続く
コケコッコーー
鶏の声が聞こえた。
ーー眠いです。お腹すきました。何だか不思議な夢を見ました。私が勇者ですって!
目をパチリと開くと茅葺きの天井が見えた。
ーー? ここどこですか? 病室じゃない?
キョロキョロと辺りを見渡した。白い綺麗なシーツ。部屋の真ん中には長机とギラギラ光る金貨。
『ようやくお目覚めか。お姫様』
高めな男の声がした。
「?」
ーーえ? 誰?
部屋には誰もいない。
『寝ぼけてんじゃねーぞ。お前さ何ぶっ倒れる程チカラ使ってるわけ? 馬鹿なの?』
ーー聞いた事ある声だなぁ…………。っつ!
「あっ。あああああ。アーサー?」
ーーお、思い出した! 私死んで転生したんだった!
身体を叩いて確認した。
ーー胸板が固い。やっぱり男だ。ゆ、夢じゃなかった……。
私はがっくしと項垂れた。
『で? 身体はどうだ?』
「えっ」
アーサーが何を言いたいのか分からなくて戸惑っていると、早口にまくし立てられた。
『だ、だから身体はもう大丈夫なのかっっつぅぅ。か、勘違いするな! 俺の身体だから心配してるのであってお前を心配してるわけじゃねぇ!』
ーーそうですか。自分の身体を心配してたのですか。そりゃそうですよね。
ぐぅーとお腹が鳴った。異性の前で恥ずかしいとか乙女な思考はなかった。
ーー私今男だし、目の前の人は金貨だし。それよりも
「……お腹空きました」
『そりゃ1日中寝てりゃ空くわな』
「そ、そうだったのですね」
人助けが楽しくて聖剣の力を調子に乗って使い過ぎた。
ーー今度からは気をつけよう。
『ちょっと待ってろ。マーリン呼んでくる。あいつ今炊き出ししてるんだわ』
そう言い残して机からべちゃっと床に落ちて、うねうねと木製の扉の下の隙間から外に出た金貨の身体のアーサー。
ーーわざわざ呼んでくれるんですか。案外優しいのですね。お金にはうるさいけど……。ほぼゴールド使い切っちゃった。でも、人の命は一度失ったら戻らない。これで良かったんです。
自分は間違ってないと言い聞かせた。
身支度しないと、と思いシーツを触り清潔な物だと気付いた。凛花はノミが病の原因でもあると話しといた。どうやらきちんと伝わったようだ。自分の身体もお風呂に入った後のように綺麗になっている。その意味は深く考えないようにした。自分は寝間着姿だった。長机の上に置いてある綺麗になってる元の服に着替える。裾の破れた部分はきちんと縫ってあった。
ーー何から何まで助かりますね。きちんとお礼を言わないと……。
コンコン
扉を叩く音がした。
「入って良いか?」
マーリンの声だ。
「はい。どうぞ」
ギィ…
黒いとんがり帽子を被ってるショートカットの幼女はお盆を抱えて持ってきた。お盆の上には木のお椀に入った紫色のグツグツと泡を吹く液体が紫色の湯気を立てる。そのグロデスクな液体に顔がひきつる。幼女の黒い瞳は楽しそうに細められた。
「これは滋養強壮によい薬草を調合した魔法のスープじゃ。栄養不良もこれで改善! 儂ら魔法使い&魔女の知識と経験の結晶じゃ! ほれ食べてみ」
ーーえ、遠慮したいです! 食べたらもう一度死にそう!
後ろから現れたツルピカ禿げの髭の長い村長は艶々の顔をしていた。
「勇者様御安心なされよ。儂も食べたが、キツイのは初めだけ……こうして儂は元気になりました!」
バンザーイと手を広げる村長。確かに元気そうだ。
「ほれ」と木のスプーンで液体を掬い私の口の中に押し込まれた。味はパクチーみたいだった。私はパクチーが大っ嫌いだ。口を抑えて悶えた。
ーーま、不味い……。
吐き出すのは申し訳ないので頑張って飲み込んだ。すると身体の奥から元気が湧いてきた。
「凄い! 力がみなぎりました!」
マーリンは満足そうに「じゃろ?」と頷く。
「これを村人達に配ったのじゃ。初めは抵抗されたが村長が実験台として食べての〜。それで安心した村人達はばくばく食べて、儂は大忙しじゃ」
「マーリン様は魔法使いなのに素晴らしい方だ。勇者様のお連れの方はやはり違うのですな」
「魔女も魔法使いも人間と同じ。良い人もいれば悪い人もいる。だから、無闇に猫を殺すでないぞ」
私はそのマーリンの言葉に大きく頷いた。猫様は大事にしてほしい。村長は悩んだが、「勇者様の言うことなら従いましょう」と頷いた。
「勇者様。村人を助けていただきありがとうございました」
「あっ。こ、こちらこそ眠っている間とか、その世話になったな。感謝する」
「そんな! 勇者様のなさった事に比べて大した事はしておりません。お気にせず。ささっこちらは謝礼金となっております受け取って下さい!」
金貨がたっぷりと入った巾着を渡される。
ーーわーお。奇跡で使った金貨より多い。
アーサーがマーリンの帽子のつばの上で『金だー!!』と叫ぶ。
「……こんなに大丈夫なのか? その、あまり裕福そうに見えないのだが……」
村長は笑った。
「大丈夫です。村は立ち直りました。元気であれば金はどうとでも稼げます。それにこの村は自給自足ですのであまりお金はいらないのです」
「そうか。なら遠慮なくいただくぞ」
私は有難く金貨を受け取った。
ーーこれでまた人助けできますね。ぐふふ。
ずれた野心を燃やす凛花であった。