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恋人以上×妹未満。  作者: しすたー遠藤
30/32

28話   『幼い妹が探すのは兄の姿、成熟した妹が捜すのは兄のAV』

「そういえば、隣の琴浦さん引っ越すらしいわよ?」


「そうみたいだな」


 俺に背を向けている哀が話しかけてくる。

 break time(ブレイクタイム)……。直訳すると、壊れる時間。兄妹仲が……?


「蓮はいくつ?」


「ん? 17」


「甘党ね」


 ドボドボトボ……


「――待て、待て、待て!」


「何かしら?」


 台所に立つ哀の後ろ姿で見えなかったので、何をしているかよく分かっていなかった。

 あぁ、コーヒー作ってたのね……。

 哀の手によって、俺のマグカップには角砂糖が大量投入されていた。

 年齢を聞かれたと勘違いした俺も悪いが、コーヒーに角砂糖17個も入れて飲むヤツどこにいんだよ。小学生の給食の時のミルメ〇クか。


「角砂糖17個もいらねーぞ。てか、俺はミルクだけでいいんだけど……」


「17って言ったじゃない?」


「年を聞かれたのかと思って、17歳って言ったんだよ」


「おいおい」


「ホントに17だわ」


 そういえば、来週で18になるな……。

 哀から手渡されるマグカップを受け取る。


「はい、熱いから気をつけて」


「ありがと」


 ズズッ……甘い……。

 時すでに遅し、角砂糖4つは入れられたであろうコーヒーを飲み、一服する。

 哀も俺の左隣の椅子に座り、マグカップを傾けている。家では俺の左側に座るのだ。

 お互い弁当を食べ終え食後に一緒にコーヒーを飲む兄妹の姿が、平日の昼間の天羽家の食卓にあった。

 break time……。兄妹仲が壊れる時間という意味ではなく、ひと休みということだ。


 ズズッ……。

 コーヒーは甘くとも、現実世界はそう甘くない……






「蓮、いつから……」


 栗花落さんに抱いたこの感情は、別に絶対隠し通さなければならないものでもない。

 渡したくないと思った……。離れたくないと思った……。一緒にいたいと思った……。


 今回あったことをかいつまんで説明した。変に言わないと栗花落さんを問い詰めるかもしれないし、それに困る栗花落さんの姿が目に浮かぶ。

 話を聞き終えた哀は何か考えるかのようにひどく神妙な面持ちで顎に手をつく。そして、面持ちそのままに言葉が紡がれた。

 いつしか俺たちの食事の手は止まっていた……。


「いつから……」


 ほんの少しの静寂、時にして秒にも満たない静けさ。

 哀の口から吐き出されたその続きの言葉は、俺にとっても誰にとっても耳を疑うものだった。


「いつから……バトルものになったのかしら? ジャンルは現実世界〔恋愛〕のはずだけど」


「……ん? ……ん!? ……うん。……ん!? 話聞いてた!?」


 哀の吐き出した言葉を一度は飲み込もうとしたが、飲み込むことはできず俺は吐き出した。


「そもそも、最近作風変わり過ぎじゃないかしら?」


「――ちょい、その口を閉じろ!」


「え? このアヒル口を?」


「あら可愛い。キスしたくなる唇……てバカ」


 せっかくシリアス風を装っていたのにコイツは……って、俺もついシリアス風って言っちゃったよ。もう俺は気づいている。というか、端から分かっている。

 だいたいコイツは、神妙な面持ちで何考えてんだよ。これくらいのいざこざでバトルもの扱いしてたら、世の中バトルものだらけになるわ。

 俺に見せつけてきた可愛いアヒル口を軽くデコピンする。


