表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/27

がめつい勇者

 

 そこは疫病が蔓延する貧しい村。勇者一行は国王から疫病の原因究明を依頼された。


 後頭部に両手を載せ怠そうに歩く勇者アーサー。手入れを怠りくすむ短い金髪はあちこち飛び跳ねており、空色の瞳は死んだ魚のような目をしている。赤いマントに太陽に反射して輝くプレートアーマー、腰に帯びた金色の柄と鍔に宝石があしらわれた長剣。素材と身なりは勇者だったが、オーラが会社帰りのくたびれたサラリーマンである。


 アーサーの斜め前にいるのは、サラサラの長い銀髪の騎士ランスロット。鼈甲(べっこう)色の垂れ気味な瞳は優しそうに細められている。首の詰まった白い騎士服。長身で見目麗しい顔つきの男性だ。


 ランスロットの横にいるのは、大きな黒いとんがり帽子が目立つ魔女っ子マーリン。黒いショートカットの髪に黒いまん丸なおめめ。ひらひらな裾と襟と袖の黒いワンピース。小柄な容姿は幼女にしか見えないが、実年齢はこの中で一番上である。


 マーリンの前にいるのは、顔に大きな傷跡がある騎士トリストラム。褐色の肌に燃えるように逆立つ短い赤い髪に力強い赤い瞳。白い騎士服の上着は袖からビリッと破れており、前のボタンは全開だ。ムキムキな鍛えられた肉体は強そうである。


 村人が数人勇者一行の前に立ちはだかった。


「……おいまて! そいつは魔女だろ? 魔女は生かしておけない! こっちに渡せ!」


 ガリガリに痩せこけた村の男はくわを向けて勇者一行を脅す。力量の差は一目瞭然で比べるべくもない。それでも村人は無謀にも勇者一行を罵倒する。


「村から出て行けー! こちとら魔女の所為で散々なんだ! 魔女の使いである黒猫を退治した途端に呪いが広がった! 魔女の呪いに違いない!」


「そうだ! 全部魔女が悪い! そして、それに与する仲間も同罪だ! 殺してやる!」


 いきり立つ村人達。厳つい顔を顰めるトリストラム、心を痛め顔を伏せるランスロット。アーサーはそれは好都合と言わんばかりににっこりと笑う。


「んじゃ。こいつらの言う通りにかえろーぜー」


 ふふん〜♪ と鼻歌を歌いスキップして引き返すアーサー。マーリンは「儂は魔女ではない魔法使いじゃ」とどうでもいい文句を言う。


 火に油を注ぐアーサーのふざけた態度。さらにマーリンは魔法使いだと認めたことにより村人の怒りは頂点に登る。


「やっちまえ〜!!」


 村人は勇者一行に斬りかかるーーその直前、1人の老人の声が響いた。


「待たれよ。その方達は国王の使いだ。傷付けてはならん」


 ツルピカの頭に長い白い髭の老人、村長が村人を制止する。村人はその言葉にぴたりと止まる。


「そ、村長! でも1人は明らかに魔女です! 今村を襲う呪いの元凶なんですよ!?」


 村長は村人に歩み寄り目を正面から見つめる。


「それは神に誓って真実だと言えるか? 」


「そっそれはっっ!? でもみんながそうだって言うんですよ!?」


 魔女が呪い即ち疫病の原因だと決めつけていたが、事実なのかは誰も知らない。


「この方達はな、村を襲う疫病の謎を解き明かす為にわざわざ来てくださったのだ。それにそこの金髪の方は勇者様だ」


 村人達は騒ついた。


 ーー勇者だって!?

 ーーブリテンを魔王から救ってくれるあの勇者か!?

 ーー未来の国王陛下!?


 勇者……それは国王よりも偉い方。そうこの国ブリテンでは認識されていた。


 村人は掌を返した様に跪いた。アーサーはつまらなさそうに戻ってきた。


 ーーあーあー。せっかく面倒事から解放されると思ったのに残念だ。


 アーサーは耳をほじくりながら村人の言葉を聞いた。


「勇者様!」


「勇者様!」


「勇者様!」


「「「どうか、お金はとらないで下さい!!」」」


 ーー勇者は人々からお金を巻き上げる守銭奴! このクズめ!

