飯テロが起こるはずがない
私はあの魚の恨めしそうな目を忘れない。
「星なんて見てねえよ。俺たちをこんなんにした人間どもが憎いぜ」
パイから突き出した魚の頭。シュールなブリテン料理に驚愕した。
名はスターゲイジーパイ直訳すると、星を見る魚。
それを美味しそうに頬張る人間達。私はあの光景を忘れない。
『ーーおい』
ーー…………ふぇ。
『ーーおーいっ』
ーー何レスカ。
『おっきっろー!!』
「ふああああっ」
ーーあっおはようございます。ふかふかのベッドは最高ですね。流石お城です。先程海を泳いでましてニシンの群が渦を巻いて私は飲み込まれそうになりました。全身震え上がりました。ふかふかのベッドの所為で溺れる夢見ちゃいましたよ。このベッドが憎い。
ドスンドスン
『おいなにベッド殴ってんだよ!? なんの恨みがあるんだよ!?』
「こいつの所為でニシンに殺されそうにっっくっ私は一口も食べてないのに!?」
ーー恐るべし人を睨むクレイジーパイ!
『お前が寝ぼけてることだけは分かった。ニシンに殺されるってうなされてたもんな』
「……声に出てましたかっ。ブリテンの人ってあんなのを平然と食べるんですね。哀れです……」
『昨日の宴の料理の事だよな? ブリテンの人ってお前はなに人だよ?』
「私はジャパニーズです」
『ジャパニーズ……聞いた事ないな。お前の話はわけわからん』
「アイドントスピークイングリッシュ」
『説明する気がない事は分かった』
コンコン
ドアをノックする音が聞こえた。
凛花ははだけたガウンを整えて返事した。
「あっはーい。起きてますどうぞ〜」
キィ
黒のひらひらのワンピースを着たマーリンがにやりと現れた。
「アーサーはまたリンカの部屋にいるのか。女と同衾とは男色の名に恥じる行いじゃな」
『ここは俺の部屋であって、コイツの身体は俺であって、その名そのものが俺にとって恥だな!』
「流石アーサーはツッコミ役の才能がある。そのまま元に戻らなかったら儂と漫才でもするかの〜。まっ客は魔法使いか魔女だが」
『今の状態で稼いでもなんのメリットもねーし。食べれんし』
「アーサーさんそんなんで生きてて楽しいですか?」
『お前何気に酷いよな。さっきまで料理食べてるブリテン人を哀れんでいただろ』
「何の話じゃ? まあそんな事よりもほれ朝食じゃ」
マーリンは蓋が被されたお盆を持っていた。蓋を取るとそこには……
クレイジー!?
黒こげの食パンとゆで卵、昨日の残りのスターゲイジーパイ。その魚の目は親の仇を見る目であった。
凛花は震える拳を握りしめた。目は決意に満ちてる。
「自活します!!」
やる気は最高潮だった。
* * * *
凛花の6分クッキング〜♪
ーーあっどうも料理を研究しようかな家の凛花でございます。本日はよろしくお願いします。まずレタスを簡単にちぎりトマトをスライスします。ゆで卵の殻を剥いてボールに入れて潰し塩胡椒をまぶします。次に焦げた食パンのこげを削ります。はい盛り付けてサンドイッチになりました。
「美味しそうじゃな〜。儂の分もあるのか?」
「もちろんありますよ。一緒に食べましょう」
「嬉しいの〜。おぬしにはコックの才能があるの〜」
ーーこんなんでコックになれたら、日本人ほぼコックになれますね。あっ習慣のお祈りしないとね!
「天にまします我らの神よ。今日も生きる糧をお恵み下さり感謝致します。アーメン」
「アーメン」
もぐもぐ
ーーうん。普通です! あー普通って素晴らしい。
「美味しいの〜。手間をかけるのも大切じゃの〜」
「これぐらいの手間はかけるべきです。食パン焦がしたの誰なんですか?」
「……私です」
別の人の声が聞こえて振り向くと、そこにはお風呂場でお姫様抱っこしたお姉さんがいた。纏うのは湯着ではなくお仕着せ。ずーん と暗いオーラを出している。
「えーと貴女は昨日の……」
「エレインです」
「あっエレインさんでしたか。昨日はどうも」
「アーサー様! わ、私は、そのすいませんでした!」
「食パンの話ですか? 何故焦げたのですか?」
「そ、それは食べ物は焼けば焼くほど安全に食べれると教わりましてっっ」
「エレインを責めてくれるな。食事に手間をかけずに焼き過ぎる傾向なのは一般的なのじゃ。胃袋に入ればみな同じという感じじゃな」
凛花の顔は引きつった。
ーーこの国の常識が根本的に悪かったのかっっ!
天を仰ぎたい気分になった。
ーーなるべく自分の食べる分だけでも作ろう! くっ私は料理が得意ではないのに! あっ聖剣の能力でレシピ検索できないかな?
「マーリン聖剣出して」
「ほいっ」
「ありがとう」
検索には2カ月で1ゴールド消費します。
ーーネットし放題の通信料てきな!? お金で万事解決って便利ですね!? また今度使ってみましょう。
エレインは思いつめた表情を浮かべていた。それに気づいた凛花。
ーーえっ。そんなに私の言い方ってキツかったですかね?
「エレインさーー
「アーサー様ご相談があります!」
「そっ相談?」
ーーあーびっくりした!
もじもじするエレインさん。
「実は弟が重い病でしてアーサー様に診てもらいたいのです!」
ーーあっそういう事情がありましたか! 断る理由がありませんね。喜んで診ましょう! 医者じゃないけどね!
「分かりました」




