勇者への認識
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ランスロットは私に問いかけた。
「リンカさん。この村は疫病で困っています。私たちはその原因を調べないといけません。協力してほしいのですが……。大丈夫でしょうか?」
ーー疫病ですか!? 感染したらどうしよう!?
だらだらと汗をかくアーサーの身体の私。
ーーどうしましょう!? 念願の人助けのチャンスなのに!?
髪をぐしゃっと搔きふさふさの髪に驚いた。
はたっと気づく。
ーー……私の身体じゃなかったですね。きっと大丈夫ですよね。
「はい。協力させて下さい!」
ランスロットは「よろしくお願いしますね」と優しく微笑んだ。
ーー頑張ります!!
「ふむ。協力してくれるのはいいが、奇跡を起こせるか確認したい。聖剣を握ってみてくれないか?」
マーリンが手を振ると何も無い場所から聖剣をぽわーと光を放ちながら出現させた。
「マーリン様は神様ですか?」
ーー転生だって気づいたし、私が少女だって暴いたし、空間操って剣出せるし神様ですか?
正座しながら真面目な表情で訊いてみた。マーリン様は「おぬし面白いな」とケラケラ笑った。
「儂は夢魔と人間との合いの子じゃ。それ故に魔法が使える。ほれさっさと握れ」
ーー夢魔ですか! 不思議で素敵ですね!
私は言われた通りに聖剣の柄を握った。すると頭に情報が一気に入ってきた。
職業・聖職者獲得。
光属性(聖)獲得。奇跡が追加されました。
光属性(金)
奇跡
・お金で万事解決 (ゴールドを消費します)
光属性(聖)
奇跡
・祈り (神への信仰度により傷や病を治す。精神力が消費されます)
職業・勇者・盗賊・聖職者
ーーこ、これは何ですか!?
私の驚く様子にマーリンはにやりと笑う。
「どうやら大丈夫そうだな。というか聖剣のオーラが変わったな。ギラついてたのが神々しくなった」
聖剣は光り輝いていたが、マーリンの言ってる変化はよく分からなかった。
「奇跡が追加されたそうですが、何か関係ありますか?」
マーリンは目を輝かせた。
「ほお! 誠か! それでどういった奇跡なのじゃ?」
「えっと、傷や病を治すそうです」
「今の状況にうってつけではないか! よくやった!」
マーリンは上機嫌だった。ランスロットは「良かった」と微笑み、トラストラムは静かに頷いた。
そして、4人ともアーサーの中身(魂) の事をすっかり忘れていたのであった。
* * * *
私が横になっていた場所は村長の家の客室だったようだ。
外に出ると、大勢の村人達が私達を待ち構えていた。空は赤く染まっている。夕飯時だったのにも関わらず集まっている村人。私を見るその目から安堵と落胆を感じた。
「ゆ、勇者様ご無事で良かった!」
「本当にあ、安心しましたよ」
「雷に打たれた時はざまあーうえっほん! 心配しましたよ!」
ーー皆様。目が泳いでますよ。何気にざまあと言いましたか? もしや、あの痒いシーツはわざとかしら? この勇者は一体何をやらかしたの?
マーリン達と話し合った結果、中身が凛花であることは秘密にする事にした。多分信じないし、説明が面倒くさいからだ。
私は当たり障りのないようにニッコリと笑った。
「ご心配をおかけしました。この通り私は無事です。疫病にかかった方の様子を見たいのですがよろしいでしょうか?」
ザワ
村人達はアーサーの一変した態度にどういう事かと戸惑った。
ーー誰だこいつ?
ーーえ? 敬語?
ーー雷に打たれて性格が矯正された?
村人達の様子に狼狽えた凛花。
ーー何か間違えましたのでしょうか?
マーリンがちょいちょいと私の服の裾を引っ張る。
「?」
こそっと「アーサーはもっと怠そうに喋る」と教えてくれた。
ーーああ! なるほど! やってみます!
私は頷いた。村人に向き直り口を開く。
「面倒だが、折角村に来たんだ。とっとと用事を済ましたい。案内してくれ。あー怠い」
ーーどうでしょうか?
怠そうにしながら内心ドキドキした。
村人はやっぱりなと微妙な表情をした。マーリンはグッドと親指を立てた。
ーーえ。今のでいいの? 酷い性格を演じたのですが……。
「わかりました! では俺の家からお願いします!」
「ずっ狡いぞ! 僕のところからだ!」
「お、俺のところだ!」
我先にと手を挙げる村人達。勢いに圧倒された凛花は後ずさる。
ーーひえーー! 怖いですー!
ランスロットが(アーサーの身体の) 凛花を庇うように前に立つ。夕日の色に染まったさらさらの銀髪が美しい。
「皆落ち着きなさい。必ず皆のところに行きますので、症状が酷い方からお願いします」
冷静に優しく村人を諭す姿にドキッとときめいた。凛花は年頃の乙女なのだ。……姿は男だが。
村人達は「騎士様がそう言うなら……」と渋々頷いた。