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アーサーの過去のお話2

 

 聖剣に選ばれたアーサーはカメロット城まで護送され貸切の大浴場で身綺麗にし用意された赤いジャケットに黒いボトムスの宮廷服を着せられた。貴重なお宝級の価値があるガラス鏡に映し出された自分の姿はお貴族様って感じで少し引いた。


 マーリンに連れられ国王との謁見となった。赤い絨毯が敷き詰められた謁見の間の段差の上の玉座に座る偉いお方。



「よくぞ参られた。私はブリテンの王ウーゼル・ペンドラゴンだ。貴殿の名は?」



 白髪の目立つ灰色のオールバックの肩まで伸びた髪に金の王冠をつけた王様は無表情でアーサーを見ていた。


 スラム育ちのアーサーに宮中の礼儀作法など分からん。アーサーは跪くことも顔を伏せることもせずに仁王立ちして国王を真っ直ぐに見た。



「アーサーです」



 誰もアーサーの態度を咎めなかった。国王は「ふむ。アーサーか。以後よろしく頼む」と長い髭を撫でた。後ろに控えていた姫をアーサーに紹介する。


 アーサーの胸がざわついた。彼女の表情や仕草、発する声に全神経を集中させる。


 ーーグヴィネヴィアはどう思うのだろうか。俺が夫だなんて嫌がられたりして。


 自分の心臓の音が聞こえるんじゃないかってぐらい緊張した。


 アーサーを見つめる銀の瞳が優しく細められた。



「グヴィネヴィアです。未来の旦那様」



 どきりと心臓が鳴った。顔が熱くなったのは気のせいか?

 紅がひかれた唇から目が外せない。



「おやおや。これを気に入ったようで良かった。なあグヴィネヴィア」

「はい。お父様」

「アーサー殿。これからは王になるべく勉学に励んでいただきたい。城に滞在する間の世話は娘に任せる。なにぶん不出来な娘のため至らぬ点もあるだろう。その時は罰してやってくれ」

「……罰するなどそんな事はしません。姫は俺の命の恩人のようなものです」



 ーー大事な1人娘のクセに扱いが酷くないか?


 国王のグヴィネヴィアへ対する扱いに不満を覚えた。


 国王はグヴィネヴィアに「命の恩人とは?」と問う。グヴィネヴィアは「何のことか分かりません」と首を振る。艶を帯びた銀の長い髪が窓から射し込む光を反射して美しかった。


 グヴィネヴィアはアーサーの顔を覚えてないのかと疑問に思った。そして、もしかしたらと気づいた。


 ーー俺が貧民だって事を隠しといてくれてるのか? 俺のことを気遣ってくれてるのか。


 今ならグヴィネヴィアが何をしようと好意的に受け取れるアーサーであった。



 * * * *



 謁見の間を出てグヴィネヴィアはアーサーを滞在する部屋へと案内する。貧民や庶民と違って綺麗で柔らかな手をアーサーは握った。グヴィネヴィアはびっくりして目を丸くした。



「俺がなっても良かったのか?」



 グヴィネヴィア本人の意思が知りたかった。何の事かを理解するとグヴィネヴィアは握られた手にそっと手を添えた。



「はい。貴方で嬉しいです。私は選べない立場でしたがこの幸運を神に感謝いたします」



 ほっとした。独りよがりだとわかっていたが間違ってなかったと安心した。



「アーサー様は何のために王になったのですか?」



 ギクリと身体が強張った。まさかグヴィネヴィアの為を思ってなど言えない。むちゃくちゃ重たい奴だと思われたくない。



「……金に困らないからな」



 間違ってはない筈だ。王様は金に困ることはない。



 * * * *



 それから数日後、アーサーのお披露目が目的の舞踏会が開かれた。踊りなど全く踊れないアーサーは食べることに集中しようと思ったが媚を売りたい貴族に捕まってそれが叶わなかった。



「輝く金の髪に澄んだ空の色の瞳。優れた容姿でございますな。アーサー様は王になるべくして生まれたのです」



 ふくよかなお腹のお爺さん貴族は手を揉み擦り寄ってくる。


 ーーよく言うな。コイツらは貧民を人だとも思ってないクセに。


 ある程度マナーを習ったアーサーは仁王立ちをやめて背筋を伸ばして立っている。毎日使用人達にケアされる髪は跳ねることもパサつくこともなく綺麗にまとまっている。確かに見た目は整ってきた。


 お爺さん貴族はにやりとアーサーの耳元で囁いた。



「姫は浮気者でございます。貴方様も愛人の1人でもつくっては?」



 ずっと黙っていたアーサーはこの言葉にカチンときた。グヴィネヴィア姫を貶める言葉は許せなかった。



「失せろじじい」



 この言葉にお爺さん貴族は顎が外れそうなほど驚いた。



「な、なんと下品なっっ。やはり下賤の者だという噂は本当でしたかっっ」



「チッ」



 周りが何事かと注目する。アーサーは不愉快でその場を立ち去った。数日しか学んでない急場凌ぎのマナーなど消し飛んだ。給仕が持つお盆の上のグラスに入ったワインを掻っ攫うと一気に呷った。(注意。ブリテンではお酒は16歳からです。アーサーはギリギリ飲酒できます)



「マズっっ!? おい何だこれは!?」

(アーサーは初めてお酒を飲みました)

 ーーしぶっっ!!


 給仕のお兄さんは「カメロットワイン30年ものです」と生真面目に答えた。



「……あっそう」



 ーーもうカメロットワインなんぞ二度と飲まんぞ。あーなんか暑くなったな。


 襟元を緩めて涼みに外の庭に出た。


 芝生に低木樹が多い庭。白い柱が6本円を描いて置いてありその上にドーム型の白い石の屋根があるオブジェ。その屋根の下に女性の影が見えた。


 ーー人に会いたくない気分だわ。


 オブジェを避けてどこかその辺に行こうと足を進めようとして銀の髪が月明かりに照らされたのが見えた。


 ーーえっ。グヴィネヴィア?


 足が縫いつけられたように動けなくなった。視線はオブジェへと吸い寄せられる。


 酔いが覚めた。銀の髪の人影が2人。



 2人の唇のシルエットが重なった。



 アーサー様は何のために王になったのですか?



 ーーそんなの金のために決まってるだろ。


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