建物が大平原に出現したという報告が上がったのだ。
急ぎ来てみれば、確かに怪しげな建物が建てられていた。
この大平原は隣接する各国が領有件を主張している非常に厄介な場所であり、暗黙の了解で互いに不可侵にしてあるのだ。
国王はこのようなものを建てろとは命じてないと言っていた。
つまり、他の国のどこかが破った事になる。
「これは一悶着ありそうだなぁ」
恐らく他の国々も動き出すだろう。
場合によっては派兵――なんて事も考えられる。
ま、そうなったらこの僕――勇者メルゼックの出番になるんだけどね。
さてと、そんな事より今は目の前の建物を調査しないと。
まずは周囲を一周してみる。
見た感じ都会にある家屋とは遜色ないように見えるんだけれど、入口と思える横に赤と青のシマシマが動いている怪しげな物体が設置されている以外は不審な点はない。
となると、この怪しげな物体が何らかの罠として発動する可能性はあるか。
スチャ……
剣を引き抜き、怪しげな物体に向けて構える。
中の調査も行わなければならないし、入ろうとしたところで後ろから罠が――なんて目には合いたくない。
ここは安全策で破壊しておくのが無難だろう。
「セィヤ!」
パキィン!
「……フッ、他愛もない。たった一振りで僕の剣が真っぷた――」
「――ハァァァア!?」
そそ、そんなバカな!
この剣はオリハルコン製だぞ!?
勇者である僕にと特別に作られた特注品なんだ、それが簡単に……。
「…………」
ど、どうしよう。
まさかこのまま帰るわけにはいかないし、せめて中の調査だけでも行わなければ、国王に会わせる顔がない。
「ええぃ、クソッ!」
こうなったら破れかぶれだ。
今から中に突撃し、そこに居るであろう黒幕を取っ捕まえてやる!
ガチャ!
「へぃ、らっしゃい!」
中に入ると、こじんまりとした室内の奥で、地図のような物を広げているオッサンが目に止まる。
しかもこのオッサン、らっしゃいとか言わなかったか?
もしかしなくても店なのか!?
「他の客はいねぇからすぐに仕上げてやる。近くの椅子に座って待ちな」
「い、いったい何を――」
何を企んでいると言おうとしたところで、身体が勝手に動いてるのに気付く。
「クソッ、罠か!」
何とか抵抗を試みるも、身体は全く言うことを聞かない。
僕としたことが、こうも簡単に掛かってしまうとは!
「よぉし、じゃさっそく――「ま、待て、貴様いったい何を企んでいる!? まさか拷問を行うつもりか!?」
見たこともない怪しげな道具を手にしてることから、恐らくは拷問で間違いないのだろう。
だが!
「僕はチャチな拷問には屈しない、やれるものならやってみろ!」
「…………」
どうやらこのオッサン、僕の剣幕に押されて怯んでるようだ。
厳つい見た目によらず、中身は小者のようだな。
――等と考えていた僕だが、直後に後悔することになろうとは思わなかった。
「おぅ、クソガキ。ワレ、口の聞き方がなっとらんようじゃのぅ? 目上には敬意を払えと教わっちょるだろうが!」
「……っ!」
くっ、正直かなりの威圧感だが負けるわけにはいかない。
何せ僕は勇者だから!
シュィィィィィィン!
ん? 妙な音が聴こえてくると思ったら、オッサンが手にしたマジックアイテムからだった。
「な、なんだそれは!?」
「こいつぁバリカンのバリバリ君1号じゃあ。――見ろ、20年ぶりの出番に唸りを上げて喜んでやがるぜ!」
バリバリ君1号だと?
だが僕は腹を括った。
今更どんな拷問が行われようと……
ジョリジョリジョリジョリジョリ!
「……ハッ?」
待て待て待て! このオッサンは何をやっている!? それにこの感覚はまさか!
「オラオラァ、ローラー作戦じゃあ!」
ローラー作戦とやらの意味は不明だが、頭がスースーすることから僕のナイスヘアーが犠牲になっている可能性が高い!
くそっ、なんて苛烈な拷問だ。
僕の心をへし折るつもりだな!?
「オラ、完成じゃあ!」
オッサンの発した完成という言葉を聴いて、目の前の鏡を捉えた。
そこに写っていたのは……
「ま、ま、まままま――」
「丸坊主じゃないかーーーっ!」
「おうよ、日本男児なら丸坊主が基本じゃあ!」
な、なんてことをしてくれたんだ、こんな頭じゃ王女に婚約破棄を言い渡されてしまう。
勇者としての実績はともかく、あの王女は面食いなんだ!
「おぅ、クソガキ。金払ったら、とっとと帰んな!」
「言われなくても!」
拷問にかけた挙げ句に金までむしり取るとは、なんという卑劣なオッサンなんだ!
しかも身体が勝手に反応してるし。
とにかく、今後ここには絶対に近寄らないからな!