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恋人以上×妹未満。  作者: しすたー遠藤
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26話   『天羽蓮という人間』

「来ちゃった♡」


「彼女か」


「わたしは天羽くんの彼女なんでしょ?」


「そうだね……」


 それを言われたら何も言い返せない。俺が払った犠牲だ。

 でも、その口調は優しいものだった。


「……怒らないの?」


「怒ってほしいの? あっそうだよね。天羽くん、Mだもんね」


「そんな属性追加した覚えはない」


 秋葉がこの場を後にした数秒後、まだ授業中にもかかわらず生徒会室の扉が三度開かれた。秋葉が戻ってきたのかと思ったが、生徒会室の扉を開けたのは……栗花落さんだった。


 頃合いを見計らって秋葉が連絡を入れたってとこか。タイミングよく入ってきてタイミングよく出ていきやがったな、アイツ。

 それに皆、授業はちゃんと出ようねと言いたいが、秋葉はともかく品行方正な栗花落さんが授業をサボってまで俺のもとへ来てくれたことが……答えなのだろう。


 通常通りに回復した生徒会室。座る場所はお互いもちろん……。

 これが犠牲を払ってでも欲しかった俺の、勝ち得たもの。守り抜いたもの。


「ごめんね、栗花落さん……」


「朝から大変だったけど、それくらい別にいいよ。むしろ、謝るのはわたしの方だよ……。わたしの問題に天羽くんを巻き込んでしまって、本当にごめんなさい……」


 栗花落さんは深々と頭を下げた。

 はたして俺にその謝罪を受ける権利などあるのだろうか……?

 俺は栗花落さんに恋人ができることを望まなかった人間だ。今回は網走が黒だったから、というより栗花落さんの真意がそこにあったからこその謝罪なのだろう。

 でももし網走が白だったら、栗花落さんが救いを求めていなかったら、俺のしたことはただの悪でしかない。


 栗花落さんの気持ちが、選択が、網走の好意に是だった場合、この距離にいられない。

 栗花落さんとは友達ではないがもし友達メーターなるものがあったならば、真っ逆さまにおちてディザイアだ。

 バッドエンドへ直行だ。中に誰もいません、だ。友達が誰もいません、だ。そんな言葉を吐くこともそんな世界になることも、結果次第ではあったかもしれない。

 結果俺は勝ったのだ。価値を掴んだのだ。敗北を喫すれば、俺と栗花落さんとの物理的距離も心理的距離も手を伸ばしたところで届かない距離にいってしまっていただろう。

 そう、こうやって差し出された後頭部に手を置くことも……


「――ふぇっ!」


「フッ。どっから声出してんの、栗花落さん」


「いっ、いや、あっ、天羽くんがそんなことするなんて意外だったから……」


「意外……?」


 あーそうか、これがあの有名な……。俺はただ栗花落さんの存在を身近に感じたかっただけなのだが、自然に頭ぽんぽんという構図になっている。

 俺としたことがこんな低俗な技を……


「ぽんぽんぽん」


「口でいうものではないよ!?」


「だからちゃんと手も動かしてるよ」


 ぽん一回の発言につき、ぽんを一回している。

 それより頭を下げたままでは栗花落さんの首が爆発してしまうので、頭を上げてもらう。本来は対面式でやるのが正式な頭ぽんぽんのやり方なのか? ……知らん。


 頭ぽんぽんを天下の宝刀のように思っている男がいたならば、鼻で笑ってしまう。こんなのが平気でできるってことは、相手を尊敬していない証拠だ。相手を下に見ている。人の頭に手を乗せるということは支配するということだ。少なくとも自分の方が立場が上、上から目線が行動に表れている。だって、尊敬している方に頭ぽんぽんできるか?


