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エレインの思考

 

 エレインはカメロット近郊の村の出身だ。出稼ぎでカメロットのお城勤をしている。母が疫病にかかったと聞いた時は生きた心地がしなかった。休暇を取って村へと里帰りしようとメイド頭に相談すると勇者様がきっと助けてくれると教えてもらった。


 貧民から選ばれた次期国王様。貧しい村の出身だった私は彼なら貧民を助けてくれると期待した。多くの者が心無い噂をするが、私は信じてる。そして、アーサー様は見事に疫病を治して下さった。両親からの手紙には倒れる程無理をして村人達の病を治してくれたそうだ。なんと素晴らしい方なのでしょう。聖人君子に違いありません。想像するだけでも愛しい。是非ともお近づきになりたかった。


 初めてお会いした時、勇者様は空色の美しい瞳で私をじっと見つめて驚いた様に目を丸くし「どうも」とお辞儀をして声を掛けて下さいました。下々の者を気遣って下さるとは流石勇者様だと感激しました。


 色仕掛けをしてアピールしてみると勇者様は不愉快そうに眉をひそめました。距離をとられた私は少しだけショックでしたが直ぐに気持ちを入れ替えてアタックしようと勇者様の肩に触れました。驚いた勇者様が振り向いた拍子に私は足を滑らしてしまいました。すると、私は勇者様にお姫様抱っこされてたのです。あの力強い腕の感触を私は忘れません。


 勇者様は格好良かったです。顔が近づいた時は期待しちゃいました。動揺して呂律が回りませんでした。私の額に当てられた大きな手は優しくて全ての災いから守ってくださってる気分になりました。勇者様は私の神様です。でも、聞き捨てならないことを言われました。


「男にしか興味がありませんから!」


 ガーーーン


 ショックで暫く動けませんでした。性別はどう頑張っても変えようがありません。魔女でさえ無理だと聞いたことがあります。頑張れよ魔女……。私はこの時心の中で魔女を応援しました。


「お姉さん達に手を出したらタダじゃおきませんから!」


 勇者様はお連れの騎士に浮気しないように釘を刺している。あの騎士どもが憎い。寵愛を受けているに違いない。グギギギギ。


 私が勇者様の後ろ姿を見つめていると驚くべき光景を目撃しました。なんと女湯に入って行ったのです。勇者様。他所の女の身体に興味があるのですか? 私には興味無かったのに? 男だけじゃなかったのですか? 私は嫉妬でハラワタが煮えくりかえる思いでした。


 そして朝食を作る係を私はもぎとりました。勇者様の為に愛情込めて焼いたトーストはお気に召さなかったようで自ら調理し直してました。ショックでした。しかし、勇者様は流石です。料理の心得があるようで美味しそうなサンドイッチを作ってました。それを食べてるマーリン様が羨ましい。


 私の渇きは勇者様でないと潤わない。この気持ちを抑えるすべを知らない。いない弟の存在を作り上げて心優しい勇者様を騙してしまった。罪悪感で胸が苦しいですがもう引き戻せません。


 勇者様を城下町の私のアパートに案内し部屋に入ってもらいました。ベッドには弟がさも眠ってるように毛布を敷き詰めました。ドキドキしながら内鍵を閉めました。勇者様はベッドにゆっくりと近づいて行きます。プレートアーマーとマントを着けてない無防備な背中に私は擦り寄りました。この体温が愛しいとうっとりしました。


「どうしましたか?」


 背中越しに振り向く勇者様。私はその唇に吸い寄せられーーーーーー


「どうしましたか?」


 ワシっと顔を掌で掴まれました。


「すふません。ゆふしゃさま」


「ああ。すいません。つい近かったので」


 掌に唇が当たっただけで満足かもしれません。愛しい温もりが顔から遠のいた。そして、ベッドに誰もいないことに気づいた勇者様は私に詰め寄ってきました。眉をひそめる姿も愛おしいです。


「弟さんはどこに?」


「いません。ごめんなさい! 私勇者様と2人きりになりたくて嘘をつきました!」


「えっ……嘘でしたか」


 勇者様は腕組みをして私を睨みます。


「何故?」


 嫌悪感でいっぱいですって顔です。めちゃくちゃ怖いです。


「わ、私は勇者様が好きなんです! この気持ちを抑えれません!」


 ため息を吐かれました。


「私は男にしか興味がないと言いましたよね?」


 昨日のは本気で言ってたのですね。


「でもっ女湯に入ったじゃないですか!?」


 あっしまった という顔な勇者様。金髪をわしゃっとして考え込みました。


「……婚約者がいるから貴女の気持ちを受け取ることは出来ません」


 感情がこもってませんね。苦肉の策って感じ。というか知ってます。グウィネヴィア様が婚約者だってことはカメロットに住む者なら誰だって知ってます。でも、もう一つの噂があるし、私は目撃したことがあるから無謀にもアタックしてるのです。


「でも、グウィネヴィア様は恋人がいるではないですか! アーサー様だけ婚約に縛られてるのはおかしいです!」


 空色の瞳が驚愕で見開いた。暫く固まる勇者様。


「……ごめん。どういうこと?」


 ーーえ!? もしかして知らないのですか!?


 私はとんだ過ちを犯した気がしました。


 ーーでも、知ったらもしかして私にもチャンスが巡ってくるのでは!?


「グウィネヴィア様はランスロット様と恋人同士なのです!」


「えっランスロットがっ!? えっ!? よく一緒に旅してますねっ!?」


 ーーこんなに動揺してお可哀想に! もしやランスロット様の方が好きだったりして……。


「はあ。エセ紳士に騙されるところでした。危なかった」


 ーーやはりランスロット様の事を!?


「アーサー様。どうか気を落とさないで下さい。良い男ならそこら辺にいっぱいいるではないですか! あっでもアーサー様のように神様級にパーフェクトな方は1人しかいません」


 精神的に疲れたご様子で私にぎこちなく笑いかける勇者様。


「ありがとう。貴女とは恋バナでまた盛り上がりたいな」


 仔犬のように弱々しい勇者様に私はきゅんきゅんしました。


「はい! また恋バナしましょう! 宮中のスキャンダルなネタは沢山知ってます!」


 こうして、当初の予定とは少しだけ違うのですが勇者様と仲良くなりました。



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