 バクバク……。


 おいおい、ガッツリ弁当食べ進めちゃってる妹よ。雰囲気台無しなんですけど。従来のラブコメならば重めの空気がビシビシ伝わってくるシーンのはずだと思うんだけど。


「これは後書きでする話だったわね。ごめんなさい。じゃあ続きは後書きで」


「続きはWEBで、みたいに言うな。後書きの告知なんて聞いたことないわ。普通、後書きで告知だろ」


「うるさいわね……。食事の際はあまりペチョクチュしてはいけないというマナーを、親に教わらなかったのかしら?」


「ペチャクチャ、な。食事の際のペチョクチュはマナー違反の中でもマナー違反過ぎんだろ。食欲と性欲はすみ分けなさい」


「ゴクリ……」


「そのタイミングよく生唾を飲み込む仕草はワザとなのか!? ワザとだろ!? ワザとだな!」


「うるさいわね……。私のように華憐で可憐な言葉遣いを、親に教わらなかったのかしら?」


「一回目はスルーしてやったが、親ってお前も俺と同じ親だから。同じ親のペチョクチュによって生まれた者同士だから」


「うるさいわね……。ホント、親の顔が見てみたい?」


「聞くな。今日朝見たわ。そして今日夜見るわ」


「今日は帰ってこれなさそうと朝言っていたわよ」


「ふ~ん」


「同棲みたいね」


「同居だわ。いや同居もおかしいか」


 今日はいつものギリギリ登校とは違い少し早く家を出たので、その情報は聞いてなかった。

 新聞部が仕事をこなしてくれたかどうかの確認のためである。初対面のヤツらなど信用も信頼もしてはいなかったが、信用はできる優秀な存在のようだ。また機会があればよろしくお願いします。

 哀はというか哀も常に登校のギリギリまで寝ている生活スタイルであるため、こんな色気のない理由で兄妹一緒に通学をしている。


 俺と哀しかいないなら、面倒なので夕飯はいらねーか……あれ? 何かおかしくね?

 俺の栗花落さんに抱いた気持ちを話したとかなんとかはどこへいった? 哀は弁当の中身と一緒に飲み込んだのか?

 そんな哀の弁当箱はすでに空になりそうな勢いだった。


「あの~、哀さん?」


「ちゃんと聞いていたわよ。蓮の言いたかったことは……汲み取ったわよ」


 特に表情を変えることなく、哀はそう言い放った。

 ここからの話は早かった。さすが俺の妹というべきか、何もかも見透かされているというべきか。


「蓮は栗花落先輩のことに対し無関心でいられなかったということかしら?」


「あぁ」


「だから?」


「だからって、恋とか? 胸の中にあって、そして見えなくなっていく……」


「もしかして蓮は、無関心でいられない俺は栗花落さんのことが好きなのだろうか? とでも言いたいのかしら?」


「かもね」


「バカじゃないの? 蓮も本当は気づいているのでしょう?」


 ――ゔっ。コイツ……心を読めるのか? 


 哀はバン! と箸を食卓に置き、俺に物理的にも心理的にも詰め寄ってくる。物理的には詰め寄らなくとも、隣同士なんだからもともと近いだろ……。

 答えの分かり切った問題に分からないフリをする。

 

 俺は鈍感であり――。


「好きの反対は何かしら? 答えなさい、蓮」


「……無関心」


「子供の時もそんなこと言っていたわね。無関心の反対は関心よ。蓮は栗花落先輩に関心がある、それは認めるわ。それは何故か?」


 近けーよ……。この距離はもう口づけの距離だ。俺と同じシャンプーの匂いがする。

 哀が俺の座る椅子にまで侵食してきたので、俺の体は大きく傾いていた。俺たち二人の身体は重なるようにほぼ一体化する。胸なのかどうかもよく分からない妹の洗濯板を俺は受け止める。

