第六話 ベルファスト王国 後編
高野管理官に通された部屋は、宿舎の部屋と似た作りだが、サイズは一回り大きい。
しかも、心なしか壁も分厚い気がする。
会話に対する多少の防御は、なされているようだ。
「それで、あなたたちをここに呼んだのは私なのよ。」
奥の大きな椅子に座り、足を組みながら高野管理官が何かを誘うような感じで話し始める。。。
この人っていちいちセクシーなんだよなあ。
今も胸元を強調してるし。。。
普通に生活していたら、そんな格好しないでしょうに。。。
って、こっちの世界で何を誘うんだ?
トカゲ? エルフ? そういえば人間っているんだっけか。
計画書も暗号化されていて、文章の割に最低限の情報しか載っていなかった。
と、顔に出ない範囲でそんな思考回路を張り巡らせる。
美人で、仕事が出来て、いちいち男心をくすぐる先輩には、一生かけても勝てそうにない。、
ちなみに、僕らは校長室と同じく、右から浩志、蛍、義一、舞姫の順に並んでいる。
「あんまし聞きたくないですが、一応理由を聞いてもよろしいですか?」
義一が素晴らしい聞き方で質問をしてくれる。
ただ、なぜか標準語になっている。
「なぜって~? それは、あなた達が優秀だからよ~」
だからまた~そう言う喋り方するでしょ~。
知っているのに、危うく惚れそうになる。
今まで、どれほどの男がジャグリング張りに手玉に取られてきたのだろう。
どっちが “プレディター” なのか分からない。
「現在、我が国とベルファスト王国とは外交交渉をしているのはご存知でしょう?」
はいはい。知ってます。
「実は、王国が外交問題を抱えているのは、我が国だけではないのね。」
ほうほう。それでそれで?
「この大陸には他に、グラスゴー王国とレスター帝国という強大な2国が存在するのよ。」
なるほどなるほど。
この世界も一つにまとまっている訳ではないんですなあ。
ん?
それで?
「もうめんどくさいから、これ読んでくれるかしら?」
そう言って、彼女は机の中から20ページくらいの資料を取り出した。
「なんじゃそりゃ。」
4人が珍しくツッコミにまわる。
じゃあ最初から渡してくれたら良かったじゃん。
パッと見ではあるが、暗号ではなく普通の日本語で書かれている。
無駄に神経を使わなくていいことに一安心。
「え~なになにー。
ベルファスト王国は、現在、他二国と交戦中。その豊富な地下資源のためと思われる。」
蛍が手渡されたので、女子校生らしい可愛い声で読み上げてくれる。
もし舞姫が読んでいたら場の空気的にみんなが寝るというコントをしただろう。
「グラスゴー王国は、相手国の北西に存在し、強力な軍事力を有していると思われる。
一方でレスター帝国は、相手国の北東に存在し、学術面や魔法面で相手国を上回っていると思われる。」
なるほどなるほど。
その声で言われても戦争の報告書たる緊張感はないが、なんとなく分かった。
今、相手国は二国と争っており、日本と争う余裕はないのだ。
場合によっては、こちらの軍事力を活用したいということなのだろう。
「そこで我々は、ベルファスト王国と協力し、地域の安定に寄与することを決定した~。」
出た~。PKOの時とかによく登場するやつ。 ゛地域の安定………”
まあ、それ自体はいいことだと思うんだけどね。
綺麗さっぱりとしたい時に、僕らを頼ることはやめて頂きたい。。。
で、ちょっと横道にそれてしまったけれど、要はベルファスト王国の地下資源が欲しいから近代装備で無双しろってことだ。
後でマスコミにバレたらどうなることやら。。。
「だいたい分かった~?」
セクシーお姉さんがまったりと聞いてくる。
片手に持ってるティーカップはいつ取り出したんだ?
「はい!」
蛍が代表して返事をする。
「うん。元気がよろしい子ね~。」
男心をくすぐる者たちは、天然だろうが養殖だろうが、波長が合うのかもしれない。
「そういうことだから、相手が敵対してこない程度に内政を整えてあげて頂戴。」
よく考えてみれば、僕らが派遣されたのは、表向きは相手国の内政顧問だ。
国体が強ければ、必然的に国民性も軍事力も上げる。
だから、深く考えずに政治に口出しして、強い国を作ってもいい。
彼女はそう言いたいのだろう。
「でもね~。厄介なことがあってね~。」
これで終わりかと思いきや、彼女は新たな紙を取り出して話し続ける。
めんどくさいから、一気に渡してくれたらいいのに。。
「黙読してくれるかしら~。
読み終わったら燃やしてね~。」
暗号化された文章を渡される。
今までの緩い空気とは打って変わって、4人が少しずつ本気な顔に変わっていく。
書いてあることは、、、要約すると、
“政府の方針に歯向かう奴がいる。
そして、そいつらは裏でグラスゴー王国とレスター帝国、また王国内の不満をもつ貴族とつながっている” ということだ。
「困ったものよねえ~。」
管理官は、口とは裏腹に大して困っている様子はない。
「それで、僕たちは何をすればいいのですか?」
話の筋が見えないので、直接質問する。
「簡単なことよ~。
あなたたちは、普段は王都で政治談義をする。
緊急事態は、私のもとで動いてもらう。」
彼女は軽く言うが、こんな世界だから緊急事態なんてよくあるのだろう。
しかも、これで分かったのは、僕らは彼女の実働隊として呼ばれたということだ。
まとめておくと、
表向きは、内閣情報調査官 、ベルファスト王国内政顧問
裏向きは、公安零課 第666部隊 高野チーム所属
ということらしい。
日差しがわずかに差し込む部屋の中で、
これから起こるであろう惨事を前に、四人は不敵に笑う。
うふふふふふふ。
誰だか知らないけど、こっちは容赦しないので。
首を長くして待っていてください。
「では明日〜、王都へ向かいますので朝の8時に宿舎前に集合してください。」
「はい!」
「解散〜〜〜!」
高野管理官の甘い声が部屋中に響いた。