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転生まであと少しです。

 

 そこは霧の中にいる様に真っ白な夢の世界。淡い光となった凛花の魂は彷徨っていた。


 男性の優しそうな声が聞こえた。


 ーー「可哀想に」


 ーー誰?


 ーー「貴女をずっと見守ってました。良く耐えました。貴女は幸せになるべきです」


 ーー……幸せ?


 ーー「はい。幸せです」


 ーー私はもう死にました。もう終わったんです。


 ーー「はい。佐倉 凛花さんは亡くなりました。残念ながら生き返らせる事は出来ませんが魂を違う世界に渡らせる事は出来ます。タイミングよく器が余ってます。しかも、ハイスペックな器です。魂と記憶はそのままで転生してみませんか?」


 凛花は悩んだ。この男性の声は耳に心地よく響き、嘘をついている様には思えなかった。それに見守っていたと言っていた。


 ーーもしかして、貴方は神様ですか?


 ーー「はい」


 凛花は嬉しくて泣いた。魂の状態だから実際には泣いてないが気分が泣いた。


 ーー神様はいたのですね。信じてました。ずっと会いたかったです。


 病気と闘っている間、心の中でずっと神様に話しかけていた。友達もいなくて、家族にも見放された凛花を支えてくれるのは神様だった。


 ーー「私を信じてくれる人の心に私はいます。信じてくれてありがとう凛花」


 ーー神様。私は心残りがあります。私は誰かを救いたい。きっと私の様に苦しんでる人間は沢山います。救えるのなら、私は生まれ変わりたいです」


 ーー「……あの勇者に爪の垢を煎じて飲ませたい。あっいえ何でもないです。お気にせず」


 ーー?


 ーー「では、転生のお手続きに入りますので、暫くおかけになってお待ちください」


 ーーあっはい。


 魂の状態でどう座れと?


 暫く待ってるとピンポンパンポーンと電子音が響いた。


『私は天界代表取締役社長である。今から天界の扉を開ける。全員配置につけ。繰り返す。今から天界の扉を開ける。全員配置につけ。これは演習ではない』


 ピンポンパンポーンと下がり気味な音が響いた。


 凛花の目の前に荘厳な扉が出現した。扉はひとりでに開いた。扉の向こうは真っ暗だった。


 ーー「お待たせしました。足元に気をつけてお進みください」


 ーーあっはい。


 なんだか神様に親近感が湧いた。足はないが足を動かす感覚で扉へと進んだ。扉をくぐると青空が広がっていた。私は宙に浮いていた。地面がだいぶ下にある。後ろを振り返るが扉は無かった。


 ーー締め出されてしまった?


 焦った私は辺りをキョロキョロと見る。


 ーー「大丈夫ですよ。私は側にいます。これはサービスです。空を飛んでみたいと思いませんか?」


 声が聞こえてほっと安心した。

 確かに空を飛んでみたかった。私の場合は感染症にならないように気をつけていた為、外出が制限されていた。感染症になったら一般の人よりも免疫が落ちた私は重症になるのだ。だから、自由に外に飛び回れるなんて幸せ過ぎて死んじゃいそう。……死んでますけどね。

 元気よく私は神様に答えた。


 ーーはい! 飛んでみたいです!


 ーー「そうですか。良かったです。では、真下にある国ブリテンについて飛びながら解説しましょう」


 私の魂はふよふよと上空を横に移動した。


 ーー「この世界は地球とほぼ同じ地形をしています。ブリテンはちょうどイギリスがある位置にあります。イギリスの正式名はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国ですね。そのグレートブリテン島と言われる場所です」


 テストに出そうだな。神様が地理の先生に思えてきた。下はずっと森だったが、大きい川と大聖堂を中心とする街が見えてきた。


 ーー「あれは、ロンドンです。大聖堂の庭には大理石の岩に私が刺しといた聖剣(エクスカリバー)がありました。今は勇者の手元にあります。これから貴女が転生する器です」


 ーーそうですか。……すいません。勇者が私の器だと言いましたか?


 凛花は生前は読書人であった。アーサー王伝説の本は持っている。病室の住人であった私は何度も読み返した。聖剣も出てきた。もしかして、もしかすると!?


 ーー「はい。守銭っおっほん。失礼しました。勇者アーサーが貴女の器です」


 ガーーンッ


 頭に(たらい)が落っこちてきたような衝撃を受けた。勇者ってだけで凄いのだが、よりによってアーサー!? え? 嘘でしょ!? 男だよね!?


 ーー……男ですか?


 ーー「はい。あっ貴女は女の子でしたね。まあ。大した差はないですよ」


 神様はとても大らかでした。心が広いです。素敵……じゃない! 性別違うのって大問題!


 ーーあのー。この話はなかったことにし

 ーー「あちらをご覧下さい。王都カメロットです」


 たいですって言う前に台詞を被せられた。暗に無理ってことですか!? もう手遅れなんですか!? 引き返せないんですか!?


 下には賑やかな街並み。中心には大きな洋風のお城。素敵な花壇。人が集まる広場。天幕が張られた出店。


 街を観ていると面白いのに、頭の片隅に男は無理ですと叫ぶ自分がいた。頭ないですけど。


 ーー「あのお城にはブリテンの王ウーゼル・ペンドラゴンが住んでいます。王の娘グウィネヴィア姫はアーサーの婚約者です。今は魔王サタンに(さら)われここにはいません」


 アーサー王伝説とは色々と違うのね。魔王がいるんだ。ということは


 ーーアーサーがグウィネヴィアを取り返すのですね。しかも、サタンも倒すんですね。


 ーー「はい。よくわかりましたね。勇者はサタンを倒す旅に出てます。人助けも勇者の仕事です。今彼はここの近くの村で疫病の原因を調査している予定でした」


 勇者は忙しいな。私が転生して大丈夫なのかな。


 ーー「まあ。金の亡者と化した勇者を私が罰して魂抜いたので、今は動いてませんね」


 ーー金の亡者!? あのアーサーがですか!?


 ……物語のアーサーは欲深くない優しい人だったような。それに魂抜いといたとか物騒ですよ。


 ーー「おっと。のんびりしてたら身体が死んでしまう。では、凛花さん。良い転生ライフをーーーー


 凛花の魂が村のある場所に引っ張られる。


 ーー神様! 私はっっ


 男は無理です! と言う前に意識が遠のいた。


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