 物理的には重いが、心理的には軽い。そんな気分だ。


「蓮が栗花落先輩のことが無関心でいられない理由なんて、アレがあったからに決まっているでしょう?」


 バクバク……。


 アレ……。そう、アレだ。女のカンってヤツか? それとも妹のカン? いや、妹だからか。


「胸を触った相手のことを男子高校生が関心を抱くことは当たり前、必然よ。蓮は言っていたものね。罪悪感という部分を俺は重く重く受け止めている、と」


 ……これがラッキースケベに抱く罪悪感。


 ……胸を撫で下ろしたのは、俺だ。


 ごめんね、栗花落さん……胸揉んで。


 俺の真意がここにある。

 哀に指摘されずとも分かっていたさ、自分自身の感情なんて。


 好きの反対は無関心ではなく、やはり嫌いなのだ。

 好きってのは興味や関心と類語と考えることもできるが、じゃあ興味関心があればあなたは好きですか? あの人を。

 ……所詮、類語だ。よく似ているだけなのだ。義務教育でも学び、国語辞典に答えはいつも書いてある。

 好きの反対は嫌いである、と。無関心の反対は関心である、と。


 どんなに反対に裏返そうが、結局そんなことだ。到底『好き』には程遠い。

 栗花落さんを俺のヒロインではなく網走のヒロインだと明言できていた時点で、自分の気持ちに気づかないはずがなかった。


 現実世界の恋愛は、そう甘くない。

 簡単に惚れられることはできないし、惚れることもできはしない。

 でも……


 言いたいことを言い終えた哀は、自陣へと引いていく。

 てかお前、弁当を食べ終えたから箸置いただけかよ。そもそも弁当を食べ終えたから本題に突入しただろ。

 何事もなかったかのように手を合わせ、弁当箱を閉じていた。


「哀お前はホント、俺のことなんでも知ってるな」


「なんでもは知らないわよ。知っていることだけ」


「あたかも自分の台詞であるかのように言うな。そしてその猫ポーズもやめろ」


 招き猫のように丸められた哀の両手をはたき落とす。まったく……超可愛いじゃねーか、我が妹。


 哀は弁当箱を片すため台所の流し台へと運ぶ。俺も残っていた進化前は卵だったものたちをお腹に入れ、同様に流し台へと持っていく。

 珍しく自分から洗い物は私がすると言ったので、任せて俺は椅子に再び腰かける。洗い物をする哀の後ろ姿を眺めながら、会話を続けた。


「蓮、その顔どう説明するつもりなのかしら? お母さんに」


「別に転んだってことでいいだろ」


「蓮が負傷して帰ってくることはそれほど希少な出来事ではないけれど、今回見た感じ転んだにしてはすり傷が少ないし打撲感が強いわよ? 湿布薬をしているのだから」


「確かに。言われてみればそうかもな。じゃあ、他に何かいい案あるか?」


「そうね……。DVとかどうかしら?」


「DVの意味知ってる!?」


「私はこれでも学年主席よ。ナメないでもらえるかしら。DVとは男性が女性に激しく、そして淫らな……」


 ――それ、DVじゃなくてAVだから!


 ……と、紳士な俺はツッコまない。哀にも、こんにゃくにも。だって紳士だから。

 俺をナメるなよ、そして舐めないよ。


 哀の洗い物の手が止まったのを俺は見逃さなかった。

 妹特有の兄のエロ本またはAV捜しというヤツだ。その手には引っ掛からない。AVなんてワードを出そうものなら、私に隠れてAVを見ているのかしら? とでも言われそうだ。

 フッ、俺がそんな初歩的なミスを犯すはずがないのだよ。俺を嵌めようという魂胆が見え透いているのだよ。

 再び動き出した哀の手を確認して、俺は会話に戻る。


「喧嘩に巻き込まれたって設定にしとくわ」


「それが無難ね。喧嘩をしてでも誰かさんを……助けてやりたかったのね?」


 あんなの喧嘩ではない。喧嘩ってのは、均衡した戦力さで、なおかつ互いに争う意思がなければ成立しないものだろう。だから俺は、無敗なのだ。


「……設定の彼は、ね」


 シンクは壁向きに配置されているので、哀の後ろ姿しか見えない。もちろん、表情も見えない。声のトーンしか分からない。

 ……やっぱり何気に寂しいのか? 俺が栗花落さんに惚れるかもしれないことが。


 でも……今後惚れないとも言っていない。


 渡したくないと思った……。離れたくないと思った……。一緒にいたいと思った……。

 この感情いや、心情に嘘いつわりはない。本物だ。現在は俺の彼女はフィクションです、だろうが未来の俺の心など誰にも読めはしない。俺にも、栗花落さんにも、哀にも、琴浦さんにも。