「……それに髪形も崩れるだろうし」


「それがわたしへの頭ぽんぽんは偶発的なものであって、決して故意でやったものではないという天羽くんの言い訳?」


「言い訳ではないけど、正論です」


「はぁ……だから天羽くんはモテないんだよ。そういうのは理屈じゃなくてもっとこう……」


 そんなため息混じりに言われても。確かにモテないけども。悪かったですね、モテなくて。

 女の子はそれが嬉しいんだとか、優しく大事にされているや特別な愛情をもらっていると感じるんだとか、とにかく女の子は頭ぽんぽんが好きということを熱弁される。


 女性の話など話半分で聞いていても問題ないだろう……


「……よって、だから天羽くんはモテないんだよ」


「そうだね~……えっ!? 今の話って頭ぽんぽんの良さについてじゃなかったの? 俺がモテないことの証明だったの?」


「うん、そうだよ。でも……わたしはそんな天羽くんが…………」


 ――あっ、ヤベ。告白される……


「――惚れた? だったらごめんね」


 栗花落さんは激しく首を横にブンブン振る。

 そこまで拒絶されるのもアレだけど、それでいい。簡単に惚れるような子は俺の周りにはいらない。


「天羽くんはそんなんだからモテないけど、そのままでいいと思うよって言おうと思ったのっ!」


 今度は手をグーにし上下にブンブンして、激しく主張してくる。必死だね~。


「な~んだ、告白されるのかと思った」


「しょ、しょんなわけないでしょ!!」


「栗花落さん、顔赤いよ?」


「噛んだだけだよ、もう!」


 栗花落さんは顔だけでなく、耳まで真っ赤になっていた。

 これほど色恋に純粋な子を、網走には渡せないし渡さない。今、そう強く思う。

 でもいつか……誰かに奪われてしまうのだろう。特別な椅子も、隣に座るこの椅子も。

 今はただ、そんな日が一日でも来ないよう俺は願うだけだ。


「でもほんとに……ありがとね……天羽くん」


「俺何もしてないけど?」


「勇者はいつもそう言うんだよね?」


「本物の勇者なら、ね……」


 ……俺がやってきたことのどこが勇者だ。魔王の間違いだろ。

 

「――えっ、あっ……」


 多少驚いてしまった。あまり人に触れられるのは慣れていない。というか基本触れられたくはない。

 でも、あなたは嫌じゃない……。


 俺の左頬を覆った湿布薬の上に、栗花落さんの右手が添えられる。その手は優しくて……

 

「本人がいないところで女の子を奪い合って喧嘩って男の子はそういうとこあるよね……うそ……ごめんね……。わたしのために色々してくれたんだよね……?」 


「いや……」


 否定しても無駄か。どう見ても秋葉のヤツがすでに事情説明を終えているっぽいな。携帯は便利ですな。

 男友達、裏で暗躍し過ぎだろ……。 


 誰のためにやったかと聞かれれば、自分のためだ。渡したくない者があった、ただそれだけだ。そのために思考を巡らせた、頑張った。この頑張りは、俺が自分で勝手に好きでやったこと。

 でも……それでも誰かに……栗花落さんにこの頑張りを認めてほしかった……のかもしれない。


 今まで張り詰めていた緊張が解けたのか、何かがこぼれ落ちそうになる。それをこぼさないよう、口に手をあて上を向いた……


「――くしゅん!」


 でも、こぼれ落ちた……鼻水が。


「あ~もう……早くチンして」


 栗花落さんはスカートのポケットからティッシュを取り出し、鼻を包んでくれる……子どもか。


「いやいや、自分でするから……ぷしゅー」


「へへっ、天羽くんはモテないよね」


「――二度目!?」


 いや今度は笑いながら言われても。結構傷つくよ、男としては。網走というモテ男と接してきた後だとなおさらね。


「栗花落さんはモテるもんね。学園のアイドルって言われているらしいね」


「えっ? わたし、そんな恥ずかしい異名で呼ばれてないよ!」


「そんなワケ……」


 ……あるわ。秋葉、これも嘘だったか。仕掛けのディテールが細かいんだよ。

 栗花落さんが学園のアイドルと初めて耳にしたのは確か入学式の日だったから……ということはその時点ではもうすでに、秋葉の仕掛けは始まっていたってことか。

 そうなると、網走の栗花落さんへの告白もそれ以前からずっと……。告白するタイミングもへったくれもなかったってワケか。何気にこの話題がヒントのつもりだったのかよ、秋葉。

