第四話 いざ異世界へ
2028年 4月1日。 午前9時 羽田空港第二ターミナル。
本日付で国立一ツ橋高校2年から内閣情報調査室に移動となった彼らは、四人揃って仲良く飛行機を待っていた。
高校は完全寮制だから、必然的にここまでの道のりも四人一緒となる。
「この景色も長らく見られへんねんなあ。 感慨深いものがあるわ~。」
義一がまわりの店や人ごみを見ながら、笑顔でつぶやく。
たしかに一度異世界に行ってしまうと、なかなか帰って来れないんだろうなあ。
辞令書にも一年間行ってこいって書いてあったし。
こんなに近代的な建物も、こんなに商品のあるコンビニも、多分あちらの世界にはないんだろうなあ。
いつもはそんなこと気にしない僕でも、つい感慨深くなってしまう。
しかし、逆に考えれば、この認識は人類学者がこっちの世界でやってることで、まったく文明レベルの違うあちらの世界に行けば、また何か新しい発見があるかもしれない。
よし、これをまとめて次の論文にするか。。
我ながらいい考えだ。
こう見えても、一応、学会では名の知れた心理学者ってことになってるし。
まあ、もちろん偽名なんだけど。
「ねえねえ、このキーホルダー可愛くない?」
蛍が招き猫っぽいシロモノを差し出してくる。
うん。可愛い。モノも可愛いし、あなたも可愛い。
結果、全て可愛い。それで良し。
「ねえねえねえお姫ちゃんも、そう思わない?」
蛍が舞姫の肩をスリスリしながら話しかける。
「何よそれ! そんなの全然可愛くないわよ!」
舞姫はとりあえず言葉では否定する。
しかし、目はずっとキーホルダーを見てる。
絶対、可愛いと思ってるんだろうなあ。
舞姫ってツンデレなところあるし。
蛍もわかった上で ホレホレと目の前でぶらんぶらんさせる。
うん。こういう展開も微笑ましいよね。
良きかな、良きかな。
そして結局、蛍がみんなの分をプレゼントしてくれることとなった。
「はい! 浩志の分!」
にっこり笑って蛍が手渡しでくれる。
二人の様子を缶コーヒー片手に眺めていた手前、
なんか、すっごい欲しがってたやつみたいになってるけど、まあ、いいか。
「ありがとう! お守り替わりだな。」
幼馴染とはいえ、お礼はちゃんとしないとね、
「うん! そのかわり今度何かおごってね♡」
ニッコリと乙女の顔をする。
お~、ちゃっかりしてはる。
これは、いいお嫁さんになりそうだな、、、
って、そろそろ搭乗の時間かしら。。
ささやかな日常の時間はあっという間に進むから困る。
ちなみに今日の予定を言うと、
これから僕たちは、異世界とつながっているカミオカンデへと向かうことになっている。
しかし、昨日送られてきた封筒には飛行機のチケットのみで、その後は現地の係員の支持に従えということであった。
なぜなのだろうか、、、、、、
疑問に思っていたが空港に着くとその理由が分かった。
まず、カミオカンデのある岐阜県神岡町はどちらかというと富山県に近い。
そして、空港に関して言えば、県営名古屋空港よりも富山空港の方が圧倒的に近い。
で、
建設道具やら物資やらを秘密裏にもって行きたい政府か自衛隊関係者は、富山空港から神岡町まで直通のトンネルを掘ったらしい。
直線距離40キロ。
標高差1000m。
この頭がおかしい計画を3ヶ月で成し遂げたとは、上がどれほどあちら側を大事に思っているのか分かる。
「あと5分ほどで到着しますから、、、」
スーツを着た、若干イケメンでまだ20代くらいのお兄さんが、申し訳なさそうに告げる。
いやいやいや、ルールだか決まりだか知らないけれど、キャリーバッグを持った4人が来ること知ってんのに、クラウンで迎えに来るってどういうことよ。
せめてワンボックスで来てよ。。。
結構、というかかなり痛切な願いである。
ちなみに、トランクに入りきらなかった2つのキャリーは後部座席で膝の上に置いてあり、
おっさんこと義一だけは助手席で難を逃れているが、後ろの3人は前方を確認することさえできない。
しかも春先ということもあり、現在着ているのは動きやすい夏服だ。
結果、無駄に肌が密接して、心臓に悪い。
「着きました!」
お兄さんが軽く叫ぶように告げる。
うん。降りるの大変だから手伝ってね。
そうして、なんとか現地にたどり着いた一行は、異世界。ベルファスト王国へと通じる地点の前に立った。
予想では、壮大な門があり、車でタイムマシンみたいなワープ空間を行くものだと思っていたが、実際はたて横5メートルほどの空間が開いており、向こうの世界が見えている。
言わば、いつも開いているどこでもドアだ。
しかし、聞いた話によると、日によって大きさが変わり、持ち運べる荷物のサイズが変わるらしい。。。
今日がどれくらいなのかは分からないが、ひとまず僕たちが通れたらそれでいい。
「内閣情報調査室 二等調査官 神崎浩志 以下四名 ベルファスト王国へ出国します!」
わざわざ言う必要はないのかもしれないけど、たまには肩書きを名乗ったほうがカッコいい気がする。
「いざ、異世界へ!」
こうして、僕らは異国の地へと足を踏み入れる。
表向きは、相手国の内政顧問として。
本当は、敵国の内政調査として。
僕たちに敵対する意思はないけれど、時と場合によっては生々しいことになるかもしれない。
しかし、起こってもいないことを考えたってしょうがない。
今日はとりあえず、新しい指揮官とやらに会いにいくか。
浩志は次の予定を頭で考えながら、水面のような境界を超えた。