女神だと!? テメェの髪型はオカッパじゃ!
さてさて、やって来ましたパルテニア。
今わたくしヤルメルルテは、上空から件の床屋を見下ろしています。
建っている場所はというと、なんと大平原のど真ん中。
しかも四方八方を大国に挟まれ、絶体絶命の大ピンチな状態に。
これは周辺国を巻き込んだ大騒動に発展する予感がして大変楽しみではございます――
が、簡単に潰れては面白くありません。
あまりに貧弱なようであれば、少々テコ入れも必要でしょう。
ではでは、さっそく様子を見に行きましょうか。
あ、さっきも言いましたが、経済的な話じゃなく物理的な話ですよ?
★★★
ガラララ……
「へいらっしゃい!」
お? さっそくこの店のご主人から威勢のよい声をかけられました。
一応紹介しておきますと、角刈りチョビ髭で厳つい顔をした50代そこそこのオヤジさん――頑丈さんになります。
「頑さん、突然ですが、この――「おう姉ちゃん、悪ぃがチャッチャと座ってくんな。次の客が来たら詰まっちまうからよ」
――等と分を弁えずにおかしな事を言ってますが、こんな何もしなくても無くなりそうな床屋が混み合う事なんてあり得るのでしょうか?
等と考えていると……
「あ、あれ? 身体が勝手に――」
「おう、座ったか。じゃあさっさと仕上げちまうからよ」
お、おかしいです。
女神であるわたくしを強制的に座らせるなど、普通はできないはず……なのにこの驚異的な力はいったい?
「よぅし、まずは右!」
ジョキン!
「……ハッ? ジョキン?」
こ、こ、この男、いいいいったい何をやりましたか?
まさかとは思いますが、わたくし自慢のブロンドロングヘアーをバッサリカットしたんじゃないでしょうね!?
「続いて左!」
ジョキン!
や、やはりおかしいです、カットした後にバサッて音が聴こえました。
これって絶対バッサリといっちゃってますよね!?
「ちょちょちょ、ちょっと待って下さ「――最後はど真ん中よ!」
ジョッキン!
ひぃーーーーーーっ!
な、なんなのこのオッサン、どうして身動きできないのよ!?
こここ、このままじゃ手遅れに――
「オラ、完成じゃあ!」
オッサンの完成という言葉を耳にし、恐る恐る顔を上げました。
そして鏡に写ったわたくしの顔は……
「いゃぁぁぁぁぁぁっ!」
こ、ここ、このわたくしの髪型がオカッパという無惨な有り様に……。
これ、絶対同僚によってバカにされるパターンじゃないですか! ああもぅ!
★★★
「あ? パルテニアだぁ?」
「はい。地球とは別の世界になります」
気を取り直してオッサンこと頑丈さんに説明中です。
ええ、もちろんオカッパ頭で。
「で、俺に何しろってんだ?」
おや? 意外と落ち着いてますね?
普通なら冗談だろとか、これは夢だとか言いそうなものなんですが。
まぁ肝が座ってるのは良い事なので構いませんけれど。
「別に何かを強要することはありません。こちらの手違いで転位させてしまったので、自由気ままに過ごしていただいて結構です」
「そうかい。ならそうさせてもらうぜ」
全く動じる事がない頑丈さんは、そのまま椅子に腰を下ろすと競馬新聞を読み始めました。
この世界には競馬という文化は根付いてないので見ても無意味なのですが。
というか、わたくしと話してる最中だというのにこのオッサンは……。
「念のためこの建物に不壊属性を付与しました。例え遠くから魔法を撃ち込まれようが破壊されませんのでご安心ください」
「そうかい、ありがとよ」
後は特別な措置は必要なさそうです。
調べたところ、店内に入ったらこのオッサンのルールに従わなきゃならないというチート能力が働いてるようなので、ここに居る限り安全でしょう。
後は時々食料を届けてあげれば問題なさそうですね。
「では、わたくしはこれで。一応天界から見てますので、何かあれば言ってください」
「おぅ、ちぃと待ちや」
そう言って店を後にしようとしたわたくしを、このオッサンが呼び止めます。
「……何ですか?」
「おんどれ、女神だからっちゅうて金払わんつもりかい、ワレ!」
お金取るんですか……。
頼んでないとはいえ、カットされてしまったのであれば払わないわけにはいきません。
仕方ないので金貨を1枚放り投げ、足早に店外へと出ます。
ええ、できることなら二度とここへは近寄りたくありません。
こうしてわたくしヤルメルルテは、自慢のロングヘアーを犠牲にして天界へと帰還するのでした。