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恋人以上×妹未満。  作者: しすたー遠藤
17/32

15話   『NTR』

「栗花落さん、好きだ。付き合ってください!」


 どんよりとした雲が地上を覆う今日、愛の告白を……


 ……。

 ……。

 ……。

 ……。


「天羽、おっす」


「秋葉か。今日は学校来たのか?」


「英語あるからな。そんなことより、こんなとこで何してんだ?」


「いや……。俺もただ休憩しにきただけなんだけどな……」


「あっ、恵ちゃんじゃん」


「……帰るぞ、秋葉」


「天羽、見て行かねぇの?」


「見てどうするよ?」


「あれって……アレだよな?」


「そうみたいだな。邪魔すんのも悪いし、行くぞ」


「わーったわーった、行くよ」


 俺らは体育館裏を後にし、教室に向かう。

 秋葉は英語の授業がある日を登校の目安にしているらしく、週2、3で登校してくる。……バイトか。それに今はもう昼休み終わりそうな時間だ。


「ついに恵ちゃんも告――」


「――髪切った?」


「切ってねぇよ! オレの台詞、邪魔してまで言うことか!?」


「噛み切った?」


「何を!?」


「で、秋葉。お前は何故登校していきなり体育館裏になんかに来る必要が?」


 体育館裏は簡易灰皿が置いてあるだけの喫煙スペースなので、めったに人は来ない。俺もたまに休憩に使うが基本誰も来ない、そんな場所だ。今日はそのたまに、の日だった。

 

 愛の告白を……目撃してしまった。

 

 栗花落さんが告白される。まぁ、そんなこともなくはないだろう。秋葉も学園のヒロインだと言っていたし。

 それより、人の告白シーン目撃するって確率的に結構すごいことだよな……。


「ま、まぁ、今はそんなことはいいじゃねぇか……。それより恵ちゃんだよ」


「秋葉、そう落ち込むな」


「オレ、フラれてねぇよ! でも、フラれたもんかもしれねぇー!」


「お前はフラれても当然だが、どういうことだ?」


「ヒドイぞ、天羽。分かるだろ? 相手、アイツだぞ?」


「ん? 秋葉、相手の顔見えたのか?」


「あぁ。オレ視力いいからな」


 女性の方は聞き馴染みがある声なので栗花落さんと認識出来たが、相手の方は全く分からなかった。

 視力が悪い俺からしたら視力が良いことは、羨ましい限りだ。でも日常生活には大して困ってはいない。黒板の板書やパソコンなど、細かいものを見る時はさすがに眼鏡を掛けるが。


「相手は誰だったんだ?」


「三年のあの網走あばしりだよ」


「……あ~はいはいはい、あの網走さんとこの息子さんね」


「――誰だよソレ! ……おい天羽。お前、ホントにあの網走のこと知らねぇの?」


「しっ、知ってるに決まってんだろ。あの網走だろ?」


 俺の頭の中には、一つの疑問が湧いていた……それはもちろん、

 

 ――網走って誰だよ。

 

 何? 知ってて当たり前のヤツなの? あの網走って言われたらすげー聞きづれーわ。つい俺も、あの網走って言っちゃったよ。網走……人気者のヤツなのだろうか?


「あの網走ってあの~……アレだよな? 確か……アレでアレな人だよな?」


「アレってどれだよ? あのサッカー部の網走だよ」


「そう、サッカー部のエースのあの網走だよな」


「網走はゴールキーパーだぞ?」


 ――なんでだよ! 人気者といえばエースじゃねーのかよ。


「そうだった。すごい守備力でガッチリ、ゴールマウスを守っているあの網走だよな」


「網走はベンチだぞ?」


 ――なんでだよ! 何ガッチリ、ベンチ守ってんだよ。ベンチのゴールキーパーはなかなか出番回ってこねーぞ。サッカーあるあるだ。


「そうだったそうだった。ベンチで仲間を鼓舞する姿が、まさに十二人目のプレイヤーって感じのあの網走だよな」


「網走は試合中ずっと、鏡かどうかも分からない反射する細いところ見て髪型セットしてるらしいぞ?」


 ――栗花落さん、フッちゃっていいと思うよ! たまにいるよな、そういうヤツ。お前の髪形なんて誰もそんなに見てねーよ。それに、そこは鏡じゃねー。






 秋葉とぶらぶらグダグダと散歩して時間を潰していたが、腕時計を確認するとそろそろチャイムが鳴る五分前だったので俺たちは三年B組に戻った。お互い窓際の自分の席に腰かける。