 じゃあ、網走の異名も嘘だったってことになるな。当たり前か。あんなふざけた異名、存在するワケ……


「するよ。学園二のイケメン、網走くん」


「――すんの!?」


 基準が分からん……。

 じゃあ今回の一連の事件で一番謎なのは、学園一のイケメン誰だよってことになるんですけど。未解決なんですけど。

 あっそうか、なるほど。そういうことか。もしかして……


「俺?」


「へへっ、天羽くんに勝てる相手はいないよ」


 笑いながらとかヒドくね? 俺の顔はそんなにヒドくねー。未解決事件は迷宮入りいたしました。

 まさか秋葉か? 今のこれといった特徴のないラノベ主人公みたいな容姿はフェイクで、本当は超絶イケメンという……さすがにそこまでの嘘はないか。


 それは置いといて、これだけはちゃんと聞いておかなければな。本人から直接、本当の気持ちという真意ってやつを。勘違いは許されないのだから……


「……網走はホントにいいの? 学園二だろうが、イケメンだよ?」


「そうだね。わたしの周りでも網走くんは人気だよ。好きだって言う子はいっぱいいるよ、天羽くんとは違って」


 天羽くんとは違っては今不要だよね? もうすでにモテないよねって二回も言ってるからね? 今ので実質三回だよ?


 でも、話を進める栗花落さんの表情はいつもと打って変わって笑顔はなく、真剣な面持ちだった。その話を聞くこっちも、自然と顔が固まる。


「わたしだって普通の女の子だから、カッコいい人は好きだよ。でもね、容姿は大切だけど求めていったら上には上がいる、そんな不確かなものだよ。だから人はそう簡単に惚れたりしない。容姿を売りにしているだけの人を、わたしは好きにはならない。告白はもっと大切なものだから。好きっていうたった二文字はもっと重いものだから……」


 やっぱり栗花落さんだ。表面上だけでなく、根っからの白だ。天使だ。

 告白って行為、好きっていうたった二文字。俺にそう説いた栗花落さんだ。


 いくら容姿が整っているからといって毎日のように来る日も来る日も告白される、そんなことは現実世界では起こりえない。ラノベヒロインじゃないんだから。魅力99か。お前は劉備なのか? 貂蝉なのか?

 枕詞のように一ヶ月で何十人に告白されたとか、男子生徒全員に告白されたとか、そんなことは決してありえないし、あってはいけない。

 靴箱を開けたらラブレターでいっぱい……靴箱は決してゴミ箱ではないし、バレンタインはチョコレートでいっぱい……食べ物の保管には注意しましょう。

 何故アイツがフラれたのに自分はイケると思った?

 本当に惚れているのか? それとも、うぬ惚れているのか?


