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アーサーの過去のお話1

 

 あれは7年も昔の事だ。孤児だったから正確にはわからないが俺が多分10歳の頃、スラム街に慈善活動をしにきたグウィネヴィア姫に出会った。俺より少しだけ身長の高い彼女は俺のぼろぼろの服装を見て僅かに顔をしかめたが、すぐに美しい笑みを浮かべ食事を配った。


「元気になって下さいね」


 心にもないことを言ってるな。と思い俺は食事を受け取りながら「()い気なものだな」と言ってやった。


 王族は上から目線なやつらばかりだ。スラム街の住民を見て、裏では嘲笑っているに違いないと思い込んでいた。


 グウィネヴィアは微笑みながら「王族の務めを果たしてるまでです」と答えた。


 ーーなるほど、王族じゃなきゃこんなことをしないのだな。


 少し苛立ちながらこの時から俺はグウィネヴィア姫の事を気になり始めた。




 彼女は何度も慈善活動としてスラム街で食事を配った。貧民達はそんな彼女の姿勢を好意的に受け慕っていった。良く彼女に嫌味を言ってあしらわれていた俺もいつしかその1人となった。




 6年経った。こんな御触れが出された。


[聖剣を抜いた者は王となりブリテンを導く]


 なんでもロンドンにある大聖堂の庭には聖剣が刺さっており、それを抜いた者は次期国王となりグウィネヴィアを娶る事が出来るそうだ。資格を持つ者は男性のみ。男尊女卑が当然な一神教が根強い影響力を及ぼすブリテンでは女性を王にするなどあり得ないし、グウィネヴィア姫の意思も尊重されない。


 ーー彼女を娶るのが傍若無人で暴力的な奴だったらどうしよう。彼女は誰が夫となっても耐えなければならない。それならば、俺がなった方がマシなのでは?


 気がつけばカメロットを出てロンドンに来ていた。



 大聖堂には大勢の男が集まっていた。幼い少年から腰の曲がった老人までいた。カメロットを出てから何も食べてなかった俺は裕福そうな貴族様から金をすって出店でご飯を買った。


 ーーまあ。こんな俺が聖剣を抜けるとは思わないがな。


 身分卑しいスラム街の貧民な自分が何を必死に守ろうとしてるのだと嗤いが込み上げた。


 列に並んで丸一日経った。一攫千金を夢見てブリテン中の男が集まったのだろう。皆一日中並ばされても文句は言わず目は希望に溢れている。口々に「もしも王になれたら何がしたい?」と問う。

「俺は世界を回ってみたい」

「僕は王様になって威張りたい!」

「儂は楽したい」と皆グウィネヴィア姫目当てではなさそうで少し安心する。まあ「世界征服!」とか「美女をいっぱい侍らすんだ」と言う輩もいた。


 ーー頭が弱そうだな。俺もしょうもない理由だが……。


 グウィネヴィア姫を助けたいという願い。そんな心に神様が気づいたのかアーサーはこの後数奇な運命を歩む事になる。


 大理石に刺さった剣が見えた。吹きさらしの場所にあり太陽の光を浴びて金色の柄も鍔も鋼鉄の刀身も眩いほど輝いていた。それを掴み引っ張る大男の顔には脂汗が流れた。「ふんぬっ」と歯を食いしばり顔が次第に真っ赤になり、これ以上は無駄だと分かった審査員の魔法使いが「やめよ」と声を掛ける。大男は残念そうに手を離した。


 ーー力を込めてもビクともしない。これだけ大勢が試しても抜けないか。俺では無理かもな。


「はー」とため息を吐いた。俺の番に回ってきた。頰のシワが目立つ高齢の魔法使いは俺をじーとまぶたの垂れた目で見つめていた。その瞳が不気味で少し恐ろしくなった。


 ーー何見てんだよ! たくっとっとと終わらせて帰るか。


 ひやりと冷たい柄を右手で掴み引っ張るとーーーー


 パアッ


 ギラギラとした光を聖剣が放ちながら、スッとすんなり抜けた。


「えっ!? 抜けたっっ!?」


 カラン


 聖剣から情報が入ってくる。


 おめでとうございます。

 職業・勇者・盗賊 獲得。

 光属性(金)獲得。奇跡が出現しました。


 光属性(金)

 奇跡

 ・お金で万事解決(ゴールドサルヴ) (ゴールドを消費します)


 職業・勇者・盗賊


 ーーこれが聖剣っっ!? ヤベェヤベェよ!? まさか抜けるとは思わなかった!!


 聖剣が抜けて最初に思ったのは安堵でも歓喜でもなく焦りだった。聖剣のギラギラ光る刀身を見つめながらだらだらと冷や汗をかいた。俺への周りの視線が痛かった。


 魔法使いが俺に近づき骨張った手で肩を叩いた。


「おめでとう。おぬしが次期国王じゃ」


 周りは騒然となった。


「あんなぼろっちいガキが国王だって?」

「おいおい。大男の時点で緩んでたんじゃねえの?」

「爺さんよ。もう一度やり直してくれねえか? みんな納得いかないらしい」


 魔法使いは「良かろう。すまぬが戻してくれぬか」とやり直しをさせた。俺は素直に従った。


 ーー良かった。……いや、良くないか。


 別のまだ参加してなかった連中で剣を抜いてみても結局ビクともしなかった。そして、この場にいる全員がアーサーのことを時期国王と認めた。魔法使いが深々と俺に頭を垂れた。


「アーサー。儂は魔法使いマーリン。おぬしに予言いたす。この先おもし…おっと失礼、波乱に満ちた人生になるであろうがどうかその尊き愛を忘れずに歩むのじゃ」


「……波乱ですか。……愛って何の事ですか?」


 ーー波乱は分かるが、愛って?


 アーサーには恋人はいないし、好きな人もいない。愛というワードに当てはまる人はいない。


「神様はお見通しらしい。じゃが、儂は心苦しい。その愛がおぬしを苦しめるであろう」


 その意味をアーサーは割りとすぐに思い知らされるのであった。


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