 教室を見渡してみたが、栗花落さんはまだ戻っていないみたいだ。あれから、ある程度時間は経ったのだが……。相手の網走ってヤツは、もう戻ってきているのだろうか。


「天羽、お前一応生徒会長だろ? 同級生のことくらいは知っておけよ」


「まだその話かよ。さっきのはウソに決まってるだろ。あの網走ってのは……あの人だよな?」


「あれは佐藤だ」


「じゃあ、あの人」


「あれは鈴木」


「じゃあ、あの人にする」


「もう、あの人にするって言っちゃってんじゃん! ……天羽、お前」


「よく気づいたな。そうだ、俺があの網走こと天羽蓮だ」


「バカか。天羽ホントに知らねぇの? 隣のクラスのあの網走」


「隣のクラスかよ。なら知るワケねーだろ。俺はクラスメイトのことぐらいしか知らん」


「今クラスメイトすら知らなかったけどな……」


「ってか秋葉、お前はなんでそんなに覚えてんだ? まだクラス替えから二週間程度だぞ? しかも、ほとんど学校来ないくせに」


「ん? 別に普通だろ」


 カッコいいな、コイツ。

 それに比べ俺は、どうせ話もしないヤツの顔と名前など覚えて何になる? と考えてしまう。ぼっちになって、ずいぶんと歪んでしまったものだ。

 ……って、コイツもぼっちだった。性格の差ってやつか。


「で、天羽どうする?」


「どうするって何を?」


「恵ちゃんのことだよ」


 どうする? と言われても……。俺、部外者だぞ。当然、秋葉お前もな。


「相手が栗花落さんにフラれて終わりじゃねーの?」


「だから言っただろ? あの網走だぞ」


「いやそう言われても、お前から聞く限りその網走とやらがフラれるシーンしか目に浮かばないけど?」


 なんだ? 秋葉の網走とやらの評価の高さはおかしくないか?

 ベンチのナルシストゴールキーパーがモテる時代でも到来したのか? それとも、良い所が特になくてもモテモテなハーレム主人公なのか?


「だって網走は――」


「――天羽くん今日放課後、生徒会室行く?」


 振り返ると、そこには栗花落さんが立っていた。あの網走とやらに告白をされていた栗花落さんがご帰宅されていた。


「……」


 ……何、このちょっと気まずい感じ。ご本人登場ってヤツですか? 告白を覗き見した罪悪感は多少あります。


「……うん、行く」


「天羽、天羽」


「なんだよ?」


 秋葉が肘で押してくる。多分、俺に先ほどの告白の真相を聞けってことなのだろう。俺も気にならないと言えばウソになるが。

 華麗な誘導テクニックで聞くか……


「栗花落さん、今日いい天気だね」


「今日、曇ってるよ?」


「栗花落さん、今日何かいい事あった?」


「――えっ、何? いきなりどうしたの?」


「いや別に。さっき体育館裏で何かあったような目をしていたから。目を見れば分かる」


「そんなんで分かるか!」


 痛っ。秋葉に頭を叩かれる。

 目を見れば分かる……フッ、その通り。そんなんで分かってたまるか。


「もう少しオブラートに包んで聞けよ~」


 秋葉が不満げな顔を見せているが、知ったことか。

 何故かちょっとやけくそになっている自分がいる。だって、栗花落さんの表情が……


「ちょっと二人ともなんで知ってるの、もう!! 見てたの!?」


 栗花落さんの表情は怒ってなどいない。いつも通りの明るい笑顔。むしろ……


「ちょっとぉ、もぉ~。天羽く~ん!」


「……」


 両手で肩を掴まれ、グリングリンと揺れされる。

 そんな栗花落さんは、いつもよりテンションが高いように感じる。

 本当に今日何かいい事でもあったようだ……。


 ……告白されたこと、か。

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