儚い生命
所変わって、現代日本。1人の少女が儚くもその命を散らそうとしていた。1人部屋の病室のベッドにぐったりと横たわるオーガニックコットン素材の帽子を深く被る虚ろな黒い瞳の病人。窓から見えるのは満開の桜。心電図の電子音が規則正しいリズムで鳴っていた。
ベッドに備え付けられた簡易の机の上には一枚の紙が置いてある。紙には拙い筆跡で[もう少しだけ生きたかった]とだけ記されている。
朦朧とした意識の中ナースコールを押そうと神経を手に集中させるが、感覚がなく指を動かせているのかも疑わしかった。
ーーもう駄目か……。苦しかったな。痛かったな。楽になれるのかな。
死への絶望と苦しみから解き放たれたいという切望。
ーー神様。親より先に逝く親不孝な娘をどうかお許しください。
心電図の電子音がゆったりとしたリズムを鳴らす。警告音が病室に響いた。バタバタと扉の向こうから慌ただしい足音が響く。
バターンッ
扉が勢いよくスライドし看護師が少女に駆け寄る。
「佐倉さん!」
目は既に固く閉じられていた。身体を揺すり呼びかけても反応がない。
心電図が0の数値を出した。大勢の医師が集まり心肺蘇生術を試したが少女の意識が戻る事はなかった。
享年17歳。佐倉 凛花は誰にも看取られる事なく静かに息を引き取った。
桜の花びらが一枚ひらりと空へと舞った。