 ……言い出したらキリがない。

 つまり、告白など軽い気持ちでできる代物でも、していい代物でもないということだ。

 告白される側がしたやつの気持ちを尊重しなければならないと同等に、告白したやつもされる側の気持ちを考えなければならない。


 ――告白という行為を、好意を、あまり軽んじるなよ。


 網走は地雷を踏んでしまった。

 こう話していても、栗花落さんの口から網走への不平不満など一切出てこない。本当は言いたいことも山ほどあるだろうに、網走さえ守るんだ。

 栗花落さんが網走に何度もしつこく告白されている事実を周りの友達に少しでも漏らしていれば、学園での網走の株は秋葉の言う一番モテている状態にはなっていないだろう。

 美しさは内面からにじみ出るなんて非現実的な言葉があるが、案外本当なのかもしれない。栗花落さんを見ていると、そう思わさせる。

 だって、外見は内面の一番外側なのだから。


 栗花落さんの気持ち、選択が、真っ白に近いその白が、汚されなくてよかった……。

 あんな網走に勝ったことではなく、こんな栗花落さんを守ったことを俺は誇らなければならない。

 この日常こそが俺の誇りだから。栗花落さんとはそういう人だから。


「俺はもう立派に栗花落さんと友達――」


「――ごめんなさい」


「はい、即答~」


「へへっ……」


 友達申請を即答で断られる、これが俺の日常。あぁ素晴らしい灰色の学園生活。

 でも、今回は悪くない回答だ。栗花落さんは少しハニかんだあと、こう答えた。


「……天羽くんとは友達にはならないよっ!」


 そりゃそうだ。友達になんてならない。だって俺たち……


「もう付き合ってるもんね?」


「――あっ! それ、ほんとにどうするの?」


「人のウワサも八十五日だよ」


「長いよ! 七十五日でも長いけど、ちゃっかり十日多いよ! わたしは別にこのままでもいいけど……」


「いいの? 迷惑じゃない?」


「すんご~く迷惑だよっ!」


 ホント……あなたはどこまで優しいんだか。笑みを隠しきれていませんよ?

 栗花落さんの頬はゆるんでいた。ゆるみ切っていた。


 解決法は新たなウワサで上書きするしかないのだが、秋葉のおかげでウワサの効果範囲がそれほど広くないのが救いだ。

 それに幸いなことに、来週まで我慢すればゴールデンウィークだ。大型連休だ。周りに人がたくさんいる栗花落さんの協力があれば、ゴールデンウィーク明けには消え去さっていることだろう。


「今回は甘えさせてもらうよ。栗花落さんが周りの人に否定してくれれば鎮静化も早くなると思うから、それでよろしくお願いいたします」


「……わかった」


「俺には期待しないでね。俺の周りには人がいないから」


「知ってる……」


 あっれ~? いきなり素っ気なくなったんだけど。

 そんなに今の周りに俺と恋人と勘違いされている状況がお好みですか? ラブコメ特有の告白対策の偽恋人ですか? んなワケない。栗花落さんがそんなことをするワケがない。


「どうしたの、栗花落さん?」


 栗花落さんの視線が部屋の隅の方に注がれている。あ~なるほどね。アレに気を取られていたってことか。


「あれって……救急箱だよね? なんで生徒会室にあるの?」


「あ~あれは養護教諭のお姉さんから借りたそうだよ。秋葉のヤツ、忘れていきやがったな」


 生徒会室を片付けるとき邪魔にならないよう部屋の隅に寄せといて、そのまま忘れ去られたかわいそうな救急箱。俺を救ってくれたのに申し訳ない。

 あとで保健室に返しておかなければな。


「……よかったら天羽くん、わたしが手当てし直してあげようか? 結構湿布とかくちゃくちゃだよ?」


「あ~別にいいよ。どうせ今日はもう帰……」


 ……待てよ。秋葉のヤツ、わざとか? いや、考え過ぎか。

 救急箱を持ってきたのも秋葉。救急箱を置いていったのも秋葉。栗花落さんを呼んだのも秋葉。雑な手当てをしたのも秋葉。「今はそれくらい我慢しろ」って言葉は、(あとで栗花落さんにちゃんと手当てしてもらえるから)今はそれくらい我慢しろって意味か……?