 ーー元スラム街の貧民で手グセの悪いスリの名人! 油断してはならない!

 ーー国王からどんだけ大金もらってんだ! がめつい勇者め!


 同時に国民から物凄く嫌われていた。


 そんな事を気にしない勇者は平然と言ってのけた。


「やだね」


 勇者が通った道からは金が消える

 そんな名言がブリテン中に広がる程アーサーはお金に目がなかった。


「呪いを解き明かす代わりに金を寄越しな」


 死んだ魚のような目からは情というものを一切感じなかった。ランスロットは精神的な原因の胃痛を我慢しながらアーサーを諌める。


「アーサーこれは陛下からの依頼であって、村人から金を巻き上げるのは間違っているぞ!」


 心優しい騎士であるランスロットは貧しい人々からお金を巻き上げる行為を許せるはずがなかった。アーサーがブリテンでただ1人の勇者で無ければ遠の昔に見限っていた。悲しいがな。ブリテンを震撼させる魔王を倒せるのは勇者であるアーサーしかいない。よって見捨てて死なれたら困るのはランスロットを含めたブリテンの国民達である。だから、せめて文句は言わせてほしい。

 ーーこのクズ野郎! 疫病に苦しむ村人からお金まで奪うとはそれでも血の通った人間か!?


 トリストラムは大仰に頷いた。


「ランスロットの言う通りだ。アーサーここは引け」


 トリストラムは人情味溢れる熱い漢だ。アーサーの無情な言葉を許せる筈がない。何度もアーサーと喧嘩になりパーティから何度も離脱するがランスロットが必死に説得するので毎回しぶしぶ戻ってくるのだ。


 マーリンは「お金はあるに越した事はない」とアーサーに賛成の様だ。


 アーサーは鼻で笑った。


「マーリンわかってんじゃねーか。それに比べてこいつらときたら綺麗事ばかり。これだから金に困った事のない連中は嫌いなんだ。で? どうなんだ村長様? 金は出るのかよ? こちとらボランティアじゃないんでね」


 村長は怯えながら「もちろん。呪いを解いていただけたらお払いします」と答えた。


 アーサーは眉間にしわを寄せた。


「ちっちっちっ。前払いで頼むわ。じゃなきゃやってられん」


 村人達は怒りで震えた。

 ーーこいつ。金もらったら逃げる気だろ!?


 もちろんアーサーはそのつもりだ。

 ーー意味不明な呪いの原因究明などやってられん。金もらってずらかるぜ。金金〜♪


 そんな事が果たして許されるのだろうか? それを罰する神はいるのだろうか? この世界にはいます。


 アーサーの頭に落胆した男性の声が響く。


 ーー「そなたには失望しました。最早かける言葉もないです。これから罰します。せいぜい後悔しなさい」


「んだぁ? また神様のお説教か? もう聞き飽きたわ。うんざり」


 神の声は勇者であるアーサーにしか聞こえない。村人と村長は騒ついた。

 ーー勇者は神様の声が聞こえるって本当だったんだ。

 ーー本当に勇者なんだ。クソが。

 ーーああ。神よ。何故よりによってそいつなのですか? もっと相応しい者がいたでしょうに。

 ーー腐っても勇者か。無下には扱えんぞ。

 村人と村長はこの世の無情を嘆いた。ご心配なく。もうすぐ勇者に鉄槌が下されます。


 村の上空、灰色の雲が渦を巻きながら集まってくる。なんだ? と騒つく村人と村長に勇者一行。アーサーは相変わらず耳をほじくっていた。マーリンは「ふむ。面白い事になりそうだ」と楽しそうに雲を見つめた。


 ーー「裁きの鉄槌(ジャッチメント)!!」


 ドッカーーーンッッ!!


「うおぉぉぉぉ!?」


 雷がアーサーの脳天を貫いた。アーサーはその場にパタリと倒れた。

お読みくださりありがとうございます。このアーサーはとんでもない人だけどきっといいところもありますのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