 その俺の心情を……汲み取ったわよ、と哀は先ほど言ったのだろう。


 恋なんていつの間にか知らない間に胸の中にあるものだろうし、いつも目には見えないものだろう。

 恋は盲目。人は恋をすると周囲のことが見えなくなるという意味で使われるが、恋をする前から人は何も見えてはいない。

 指から変な糸が引いたこともない。その糸は赤いらしい。もうそれはただの出血だろう。指に包帯でも巻いておけ。


 寂しげに見えたその背中越しから聞こえる声は、やはりいつもより……


「そう……助けて、ヤリたかったのね」


「おい、イントネーションおかしいだろ!」


 ……気のせいだったようだ。


「まぁ、これが兄妹か。互いのことが一番分かる」


「蓮、あなたは誰も愛せないものね」


「何それ、超カッコいい」


「そんな私は超カワイイ」


「自分で言うな。お前は別に可愛くはない」


 可愛い系というより、綺麗系だから。綺麗過ぎるのだから。

 俺によく似た、凍りつかせるような冷血で、冷淡で、冷酷なその目は可愛いとは到底言われないだろう。

 そんな目が俺を物語る。外見は内面の一番外側なのだから。


 ――目を見れば分かる。


 本当に上手く言ったものだ。化けたり、偽ったり、俺の人生という物語はこの目に宿る。

 この言葉を俺に吐いた人間は今までどれくらいいただろう……? 今後どれくらいいるだろう……?

 放った言葉は戻らない。忘れるなよ、お前ら。いつか御土産を返してあげる。


「哀、俺に恋人ができたら嫌か?」


「逆に聞くわ。蓮は私に恋人ができたら嫌かしら? それが答えよ」


「そうか……」


 これこそ答えが分かり切った問題だ。簡単で簡明で明快で明白な答えだ。

 答えた俺の反応を背中越しで感じ、哀は珍しく笑みが浮かべた……ように見えた。当たり前だ。哀は一度たりとも振り返ることがなく、後ろ姿しか見えていないのだから。


 でも、兄妹なのだから理解している。理解できている。声のトーンが少し落ちたことも、表情を隠したいがために自ら洗い物をすると言い出したことも。

 近づいた時バクバク……と心音がかすかに感じられた。俺のだろうか? それとも哀のだろうか?

