楽しい♪
「勇者様こちらです」
ぎぃ…
教会の入り口の扉を村人に開いてもらい中へ入る(勇者の身体の) 凛花。服は裾が破れているがきちんと着ている。アーマープレートは邪魔だから村長に預けた。おかげで身軽になった。口を手拭いで覆い金貨の入った巾着を腰につけ、鞘のついた聖剣を握りしめて勇者は木製の長椅子に寝かされた患者に近寄った。部屋はロウソクの火で明るく照らされた。
「ゴホッ」
痩せ細った10歳ぐらいの少年は胸を押さえて咳き込んだ。
ーーこんなに小さな子まで可哀想に。早く治してあげるね。
聖剣の情報によると
病名・黒死病 (段階、中度)
回復するには、ゴールド10枚消費するか、精神力を4分の1程度使う必要あり。
ーー4分の1ならいっか! ゴールドは節約しないとね。アーサーがうるさいし。
聖剣を握りしめて「神のご加護がありますように……」と呟くと淡い光が少年を包んだ。少年の顔色は徐々に良くなりびっくりした様で飛び起きた。目の前にいた私に「お兄ちゃんが治してくれたの?」と首を傾げる。私は「良く頑張った」と少年の頭を撫でた。奇跡の影響で貧血気味になったが病で死んだ事のある私はそれぐらいでへこたれない。
ーーさて、次いきましょう!
気合いを入れて次の患者に挑んだ。
壁際にはマーリンが佇んでいた。
「頑張ってるの〜。おぬしとえらい違いじゃ」
凛花の様子をマーリンの帽子のつばの上に乗ったギラギラ光る金貨ことアーサーはイライラしながら眺めていた。
『ちっ。何頑張ってんだか』
アーサーだったらお金を払ってまで人助けなどしない。凛花の場合は精神力を使って治癒も出来る様で、俺より勇者に向いてるな! と思ったらムカついてきた。
また凛花の奇跡により金貨がギラギラした光になり患者の病を治した。
『ああああああ!? まてコラ俺の金を迷いなく使うんじゃねー!!』
ベシャッ ウネウネ
アーサーは金貨の姿で移動した。マーリンの様に魂が見える者からは金貨を身体の中に入れたギラギラしたスライムに見える。アーサーは凛花の頭上にうねうねと這い上がった。ナメクジが登ってくる様な感覚にぞわっと全身を震わした凛花はピシッと固まった。
『聞いてんのかコラー! 俺の金だー!!』
「ひえぇぇ!? 気持ち悪いぃぃぃ!?」
凛花は金貨の姿をした何かスライムみたいな感触の物を床に投げた。
ベシャッ
『ぐっほぉ!! ……またかこのアマ!?』
「あっ。すいませんつい……。アーサーさん人助けって素晴らしいと思いませんか?」
『はあ?』
ーー人助けが素晴らしい? んなわけないだろ。そりゃ助けられたら嬉しいが……。
アーサーは凛花の目を見て息を飲んだ。
温かな笑みを浮かべた幸せそうな表情。アーサーはまずそんな表情はしない。
ーーまるで別人。中身が違うとこんなに違うんだな。
「私は今とても幸せなんです。だから、機会を与えて下さった神様に感謝してます」
ーーそりゃようございましたな。俺は被害者だがな。……こいつは義務で善意を振りまくグウィネヴィア姫とは違うんだな。
『けっ』
アーサーは凛花に背を向けてマーリンの元へ戻った。
ランスロットとトリストラムは患者を運ぶ手伝いをしていた。
「リンっじゃなくて勇者! こっちも頼む!」
「はい!」
「……顔色が悪いな」
「これぐらい平気ですっじゃなくて、だ!」
「……無理はするな」
ランスロットが呼びかけ、トリストラムは凛花の顔色の悪さに気づいた。奇跡を何度も使いゴールドと凛花の精神力は底を尽きようとしていた。
『あいつ馬鹿だろう』
「ふむ。もうそろそろ限界かの〜。儂も頑張るとするか」
『お前が頑張るとか。珍しい』
「頑張る若者の姿に少し感化されたようじゃ」
マーリンは教会の外に出て空間を操り大きな鍋と薬草、瓶に入った紫の液体を出した。枯れ木を魔法で集めて火を起こし、鍋の中に薬草と紫の液体を入れ煮詰める。ふんふ〜ん♪ と木のヘラで混ぜてる姿はとっても怪しい魔女鍋だった。
教会の中から「勇者様が倒れたぞー!?」という叫び声が聞こえた。