 俺が本当に主人公ならば普通、この手当てはヒロインがやってくれるわ……まさか。アイツが言った主人公にはここまで含まれていたということか。

 秋葉は俺と栗花落さんをどうしたいんだよ……。アイツの心が読めない。

 フッ……でも、友達の仕掛けには乗ってあげるのも友達の仕事か。


「あ~痛い、痛い。やっぱ手当てし直してもらってもいい?」


「うん、いいよ」


 栗花落さんは軽く承諾し部屋の隅にあった救急箱を机に置き、手当てに必要な道具をもろもろ出していく。


「じゃあ天羽くん、こっち向いてじっとしててね」


「普通、膝枕で手当てじゃないの?」


「――どこが普通なの!?」


「ラノベでは普通」


「はいはい。現実をみましょうね、現実を」


「痛い……優しくして」


 ふざけた分、勢いよく湿布薬がはがされる。

 秋葉とは違い、手際よくかつ丁寧に処置が行われていく。まるで母親のように……


「痛いの痛いの飛んでけ~」


 ……母親だった。


 シュシュ。ペタ。

 チョキチョキ。ペタリ。


「よし! 完了だよ」


 わずか一分足らずでこの出来栄え。秋葉の処置も見た目は悪かったが、正確だったとこがまた怪しいものだ。

 消毒や絆創膏の傷の手当てや患部の冷却など、秋葉と処置方法はあまり変わらないが、湿布薬にシワなどなく形も整えられている。さっきまでそのままの形をぺーン! と貼っただけだったので、ずいぶん顔がすっきりした。

 一発殴られるだけで栗花落さんのこの手当てを受けられるなら喜んで殴られるヤツもいるかもな。はぁはぁ、もっと殴ってください、もっとぉ!! ってヤツはいない。そして俺はMではない。


「ありがと。もう一生、顔洗いません」


「それ、アイドルとかに握手してもらったときのやつ!」


「本当に数日は洗顔は控えるよ」


「ちゃんと毎日絆創膏とかは変えるんだよ? 顔は大切にね。天羽くんは顔しか取り柄ないんだから」


「ヒドい……。俺に勝てる相手はいないんじゃなかったの?」


「そうだよ。だから、天羽くんに勝てる相手はいないよ」


「……あぁ、なるほど」


 俺の右に出る者はいない、か……。

 自分の容姿はそこそこ整っているとは思っていたが、そこまで評価されていたとはね。 

 でも、今となってはそんなことに意味はない。どれほど容姿が優れていようが俺に近づいてくるヤツなどこの学園にはいない。

 結局、網走みたいに上手くやっているヤツが人気者となる。本性をさらけ出したか隠しているかの違いでこの差。

 外見に優れ、内面に影を落とす点で似た者同士でも現実世界なんてこんなもんだ。性格を妥協する人は少ない。てかいない。

 でも俺は……後悔など一切していない。


「へへっ、うそだよ。わたしは天羽くんの良いところ、他にもいっぱい知ってるよ?」


「例えば?」


「例えば……例えば……例えば……そんなことより」


「それはホントにヒドくね? 一つくらいあるでしょ? 例えば……例えば……」


 ……自分でも全く出てこねー。もう例えば例えば詐欺だよ。例えばと言って相手から情報を引き出す新手の詐欺だよ。母さん助けて詐欺くらい流行んないよ、これ。


「天羽くんの良さは……」


 俺の良さについて語る栗花落さんの表情からはいつしか笑顔は消えていた。


「天羽くんの良さは身近にいる人にしかわからないよ。誰がなんと言おうと、天羽くんはわたしにとって勇者だよ……」


「栗花落さん……」


 そう言ってもらえると、俺の心は晴れるよ。自分の選択した行動が正解でなかったとしても、間違いでなかったと思えるから。

 その言葉とそれを真面目に語ってくれるあなたの表情で、こんな怪我なんて痛いの痛いの飛んでいったよ。

 それに……


 しれっと良いところを一つも挙げていないことは俺気づいているよ? 痛みだけでなく、良いところも飛んでいっちゃったのかな?


「大丈夫?」


 栗花落さんは心配そうに尋ねてくれる。

 大丈夫かと聞かれれば大丈夫だ。俺にとっての隣、栗花落さんにとっての隣。この生徒会室でのいつもお決まりの椅子配置が、日常が、ここにある。

 栗花落さんが離れていってしまう恐怖に比べれば……大丈夫。


 この俺の近くにいてくれる人だけ大切にすればいい。それ以外の人間は……切り捨てても構わない。


「いたい……」


 頬が痛いのか、それとも一緒にいたいのか。答えは当然……

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