 それが答えよ……。その答えというやつは共通認識なのか? そうだとお兄ちゃんは嬉しいかな。


 俺は椅子から立ち上がり、無言で哀の頭に優しく手を置いた……


「邪魔だから触らないでもらえるかしら?」


 そして、キレられた。

 そりゃ作業中に触られたら邪魔だわな。男性諸君、気をつけるように。

 ねぇ、頭ぽんぽんマジ使えないんだけど。女の子は頭ぽんぽん好きじゃなかったの? と、今ちょうどちゃんと学校で弁当を食べているであろう栗花落さんに問いかける。

 もう昼前からえを引いた昼間だ。再び椅子にカムバック。



 そんな哀も洗い物を終えたようで、break timeに突入……



「ふぁ~~。……そろそろ寝よかな」


 マグカップの中身の空にし食卓に置き、とっさに出てきたあくびを手で覆う。

 そういえば、一応寝るために早退してきたのをすっかり忘れていた。哀も帰ってきたせいで予定が狂いに狂っていた。

 昨日は誰かさんのことが心配であまり眠れなかったと、隣に座るコイツには言えない。


「食べてすぐに寝ると牛になるわよ?」


「ならねーよ。なったらなったで、乳が出てむしろお得だわ」


「なら、私はもう牛ね。乳が出てるもの」


「そういうことは搾れるくらい乳が出てから言え。搾れねーというか掴めねーよ。むしろ牛乳飲んで乳を出せ」


 隣に座る貧乳を置いて俺は部屋に向かう。でも寝る前にトイレ行っとこうと、足先の向きを変える……


「……で、なんで付いてくる?」


「私も軽く眠るのよ。それに、蓮の部屋は私の部屋よ」


「剛田みたいに言うな」


 俺と哀は同室なので、まぁそういうことなら……


 ……ってなるかぁぁぁ!! だって今、トイレの中だもん。ただえさえ狭いアパートのトイレに高校生が二人。

 俺の膝上にちょこんと座るバカがいます。バカの後頭部が目の前にあります。艶のある黒髪が俺の視界を奪っています。


「……狭いわね」


「こっちの台詞だ。早く出て行け。お前はmis〇n〇か」


「うち、トイレは一緒に入りたいタイプやからー」


「一人称も話し方もおかしくなってんぞ」


「早くズボン下ろせば? 変態」


「おかしいな 変態はどっち? お前だろ!」


「俳句かしら?」


「川柳だ」


「何を言っているのかしら? 変態という冬の季語がしっかり入っているじゃない」


「変態は季語じゃねー」


 しかもなんで冬なんだよ? 

 ♪~マジカルバナナ。

 変態といえば全裸。全裸といえば露出狂。露出狂といえばロングコート。


「なるほど、繋がちゃったよ」


「私達もこのまま繋がるのかしら?」


「俺のマジカルなバナナを甘く見るな」


「バナナは結構、糖度高いわよ」


「強度はそれほどでもない。いい固さで皆食べやすい」


 ……何を言ってんだ、俺もお前も。


「さっさと部屋行ってろよ」


「続きは後で、ということかしら?」


「続きはWEBで、みたいに言うな。そして俺に何度も同じツッコミを言わせるな」


「そういう蓮も私に何度も突っ込もうとしないでもらえるかしら?」


「俺もマジカルなバナナも、ピクリたりとも動いてねーよ!」


 帰宅して二人ともブレザーを脱いだだけで着替えていないので、もちろん今も制服のままだ。制服の男女の学生がトイレの個室でマジカルバナナ……どこのAVだよ、ホント。

 何? 今は性欲と睡眠欲どちらが勝つか試されてんの? 朝の学生ならば、食欲<睡眠欲。

 じゃあ、さぁて昼の学生ならば……ここテストに出ます。


 俺は膝上に座る哀に構うことなく勢いよく立ち上がり、ズボンを下ろす。

 そう勝つのは……


「眠いから邪魔すんな」


 哀をはじき出し、ドアを閉めてトイレを占める。

 男女問わず作業中に触られたらというか密着されたら邪魔だ。でも、何気に哀が俺に密着してくるなどかなり珍しいので、案外頬がゆるんだ。


 用を足し、寝るために部屋に行く。あっでもその前に歯磨いとこうと思い立ち、洗面台へ向かう。トイレ行ったのだから手も洗っておかないと……何?

