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湯けむりイベント2

 

 凛花は只今物凄くご立腹です。理由は大浴場での美女の件についてである。


 ーー女の敵は許せません!!


 ふん! ふん! と鼻息荒く歩みを進める金髪の少年。ほかほかとガウンから覗く肌から湯気が立ち上る。ずっと後ろにいた同じくガウン姿のマーリンが[WOMAN]の暖簾の前に立ち止まっている。



「のぉリンカ〜面白い事になっておるぞー」

「私は今それどころではありません! 直ぐに王様に直談判しに行きます!」

「アーサーが女湯に入って行ったぞ〜」



 ピクッ ギギギギギ

 立ち止まった凛花はマーリンに向き直る。マーリンはスライドドアが僅かに空いてるところを指差した。



「ほれ。この隙間に金貨が入って行ったぞ」

「アーサーああああぁぁぁ!!?」



 怒り狂った凛花は暖簾をくぐりスライドドアを勢いよく開けて、更に奥のスライドドアを開ける。女性達が顔を引きつらせた。



「いやあああ!!!」

「ちっ痴漢よおお!?」



 女性達が慌てて肌を隠して風呂桶を「出てけー!!」と凛花に投げ飛ばす中を上手いことかわしながら進む凛花。完全に自分が男の姿だと忘れている。


 ーーアーサーはどこですか!?


 血眼に捜す凛花にドアの向こうから『馬鹿!! 俺はここだ!!』とアーサーの声が聞こえた。脱衣所にギラギラ光る金貨があった。



「何してんですか!!?」

『お前もな!! 俺の身体だって事忘れてねえか!!?』

「そんな事どうでもよろしい!! 今すぐ出て行って下さい!!」

『お前もな!! あっ後ろっっ』



 ガコーーンッ

 女性が投げた風呂桶が凛花の頭にクリーンヒットし凛花は意識を手放した。



 * * * *



 頭がずきずきと痛む。意識がぼんやりと痛みで浮上して凛花は目を開けた。濃い赤の布が一面に広がる。


 ーーこれは天蓋? もしかしてアーサーの部屋?


 アーサーはカメロット城に住んでいるので専用の部屋があった。大浴場に行く前にここに通されたので見覚えがあった。起き上がろうとして後頭部がズキっと頭が割れそうな程痛かった。手で抑えると僅かに膨らんでいた。たんこぶが出来たようだ。



『お前は良く気を失うんだな』



 金貨がベッドの端にあった。



「何があったんでしょうか? たんこぶが痛いです……」

『そりゃたんこぶできたら痛いわなぁ。女湯入ったの覚えてるか?』

「アーサーを追いかけて入ったのは覚えてますよ。……あっ」

『覚えているのなら何より。そして、それがとんでもないことだと気付いたな?』

「あー……。アーサーさんがいけないんですよ? ほら、私女ですし。ははははは」

『お、俺は仕方がないだろう!? この姿になったら男なら誰だってやる!』

「えー。それは知りませんよ。私女ですから。ははははは」

『そ、そうか俺は男だからお前の気持ちは分からんな』



 お互いに男だから女だからと言い訳していると寝室の扉が開いた。ビクッと2人して扉を見るとウーゼル・ペンドラゴンが無表情で入ってきた。お偉い方の登場に凛花は痛みが吹き飛びさっと上体を起こし正座になった。王様は凛花の側にきた。怒られると思いピシッと固まる凛花。



「なあアーサー殿。男と女どっちが好きなのだ?」



 予想外の質問に「はい?」と首を傾げた。王様は真面目な表情である。



「風呂場で世話を焼く者の話では、勇者は男にしか興味がないと聴き。女湯からは勇者が覗きにきたとクレームがきて私は頭が混乱してるのだ」



 ーーそれ真面目な話ですか? いっそのこと怒って下さい。私が惨めです。



『おまっ!? 俺の姿で男にしか興味ないって言ったのか!?』



 ーーあっ。そうだ私王様に怒んなきゃ!



「浴室のお姉さん達はいったいなんなのですか? あんな事をさせるなんて酷いです!」

『え? 何させたの? 俺の身体で何したの?』



 王様はへ? と目を見開く。


 ーーとぼけるつもりですね! お姉さん達は私が守ります!



「いかがわしい事をさせるつもりでしたよね! 私は許しません!」



 王様はふむと考えた。



「わかった。次からは男にしよう」

『それだけはや〜め〜ろ〜!!』

「……」



 イケメンが「お背中流しましょう」とキラキラと爽やかな笑顔で言う姿を想像して鼻血が出そうになった。


 ーーくっ。めげるもんか!!


「男でもダメです!」

『真っ赤な顔で言うんじゃねー!』

「なるほど、アーサー殿はグウィネヴィアの為に貞操を守ってくれるのだな! 良い婿殿だ」

『……』



 ーーあっそうか。アーサーには婚約者がいましたね! その方の為に貞操を守らないといけませんね! ……私がアーサーの身体にいる時点でどうかと思いますが。うん。そんな事よりも



「それがなくても、民に色仕掛けなような事を強要しないで下さい!」

「強要はしてないぞ。ああいう場でお近づきになり関係を結びたい者はいるのだ」

「え。嘘っっ」

「勇者様は潔癖な精神を持っておられるようだな。すまんかったな。流石神に選ばれる方だ。以後気をつけよう」



 王様は柔らかく微笑み部屋を出て行く。もやもやした。王様に流石だと言われても褒められた気がしなかった。


 ーー綺麗事では片付けられない と言いたいのですね。


 手を握りしめ遣る瀬ない気持ちを抑えた。思い出すのは落胆する母の表情。


 ーーそれぐらい知ってますよ。



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