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去りゆく背中

タイトル変わりました。元 信心深い少女はがめつい勇者に転生する。です。

 




 日が昇り明るくなった。崩れた青銅の塊をただ茫然と見つめるアーサー達。その表情は暗かった。


 ーー「……聞こえますか?」


 アーサーの頭に響くその声に弾かれた様に顔を上げた。その声は神様に違いなかった。


「聞こえてる!! 遅いんだよ!!」


 ーー「凛花さんのことは残念でした。ですが、まだ彼女は生きてます」


「はあ!? じゃあ何処にいるんだよ!?」


 ーー「聖剣に宿ってます」


 腰に帯剣した聖剣を見ると淡く光っていた。


「これに?」


 独り言のアーサーを怪訝に見たマーリンは聖剣を見ると目を輝かせた。


「リンカがおる! 聖剣にいるぞ!」


 マーリンのその言葉に俺もトリストラムも安堵した。


「マーリン。声は聞こえるか?」


「ちょっと待っておれ」


 聖剣にマーリンは「おーい。リンカ。聞こえているかー?」と話しかけたが、反応がない。


「ダメじゃな。魂の光自体が弱い。これでは消滅してしまうぞ」


「チッ。おい神様。何か手は無いのか?」


 ーー「ありますが……。アーサー。貴方はきっと彼女と同じ時を歩めなくなる。それでも、良いですか?」


「どういう意味だ?」


 ーー「凛花さんの魂を聖剣の奇跡を使って別の生き物に変換させます。それには何十年と掛かります。下手したら百年は掛かります。それでは彼女が1人になってしまう。知り合いのいない場所に戻るのは可哀想です」


「なら、他に何か方法は無いのか?」


 ーー「貴方の時間を止めれば良い。貴方は凛花さんの為に今の時間を捨てる覚悟はありますか?」


「…………」


 ーー今生きてる人と別れるって意味か? そうか。そうだな。


「良いよ。くれてやるよ」


 ーー「やはり貴方を選んで正解でした。湖の姫に会いなさい。マーリンが知ってます。アーサーと凛花さんに幸があらんことを」


 頭に響いた声は聞こえなくなった。静かに事の成り行きを見守るマーリンとトリストラム。


「なあマーリン。湖の姫に会いたいんだが?」


 マーリンは口を開いて固まった。


「何をしに行くのじゃ?」


「リンカを別の存在に生まれ変わらす為にと、俺の時を止める為らしい。次目覚める時は何十年後か百年後らしい」


 マーリンもトリストラムも驚いた。


「もう。会えなくなるのか?」


「ああ。多分な。だから、先ずはカメロットに帰らないとな」


 マーリンは寂しそうに目を潤ませた。マーリンはもう高齢のお爺さんだ。魔法使いでも人間の寿命しか生きられない。アーサーとは今生の別れとなるだろう。


「わかった案内しよう」





 * * * *





 カメロット城の玉座の間。アーサーは人の姿で入るのは随分と久しぶりの気がした。実際には2週間も経ってないのだが。玉座に座るウーゼール・ペンドラゴンはにこにこと笑っていた。記憶に残る王様の表情はほぼ無表情だったので驚きだ。娘のグウィネヴィア姫が戻ったからなのか、凛花が植えつけた善人な俺へのイメージなのか。まあおそらくは両方なのだろう。王様の横に立つグウィネヴィア姫とランスロット。姫は俺を見てにこにこと微笑む。ランスロットは無表情であった。


 王様は跪く俺に喋りかけた。


「此度はご苦労であったな。こうして、グウィネヴィア姫が戻ってきた。めでたいことだ」


 ーー? ああ、そうかリンカの事は知らないんだな。


「魔王は倒されてないが、姫が戻ってきた今もう用はないだろう。もうそろそろけっーーーー

「陛下にお願いしたき儀があります」


 王様は「なんだ?」と髭を梳きながら目を細めた。


「私は王様の跡を継ぐことが出来なくなりました。よって、グウィネヴィア姫との婚約を破棄させていただきたい」


 空気が張り詰めたものに変わった。


「……理由を聞きたい」


「私は眠りにつくことになりました。それは何十年または百年の長い眠りになるでしょう。なので王にはなれません」


「そうか……。わかった。だが、それは許さない」


 否定され俺は息を飲んだ。王様の瞳は穏やかだった。


「王位は空けておく。戻ってくるのをいつまでも待っておるぞ」


 柄にもなく泣きそうになった。孤児だった俺に家など家族などなかった。だが、今この瞬間、その家族の温もりを感じた。グウィネヴィア姫が俺に駆け寄ってくる。俺のことを心配しているようだった。手を握りしめて俺の目を真っ直ぐに見る。


「どうか。どうか。ご無事で」


 ーーああ。わかった。


 グウィネヴィア姫に向ける感情はとても穏やかなものだった。これが家族の感覚なのかもしれない。


 俺は小声で「ランスロットと幸せになれ」と伝えた。


 驚く姫の肩を軽く叩き。ランスロットに「頼むぞ」と声をかけて俺は玉座の間から去った。


 馬小屋に向かうとトリストラムが待ち構えていた。


「アーサー。初めこそ腐った奴だと思ったが、なかなか見所のある奴だと今は思える。もう1人の俺の弟子を頼んだぞ」


 ーー弟子? ああ、リンカの事か。


 俺は頷いた。





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