 その道中、哀はずっと付いてきている。


「……何? ピク〇ンなの? 引っこ抜かれたいの?」


「そうね。そうかもしれないわね。食べないでね?」


「食べねーよ」


 幼い妹ならいいが、俺と身長がそれほど変わらないほど成熟したクールビューティーな妹にピク〇ンされると割と怖い。


「何故俺の行く先行く先に顔を出す? 俺に甘えたいのか?」


「フッ、そんなワケないでしょう。最近私、出番少なかったのよ。蓮の近くにいれば画面に映りこめるかと思って。中の人が暇してるのよ」


「さすがにその発言は目に余る」


「目余っているの? 一つ貰えるかしら?」


「第三の目はねーよ。額に邪眼持ってねーよ。ここには第三者の目の厳しい目しかねーよ」


「蓮の目はある意味、邪眼よ」


 我が妹、アバンギャルド過ぎんだろぉ! 秋葉、アバンギャルドという単語はこういう時に使うものだ。俺なんか比にならない。

 描かれてないだけで昨日も一昨日もずっと家で会ってるから。部屋まで一緒だから。……出番てなんだよ。

 世界は舞台。人は皆役者。byシェイクスピア。


 甘えたいのならば可愛い妹で済ましてやろうと思ったが、鼻で笑いやがった。やっぱり可愛くねー妹。

 俺は自分の歯ブラシを手に取り、歯磨き粉を乗せる。ついでに服やコンタクトなどを着脱し、寝る態勢を整える。


「ん……」


「はいよ」


 お前も磨くのね……。

 差し出された哀の歯ブラシにも搾りだす。乳ではなく、もちろん歯磨き粉を。


 ゴシゴシ。

 シコシコ。


 兄妹並び、コップ片手に歯磨きをする。

 はぁ……妹に可愛さを求めるのは間違っているだろうか。






 なんだ……? 体が勝手に……。これが金縛り? いや、金縛りは体が動かなくなることか。

 睡眠時遊行症、通称夢遊病というものか。でも夢遊病はその間の出来事を記憶していない状態だったような。てか、どっちかというと夢遊病というか浮遊病だ。

 めちゃくちゃ俺の左手が浮いている……。


 薄目を開けると、まさかの人力。バリバリ人力。

 そういえば聞いたことがある。寝ている間にスマホの指紋認証機能を解除する手段が流行っていると。

 だが、ここで疑問が湧き上がる。


 まず一つ目。俺の携帯にはそもそもロックがかけられていない。

 次に二つ目。俺はスマホではない。ガラパゴス携帯、通称ガラパゴ。黒色を使用させてもらっている。スマホと違い何が良いかというと、目の上にフィットしてアイマスク代わりになることだ。電車で通学通勤の人にはおすすめだ。是非ためしてみて。

 最後に三つ目。通称はガラケーだった。


 今日は疲弊しているので、まだ眠い。寝よう。では、再度おやすみなさzzz


 こうして、ショートケーキの日は幕を閉じていった……。






 8、15、ショートケーキの日、……次は?

「最近作風変わり過ぎじゃないかしら?」


「ホントに後書きやるのかよ……」


「蓮、人気作品に必要不可欠な要素は何か分かるかしら?」


「読者様」


「む……せこいわよ」


「フハハハ、残念だったな。相手の想像している答えの一枚上を出すことは基本だ。親に教わらなかったか?」


「共感、よ」


「おい、俺の回答をなかったことにしようとするな。編集でバッサリカットに持っていこうとするな」


「皆さん普通のラブコメが読みたいのよ。こんな蓮のトリッキーな心情なんて私以外誰も読み解けないわよ。共感は皆無ね。だからこの作品は全く人気が出ないのよ」


「お前の言い分だと今読んで下さっている方は、俺に共感しているということになるな」


「しているワケないじゃない。共感する部分があるならきっと……友達がいないぼっちなのよ。読者様に友達がいるのならば、この作品ももう少しは広まってもいいと思うわ」


「読者様に失礼過ぎるわ。不人気を人のせいにするな。妹の発言を深く深くお詫び申し上げます」


「これが第三者の厳しい目というヤツね」


「どちらも失言が多いことでしょう」


「別にそれほど上手くないわよ。それで蓮っちは、あの人気週刊少年漫画の三大要素なるものを知っているかしら?」


 場が全然、整いません。蓮っちです。


「ブックマーク、評価、感想下さった方々ありがとうございます。最近めっきり読者様は増えませんが、生きてます」


「何、私の質問を無視しているのよ。そんなことしたら、次はまたぐわよ? 対面〇位でまたぐわよ?」


「48手コンプリートしようとすんな」


「めっきり増やした方がいいのは私の出番よ。三大要素なるものとは、ホップ、ステップ、ジャン――」

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