16話 『友達<恋人?』
我が私立皇来学園。全校生徒1000人ほどの一般規模の学校。
男子生徒が一人だったり、生徒会に絶対的権限が与えられていたりはしない、普通の学校である……とはいえ、普通かどうかなどは人の主観によって変わる。人それぞれだ。
「学園一のイケメン?」
「学園二のイケメン」
秋葉の言い間違いか? いや、俺の聞き間違いか。聴力落ちたのかな……。
「でその学園一のイケメン君が――」
「――だから、学園二だって。『学園二のイケメン、網走』ホントに知らねぇか?」
何その、良いはずなのにちょっと侮辱されてる感あるキャッチフレーズ。
むしろ、学園一は誰なんだよ。てか、またキャッチフレーズですか……。流行ってるのか? いや、流行らせたのか。
秋葉の話によると、栗花落さんに告白していたのは、学園二のイケメンの異名を持つ、あの網走だったらしい。
俺からしたら、どの網走ですか? という話だ。
結局、終始ニコニコしていた栗花落さんは特に何も話してはくれなかった。
当然か、そうでなくては困る。告白話を自慢げに語るようなヤツに、ロクなヤツはいない。もちろん、これも持論だ。
それに俺は、聞きたかった? それとも、聞きたくなかった……?
……まぁ、これで秋葉の網走に対する謎の評価の高さにも合点がいった。
部活でベンチだろうが、ナルシストだろうが、学園二番目だろうが、イケメンだ。容姿が優れているってことだ。
なら、全て解決だ。特段の事由でもない限り、ハーレム主人公でなくともモテモテだ。人気者だ。
そら、栗花落さんも嬉しそうだったわけか……。
そんな栗花落さんは自分の席に戻っている。当たり前だ。昼休みが終わり、今は五限目の授業中なのだから。
皆が奏でる教科書のページをめくる音に合わせるかのように、俺も本のページをめくる。
「この学園、恋愛禁止じゃなかったっけ?」
「そんな校則はねーよ。アイドルか」
「恵ちゃんは学園のアイドルだ」
「さいですか……」
栗花落さんの様子を見た秋葉は、アイドルの熱愛発覚ばりに落胆していた。いや、真剣に落ち込んでいるということではない。別に失恋ではなく、ファン心理みたいなものだろう。
本当にアイドルだったとしても、アイドルの言葉の意味は偶像だぞ? と言うほど俺はヒドイヤツではない。
でも授業中に体をひねり、堂々と後ろの席の俺に向かって話しかけてくるなとは言ってやりたい。
「天羽、校則で学園内での恋愛は禁止にしてみる気はない?」
「俺は別に構わねーが、生徒会にそんな権限はない」
「どうせこの学園、カップルとかいないだろ?」
「俺が知るか。いるかもしれないし、いないかもしれない。信じるか信じないかはお前次第だ」
「信じない」
「さいですか……」
そろそろ授業も半分過ぎたころかな……
タッタッタッタッ、チョークで書く音。ページをめくる音。英単語がビッシリの黒板。窓から入ってくる風。
俺は、窓際の席で空を眺める……。
「主人公か!」
「うるさいぞ、秋葉。授業中にがっつり話しかけてくんな。学校は、登下校と休み時間と放課後だけじゃねーんだよ」
学園ものではほとんど描かれないが、学校にいる間はほとんどが授業中だ。学生の本分は勉強だ。
そして俺は、立てた教科書に隠れたライトノベルをめくる。
「天羽、今日生徒会室行くんだろ? 恵ちゃんに詳しく聞いといてくれよ」
「なんで俺に頼む? お前の無神経さなら自分で聞け、探れ」
「オレが無神経? 何を言ってるんだよ。そんなはずないだろ」
秋葉は鼻で笑い、否定する。
さほど親しくもないのに名前で呼ぶことを人はそれを無神経という、と言ってもコイツには分からないのだろうな。……鈍感。
人との距離感がはかれないのは悪いことなのかもしれないが、はかれることが必ずしも良いとは限らないか。
また、ページをめくる。
「恵ちゃんが彼氏持ちになってたら、どうすんだよ?」
「なぁ秋葉。友達は何人いてもいいのだったら、恋人も何人いてもいいという法則ってありだと思う?」
「いきなりどうした?」
「いや、別に……」
また、ページをめくる。ジャンルはハーレムラブコメだ。
目の前にバカみたいな鈍感がいて、女の子を囲っている話を読んでいたら、そう考えてもおかしくはないだろう。
自分ではそう言ったものの、それ以前に恋人どころか友達すら何人もいない。それどころか一人もいない、ぼっちだ。何故だ? 友達について考えてみよう……って、友達いないと考えようがねーわ。
そういえば秋葉は友達? あれ? 友達の線引きってなんだったっけ?
ページをめくる……これには載ってないか。
いや、そもそも……
「友達って恋人に劣ると思うか?」
「そりゃあ、そうだろ」
「でも友達、大切だと俺は思うけどな」
「天羽、友達なんていたっけ?」
「いっ、いるわ。めちゃめちゃいるわ。毎日家に帰るころには、しゃべりすぎて喉カラカラだわ」
「それに関しては、水飲めよ」
ツッコミどころはそこか。
余談だが、「いってきます」の次に発した言葉が「ただいま」だったことなんか……あー悲しい。
「お前は友達いないだろ?」
自分で聞いていて、悲しくなる。
ぼっち系の話はブーメランのように自分に刺さると、哀との会話で勉強したはずなのに。やはり学生の本分は勉強だと、学ぶことが大事である……と考えていたが、秋葉の返答は俺の中では予想外だった。
「うん、オレはお前一人いればそれで構わないけど」
「あぁ、ありがとう」
秋葉は真顔でそう答えた。俺もつい思わずお礼を言ってしまった。
――コイツ、回答カッコよすぎるだろ。俺も次からは聞かれたらこう言おう。
俺たち、もう友達だったのか。これが、友達はなろうとするものではない、なっているものだ、かぁ~。
友達ということは、親しいということだ。
「……秋葉、お前のこと名前で呼んでいいか?」
「なんだよいきなり。別にいいけどよ……」
「みつる」
「誰だよ!」
「あれ? 違ったか?」
「全然違ぇわ! かすりもしてねぇわ! オレの名前は――」
「――やべ、みつる。先生板書終わるから前向け」
案外、苗字で呼んでいると下の名前が出てこない。
みつる……でも大体そんな感じだったような、約みつるだったような。
……そんなことより、睨まないで先生。俺の声だけ拾ったの? 俺のこと好き過ぎだろ……。
「少年、ワタシの授業は退屈か?」
「いえ、英語の授業が今俺の人生の一番の楽しみです」
「そうか、それは光栄なことだ」
先生はカツカツとヒール音を鳴らし、再び教壇を闊歩する。
その頃一方秋葉は、ソッコーで前を向き真剣に聞いている雰囲気を醸し出している。
ったく、そういうところが信頼できる。だって逆の立場なら、俺もそうするつもりだから。友達とはそういうものだから。恋人の為なら切り捨てる、そういうものだから。




