王との謁見+湯けむりイベント1
白髪が目立つ肩まで長い灰色の髪の王はアーサー(の身体の凛花)に朗らかに笑いかけた。
「疫病の件はご苦労であった。ゴールドを惜しみなく使い奇跡を使ったとか。それに新たな奇跡も起こせる様になったそうだな。おまけに疫病の原因まで知っていたとか。勇者様の博識には脱帽だな。感謝する。依頼料として約束の500ゴールドを支払おう」
ーー王様ってもっととんでもない人かと思いましたが、優しそうな人ですね。というか、村長からももらったのにこれ以上はもらえませんよ。
「陛下。お気持ちだけで結構です。人助けは人として当然の行い。そのお金は貧しい民の為にお使いください」
「なんとっっ。貴殿がお金をいらないだとっっ。魔王は明日天使になるな」
目をカッと開いてめちゃくちゃ驚かれた。
ーーあっ。しまった不自然でしたか。魔王が何ですか?
横にいるトリストラムにこそっとどういう意味か聞いてみた。
「魔王が天使になるほど有り得ないことという意味だ」
ーーな、なるほど、アーサーよ。そんなこと言われてますよ?
ちらっと右隣りのマーリンの帽子のつばに乗っかるギラギラ光る金貨を見た。
『王様笑えたんだ』
ーーえっそっちのが驚きましたが。というかどうしましょう。やっぱりお金いりますってのは言いづらいです。
王様はふっとまた朗らかに笑った。好々爺って感じですね。
「貴殿の言う通りに依頼料は民に配るとしよう。その代わりに今晩はおもてなしをさせてくれ」
ーー良かった。これでパンをあげた子達もきっと救われますね。
凛花は笑みを浮かべながら「はい」と返事した。王様は目を見張った。
「笑えたのか」
ーーよっぽど無表情だったのですねこの御二方は。
そしてこの後「はい」と答えたことを後悔する。
* * * *
[MAN]と書かれた暖簾をくぐりガラッとスライドドアを横にずらして入る。後ろからついてきた黒いとんがり帽子を被った幼女は後ろ手にドアを閉める。とんがり帽子を外して前にいる金髪の17歳の少年を見上げた。少年は思いつめた表情をしていた。幼女はにやりと笑う。
「準備は良いか?」
「……」
「また手伝ってやろうか?」
「っっ!?……結構です」
木製の棚に蔓でできた籠が仕切りごとに1個づつ入ってる。水捌けの良い木製の床。凛花はプレートアーマーを外し棚の上に載せるとなるべく下を見ないように一思いに服を全部脱いだ。置いてあるバスタオルを素早く腰に巻き、ふうっと息を吐く。脱いだ服を簡単に畳んで籠に入れる。
「マーリン準備はできーーーー
「出来ておるぞ。おぬしは一々大変じゃな」
ましたか? と言おうとして凛花は固まった。マーリンは裸であった。
ーーそれはまあ良いとして……そんな……まさか。
「マーリンって男の子だったんですか!?」
思わず下半身を凝視してしまった。
「なんじゃおぬし儂は性別まで変えれると思ったか? 残念ながら年齢しか変えれんぞ」
「え!? じゃあ男の子なのにワンピース着てたの!?」
ーー可愛らしい魔女っ子の姿に騙された!
「まぁ。それには深いようで割と浅い理由があるのじゃ」
「ちなみにどんな理由ですか?」
「恥ずかしいで秘密じゃ〜」
「浅いのに!?」
ーー何というかマーリンって底が知れませんね。魔法使いや魔女ってみんなこんなもの?
ガラッとさらに奥にあるスライドドアを横にずらして入った。タイル張り大きなお風呂があった。銭湯より広いし浴槽がでかい。幼い天使の白い石像がもつ壺からお湯が出ている。視界の端に見えた人影に少し驚いた。湯着を着た肉付きの良い美女が2人いたのだ。「あっ。どうも」と会釈した凛花は美女を尻目に木製の桶で湯船の湯をすくって身体に流す。後からついてきたマーリンは「美女じゃ〜。良いの〜」とお姉さんに駆け寄り抱き着いた。それに気づいた凛花は「エロじじいでしたか」とじとりと見つめた。
「アーサー様お背中流しましょう」
美女が胸の谷間を見せつけるように触れそうなほど近くで屈む。
ーー……私への当てつけか?
生前の凛花の身体付きは全体的に細かった。胸もないに等しい。美女の谷間を見せつけられ、ちょっとイラッとした。距離を置いて再び身体にお湯を流した。美女は構わず距離を縮めてきた。ちなみにマーリンはもう1人の美女に身体を洗ってもらってる。
当然この世界に凛花の生前の姿を知る者はいないのだが、アーサーの身体を見ないように意識している凛花にそこまで考える余裕が無かった。
背中にひやりとした手を置かれて思わず振り払ってしまった。男の力で振り払われた美女は濡れた床と相まってすっ転びそうになった。
ーーあっ。
考えるより先に身体が動き背中と膝の裏の部分を支えた。図らずもお姫様抱っこをしてしまった。固まる凛花と美女。
「よっ。男前!」とマーリンがからかう。
ハッと正気に戻った凛花は美女の顔を覗き込む。
ーーいっけない。私としたら同じ女性に対して酷いことをしてしまった。
「ごめんなさい。怪我はありませんか?」
「…………はひ」
ーーはひ? 湯気のせいか顔が赤いですね。
そっと床に下ろして自分のおでことお姉さんのおでこに手を当てて体温を比べてみた。
ーーうん。お風呂場だからよくわかんない。
そして今さらな質問をした。
「何でお姉さん達此処にいるのですか?」
「……えっと、その、お背中を流すようにと言われまして」
もじもじと裾の短い湯着をいじるお姉さん。ピコーーンと凛花は察した。思い浮かんだのは、いつぞやマーリンに服を剥かれた場面。よいではないかよいではないかあ〜れ〜。
ーーあの王様女性に何っつう屈辱的な事やらしてんですか!
怒りで震えた。拳を握りしめた凛花はお姉さんを安心させようと口を開く。
「安心して下さい! 私は普通に男しか興味ありませんから!」
その後、凛花は入浴しようとするランスロットとトリストラムに「お姉さん達に手を出したらタダじゃおきませんから!」と釘を刺す。目を点にさせる二人は1人の美女から嫉妬の目で影から睨まれるのであった。
こうしてアーサーは露出狂の他に、男色というたいへん名誉な称号を得たのであった。




