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恋人以上×妹未満。  作者: しすたー遠藤
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5話   『スカートの中、下から見るか?横から見るか?』

「絶対領域ってのは、何人にも侵されざる聖なる領域。つまりニーソが――」


「話数またいだのにいつまでしゃべってんだ」


「話数? なんのことだ?」






 今日は入学式のあとはホームルームのみだったので、拘束時間はそれほど長くはなかった。

 現在俺は生徒会室で一人の空間を満喫していた。机を繋ぎ合わせ長机にし、それに合わせ椅子を配置しただけのこの空間が俺にとってのベストプレイスだ。


「ふぅ~、生徒会室最高」


 本来俺は生徒会長をやるような性格ではない。無気力で、正義感もへったくれもない。難聴、鈍感。そして優柔不断……そういう人に俺はなりたい。

 ……まぁ、性格など自分でなく相手が語るものだ。自分でアタシ〇〇系なんで、とか言う人にロクなヤツはいないだろ?


 生徒会長など普通に考えて重荷でしかないが、利点も存在する。

 去年の生徒会役員は全員三年で、その方々から生徒会を引き継げば公的に生徒会室ついでに権力を占有できる。そんな目論見があったことは否定できないどころか肯定しかできない。

 一般的に、ぼっちに学校での居場所などない。自分の机のテリトリーを守ることに必死だろう。

 休み時間に席を少し離れ、帰ってみればクラスメイトが()と談笑するために座っていた……なんて恐怖体験をしたことはあるだろうか?

 フハハハ。俺にそんな心配はない。何故なら俺は、私的空間を有するぼっちなのだ。そこいらのぼっちと一緒にしないでもらいたい。

 もう我に友達など……間違えた。もう俺に友達など必要ない。


 ガラガラガラ。学校の扉独特の開閉音がする。


「天羽くん、もう来てたんだ」


 開いた扉に視線を移すと、そこには栗花落さんの姿があった。私的空間といえども、もちろん栗花落さんも訪れる。

 俺と栗花落さんの繋がりなど生徒会役員であることしかない。でなければ、一生こうして会話をすることもなかったであろう。


「基本俺、教室以外にここにしかいないよ」


「そうだね。友達いないもんね」


 ……今サラッと笑顔で悪口言ったよね? あれ? 俺の聞き間違いかな?


「でも栗花落さんはもう友達みたいな――」


「――ごめんなさい」


「まだ言い終わってないんだけど?」


 誰もが口を揃えて栗花落さんは優しいというが、俺には時折厳しくはないかい?

 皆に対する栗花落さんと俺に対する栗花落さんは何かが違う気がする……。でも俺は、他人に優しさなど求めてはいないが。


「よいしょ……」


 栗花落さんは俺が座っている隣のいつもお決まりの椅子に腰をかける。

 常々思っているが、ちょっと近すぎやしないか? 隣の席同士くっつけていた小学生の頃の距離感ですかい? 以前こう問うたことがあるが、これだと話しやすいよ、と笑顔で返されては何も言えまい。


「あれ? ヘアピン外したの?」


 一緒に登校したときには髪のサイドについていた黄色のヘアピンが見当たらない。

 朝あれだけ変わったところは? と質問してきたのに。案外……似合ってたよ。


「髪留めは暗めの色じゃなきゃダメだって。すめらぎ先生が他の教師に言われる前に外しておきなさいって」


「うちそんなに校則厳しかったか?」


「生徒手帳に書いてるみたいだよ、ほら」


「どれどれ」


 胸ポケットから生徒手帳を出し、見せてくれる。

 生徒手帳か……。家のどっかにはある……と思う。

『16条:アクセサリー類は全般禁止である。髪留めに関しては黒や茶色など暗い色の物を使用すること』


「へぇ~ここまで規定あるんだ」


「わたしも生徒会役員だけど皇先生に言われるまで知らなかったよ」


「あの人そんなに仕事熱心だったっけ?」


「今日は入学式でわたしも壇上に上がるからその前に、ってことだったと思うよ」


「先生の方がド派手な容姿なんだけどね」


「へへっ確かにね。服装もいつも黒にも関わらず、高身長であの綺麗な金髪碧眼はやっぱり迫力あるよね~」


 皇先生とは一応俺たちの、つまり生徒会顧問である。生徒会室にめったに顔を出さない楽な先生なので、俺は結構好きだ。

 見た目バリバリの外国人だが、一応日本の血も入っておりクォーターらしい。いつもヒールを履いているからか、日本人平均身長よりは高い俺より背が高い。


「――あっそういえば、その皇先生から仕事二つ頼まれたの」


「断る!」


「もぉ~。天羽くん、生徒会長でしょ」


「生徒会長はお飾りで、本当は栗花落さんが裏で牛耳っているという設定でしょ?」


「そんな設定ないよ! 一つは来週だから後でいいけど、じゃあもう一つの簡単な方から……」


「ふぅー、そろそろ暗くなってきたな」


「まだ12時だよ! もぉ~、話進めるね。さすがに生徒会に人数増やせって言われたの。最低でも一人は確保しろ、ってさ」


「……マジか」


 我が皇来学園の生徒会役員。生徒会長、天羽蓮。副会長兼会計兼書記、栗花落恵。以上二名。

 特に進学校でもないので、内申点稼ぎでくるヤツもいない。基本これ以外に生徒会に入るメリットなどない。あと人気者になりたいという選択肢もあるが、人気者なら運動部にでも入る方がよっぽど効率的だろう。


「外で部活勧誘とかすごかったから、うちも勧誘とかした方がいいのかな?」


「うちは自主的に生徒会に入りたい、とやる気と情熱を持った生徒しか受け入れないから」


「あれ天羽くん? さっきかなりやる気も情熱もない生徒会長がいた気がするんだけどな~。ちらっ」


 俺をチラ見してくる。もう自分で「ちらっ」っと言ってしまうくらいチラ見してくる。


「はぁ~。勧誘でもしますか……」


 さすがに増員した方がいいとは思ってはいるが、俺の私的空間が……。これ以上人口密度を上げたくないし、生徒会役員が増えると不都合も生まれてくる。

 ……でも今年に限っては俺が所属しているからと、入ってきそうな新入生が一人いたような、いなかったような……

「スカートの中、下から見るか? 横から見るか?」


「普通下からじゃないの?」


 自分で言っていてなんだが、普通ってなんだよ。普通に痴漢だわ。


「バカタレ! 横からだろ!」


「……何で?」


「絶対領域を見ずにどうするよ」


「どうもしねーよ。そもそも絶対領域ってなんだよ」


「絶対領域ってのは、何人にも侵されざる聖なる領域。つまりニーソが――」

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