「偽」紅蓮
高校生の時に中国語で書いた小説を日本語に訳してみました
なので 文章表現がおかしいところもありかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします!
2014.9.6
紅蓮の花言葉:父の花
緑に染まった蓮池、水底で揺らぐ大きな蓮の葉。一輪の紅蓮花は、一面に広がる蓮池を、まるで星が夜空を照らすように綴るかのごとく、風の中で微かに揺らめく。
少女の名は紅蓮。かつて彼女の父が偶然にもダイアモンド鉱山の採掘に成功し、莫大な財産を手に入れた。一つの小さなきっかけが、少女の父に新たな人生への道を切り開いた。ボロボロな小屋はなくなり、その代わりに、華麗で立派な豪邸が建てられた。
少女の父は大いに喜んだ。手に入れた財産を無駄にさせないように、彼は一部の金銭を新たな事業に投資した。何度も何度も。
いつの間にか、彼は馬車を手に入れ、土地を手に入れ、また屋敷のお手入れのために使用人もたくさん雇った。
少女は父が仕事に夢中になっていく姿を何も言わずに眺めていた。ただ無言で、父が彼女のために雇ってくれた秘書を受け入れた。ただ無言で、忙しい父の影の届かないところで、密かに成長していた。ただただ無言で、なんの不満もなく、徐々にぼやけ始める面影を見つめていた。彼女は知っている━━紅蓮は父の花。父の行い全ては彼女のためだと。
少女はもう18歳。止むことなく遠ざかっていく後ろ姿。振り返ることのない彼の顔は、モザイクがかけられたかのように霞んでいた。
だが少女は鮮明に覚えている。誰が、誰が彼女の授業参観に見に来てくれたのか、誰が毎日彼女を迎えてくれたのか、誰が彼女が忘れた弁当箱を持ってきたのか、誰が彼女が強盗にあった時に肩を優しく抱きしめてくれたのか、誰が火の海で気を失った彼女を猶予なく助けてくれたのか。。。。誰?
ゆっくりと目を開き、彼女の澄んだ瞳に映しだしたのはのは、ずっとそばにいてくれた秘書の顔だった。
優しく、愛しく。
少女は18歳。一番記憶に刻むべき面影を、忘れてしまった。
だが少女は鮮明に覚えている、卒業式の日に、秘書と一緒に学校に向かう道中、事故にあったこと。目の前が暗闇に遮られた瞬間、恐怖が全身を絡みついたこと━━意識が途切れる寸前、馴染みのある両手が、彼女をギューッと抱きしめたこと。
少女だけは生き残った。しかし脳部に衝撃を受けたため、一部の記憶を失った。
「紅蓮!?」男は悲鳴を上げ、少女が寝転がっているベッドに駆けつけ、乱暴にも彼女の手を取り、自分の胸元まで持っていき強く握り締めた。震えながらも、男の干からびる涙が少女の手にこぼれた。
「い。。。。いたい。。。。」少女は眉をしかめた。感じたのは、手が握りつぶされそうな痛みだけだった。
なにも思い出せない。
紅蓮?
少女は目をつむった。彼女はこの言葉を聞いたことがある。もっと優しく、聴き心地のいい声だった。だが目の前にいる男の声はこんなにも枯れていて、まるで彼女の心を引き締めるようだった。
「紅蓮!!私はお前の父親だ!わかるか!?」男は思わず叫んだ。
父親?━━少女は目をゆっくりと開いた━━違う。この人は私のお父さんなんかじゃない。
三日後、少女が庭で散歩していた時のこと。一人の使用人が何かを両腕に抱え、顔をうつ伏せながら彼女のそばを走っていった。
少女の足はピタリと止まった。「待って!」
振り返った使用人が抱え込んでいたモノに視線を送った刹那、彼女の呼吸は荒くなり、手が震え始めた。次の瞬間、彼女はスタスタと使用人に向かって歩いていき、断りもなく、両腕に抱えていたそのモノを奪い取った。
それは秘書の写真だった。
いつまで眺めたのか。いつの間にか、少女の父が彼女の後ろに来て、ポツーンと立っている彼女の肩に手を当てた。
「紅蓮?どうかしたのか?」
少女の肩は震えていた、振り向いた頬には涙の跡が際立っていた。
「私に隠さなくても良かったのに。」彼女は口を開いた、元気のない声だった。
戸惑いながら、少女は息を大きく吸い込んだ、そして再び手元の写真に視線を向け、言葉を紡ぎだした。「私が自分の父親を忘れるわけないじゃないですか。。。。はっきり覚えています、あの日、学校に行く途中に事故に遭い、父が私を守ってくれたこと。。。。きっとこの人だわ、間違いないわ。だってこの顔だけははっきり覚えていますもの!」少女は片方の手を出し、写真の真ん中に写っている人の顔を優しく撫でた。「私に教えてくれても良かったのに、これは私が受け入れなきゃならない事実なんです、だって。。。。だって父は私のために。。。。」少女は口を閉じ、言葉を絶った。
その隣に、少女の父は彼女に何も語れなかった。
緑に染まった蓮池、水底で揺らぐ大きな蓮の葉。葉の上には、一輪の紙でできた偽の紅蓮が、風の中で微かに揺らめいていた。一枚、二枚と。。。。紙でできた花びらが水面にひらりと落ちていく。
紅蓮はもう父の花ではなくなった。紅蓮は自分の父親をわからなくなった。
だがこれもまた必然なのかもしれない。なにせ、偽紅蓮がいる蓮池は、既に黒に帯びた灰色に染めらていた。偽紅蓮、灰色の蓮池━━不協和感ばかりだ。